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BC5xxx年、超古代文明は富士の地にあった……てか興した  作者: 枝垂みかん
第一章

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9/31

鬼ごっこ


 土器黒板に描いた絵図を貝殻チョークでコツコツコツと突っつきながら、


「遠方との交易は、富士川を下った先の駿河湾を利用っと。主な交易品は、各地から海を渡って運ばれてきた翡翠や琥珀、地元でとれた大きな貝殻などの装飾品素材。あと海魚もか。こっちからは織物など加工品を提供……」


 巫女さまは誰ともなく。


「で、近郊はセノ海西側の天子(てんし)山地を越えて、富士川沿いに北上。このルートを使って甲府盆地・金峰(きんぷ)山方面の人たちとも交易している、っと。中継地は身延(みのぶ)あたりかな?」


 だんだん黙ったままも苦しくなってきたな。


「富士山東側と交流がないのは不思議ぃ。伊豆方面と関東地方との玄関口になるのに。あっ、そういえばいまの山中湖って、もっと大きい宇津湖だったよね? そっちも行ってみようかなぁ」

「たぶん僕が住んでいたのは、このあたりです」


 だから僕は、なんの気なしに覗き込んでいた横から指を指した。


「——わかるの⁉︎」


 さすがに驚きすぎではないか。


中つ海(ナカツミ)に住んでいたと言ったのは、僕ですよ」

「そ、そっかそっか。オヒトくんの出身は河口湖あたりだったもんね」


 たしか『空から見た図』という説明だったけど、そんなものをどうやって確かめるのやらだ。やはり常世の知恵は難しい。

 でも、いくらなんでも自分が話して描き込まれたところくらいは覚えている。


「……また童扱いしましたね」

「してないしてない」


 巫女さまは手も首も左右へ振って否だと。

 そこへ側付きが咳払いを一つして、


「ところでオヒトどの」


 いつまでここにいるのかと。


 神降し以降——巫女さまが倒れられたあと、側付きの態度はだいぶ変わった。

 これからもっと大変な役目になるというのに、むしろ重責が解かれたような……。


「なにか?」

「いえ、なにも」


 巫女さまと他とを線引きするみたいな冷たい態度は相変わらずだけど、それでもだいぶ柔らかくなったと思う。いまも、以前ほど有無を言わさずってキツさは感じない。


「オヒトくん。あたしはまだしばらく調査ルートを考えるから、悪いんだけど」

「またですか?」

「うん。外で鬼ごっこしてて」


 これが一番童扱いされてる気がする、が、やってみると意外と楽しいんだ。


「わかりました」

「聞き分けよくて助かるよ——っとと、なんでもないなんでもなぁい」

「……では」


 というわけで巫女さまの室から広場へ。

 五〇段を降りていくと、


「おひとどのおひとどのー」


 童らが寄ってくる。もちろん鬼ごっこの誘いだ。


「じゃあ円を引こうか」


 どういう遊びかというと、だいたい渡りが一〇歩くらいの円のなかで、僕が鬼役の童たちに触られないよう逃げまわるんだ。


「皆、巫女さまに言われたことは覚えている?」

「「「たいそーう」」」


 と応えるなり、童たちは屈んで跳ねて。上体を逸らしたり手や足をグルグルまわしたりもした。

 それが終わると、こんどは前後へ左右へビタンビタン。地面に手をつき自ら転ぶんだ。もちろん僕もやる。

 あちこちが土まみれになったところで、


「「「できたー‼︎」」」


 元気な声で急かされる。

 これらはどれも巫女さまの勧めがあって。

 なんでも、あらかじめ身体をほぐしたうえで転ぶ習いをしておくと、ケガが減るのだそうだ。たしか『どうてきすとれっち』がどうのと説明された。


 五人の童と、対する僕。


「「「わぁああ〜!」」」


 幼い童らは無邪気に追いかけてきて、年長の童はそれなりに考えを巡らせて僕を捕まえようと動く。

 それぞれをギリギリで()なし、円の外へ。

 基本的に僕から触れるのは禁止だが、背中を軽く押すくらいは許されている。


 勝敗は、童ら全員を円の外へ出すか、疲れ果てて諦めたら僕の勝ち。それまでに触られたら僕の負け。


「おひとどの、つっかまえたー」

「……やられた」

「「「わーい!」」」


 簡単そうに見えて、実は思ったより難しい。童相手だというのにけっこう負けてしまう。

 低い位置から寄ってこられると広く見渡しにくくなり、かといって全体へ目をやると足元が疎かになる。

 さらに一〇歩ほどの円のなかなので、素早く躱わすことと、緩急をつけた足捌きが求められるんだ。

 

 こんなふうに童の遊び相手をしていると、


「おう男弟どの、面白そうなことしてるな」

「オレらも混ぜてくれよ」


 ちょくちょく彦が寄ってくる。

 この場合、僕が相手に触れていけないという枷はなくなり、押しても掴んでも足を掛けても、なんなら投げてもよくなるんだ。

 とにかく思いっきりやれと巫女さまは言っていた。


 ちなみに今回やってきたのは、狩猟を得意とする山辺(やまのべ)ノ彦と、河の行き来を担う川渡(かわたび)ノ彦だ。

 どちらも役目に相応しい立派な彦で、愉快な(タチ)というのもあり、媛たちからも人気。こないだの宴でも、たくさん声をかけられていたっけ。


「じゃあオレからな」


 と、背の高い山辺ノ彦がズンズン円のなかに。

 えっと、僕が受ける側なんだけど……。


「まだ(りき)の残ってる童たちもまとめてこい」


 ニカッと笑みを浮かべられて、ムカッとした。

 だから真っ先に飛び込む。正面からの力比べだ。

 僕は童じゃないぞ、もう一人前の彦なんだぞ!


「やるなぁ男弟どの」


 こっちは歯を食いしばって声もあげられないのに、山辺ノ彦は平然と話しかけてくる。

 しかし僕の悔しさなんか関係なく、童たちは『いまだ!』とばかりに——たったか駆け寄るも、


「おおっと、そうはいかねぇ」


 山辺ノ彦はあっさり躱わす。

 その際、取っ組みあっていた僕を抱え上げ、童たちとぶつからないように気を配る優しさまでみせて。


「……もう僕の負けでいいです」

「そうかい。おう川渡ノ、オメェもどうだ?」

「オレは見ている方が楽しい」

「それもそうだな」


 ここから山辺ノ彦と川渡ノ彦は、童たちの入れ知恵にまわり、僕がヘトヘトになるまで鬼ごっこはつづいた。



 翌朝——

 僕は巫女さまの『ふぃいるどわあく』なる歩き回りのお供をすることに。

 他の同行者は山辺ノ彦と川渡ノ彦と、あと一人。

 最後に広場へやってきたのは、


「めっちゃ(いか)つッ」

 

 集落の守りを司る周防(すおう)ノ彦だった。


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