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BC5xxx年、超古代文明は富士の地にあった……てか興した  作者: 枝垂みかん
第一章

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8/31

巫女さまレポート①


推定「憑依転生現象」当該地における集落環境調査および現在地(年代)同定ノート


調査対象:

 フシの大山北麓・セノ海湖畔に位置する現地人集落郡


調査目的:

 調査者自身が置かれた推定「憑依転生現象」の現況把握のため、当地の生活環境・物質文化および社会構造を網羅的に観察する。

 さらに、調査者が過去に転生したと仮定のうえ、考古学的データ・地質学的データ、双方を用いて当地の年代を同定。以降の生存戦略の基礎ソースとする。


調査者:

 巫女/私立F大学 文学部考古学専攻2年 柵山さくら


調査日:

 現在計測中


調査地:

 フシの大山麓・セノ海湖畔に位置する縄文人集落。

 調査者自身の憑依転生先が、異世界ではなく過去の日本列島であることは、当地の儀式で使用された土偶および地形から推測。

 地形より当地は富士山北麓・セノ海(本栖湖南岸)の縄文人集落であると推定した。



観察された物質文化および生態データ


1.土器・木工技術


深鉢土器、注口土器

 非常に精緻。縄目模様が明瞭。重要文化財クラスの造形美であり、煮炊きや貯蔵、注水機能が完全に分化している。


高杯

 食膳具として使用。漆器、あるいはそれに準ずる赤色塗装らしき光沢を確認。


編籠

 植物の繊維を均一に編み込んだ籠が蒸し料理に使用されていた。


土偶

 新生児の成長祈願の形代とされていた。また、形状は身近な動植物をモチーフにしたものなど多彩であった。

 また、当地の祭祀で破砕に失敗した土偶は、調査者がAD20XX年において愛称を命名予定だった出土品と酷似。



2.家族観と社会


母系社会

 子供は「かか」の元で養育され、共同体全体で保護。また「とと」の概念が極めて希薄。

 夜間の自由な男女交際・婚姻形態によるものと推測される。


階層化の兆候

 セノ海湖畔に点在する複数の集落は、「巫女」による祭祀と政を軸に一つの共同体として結びついている。

 また、当地の貞操観念には隔たりがあり、巫女に限っては血統の管理と厳格な儀礼的タブーがある。しかし一方で、一般層は極めて奔放だ。



3.食生活と生業


食生活

 鹿肉や猪肉などのジビエ、魚介類※注1、トチ※注2など。木の実や果実もあり、果実から酒も作られている。


※注1 河や湖などの淡水に棲息する魚介が主であった。しかしアワビやタイなど海水の魚介も少数発見。頻繁に交易が行われている示唆か。

※注2 アク抜き技術の存在を示唆か。


生業

 栽培イネ(米)の形跡が一切なし。狩猟採集と手工芸品の物々交換による経済。



4.地形および地質


フシの大山(富士山)の山容

 山頂部がAD2000年代よりも崩壊した、あるいは噴火活動による火山灰の堆積が見られる。

 山体が「新富士火山」の初期段階特有の荒々しさを持つ。


セノ海の広がり

 広大な湖がそのまま存在。貞観大噴火の溶岩により本栖湖・精進湖・西湖に分断される前の、ひとつの巨大な湖沼原を形成している。


集落の位置

 当地は、のちの青木ヶ原樹海の一部と推測。



5.衣服・繊維文化


基本形状

 彦は腰下丈の貫頭衣に下穿き(ハーフパンツ)を履き、帯を腰で結び、下腿には脛巾を巻いていた。

 媛や童は膝丈の貫頭衣を着用。貝輪や首飾りなど装飾品を多く身につけていた。

 男女共通してデザインは縄文的であり、皮革や植物繊維製の草履・靴を履いていた。

 若干の違いはあれど、教科書どおりの縄文後期から弥生のイメージである。


時代不相応な違和感

 被服の意匠に問題はなかったが、生地そのものに焦点を当てると明らかな違和感を覚えた。

 糸の太さが均一すぎる。織り目が驚くほど細かく、しかも一定。余暇の時間が多いとしても説明がつかないほど、衣服や装飾品の品質のみが突出している。

 明らかに原始的な編布や樹皮布の手作業による不均一さとは異なる精度であり、以上から推測される紡錘・織機の使用も確認。

 しかし、技術確立または伝播について、使用者らは経緯不明と回答。



6.労働時間・生活様式


彦(成人男性※注3)

 陽が昇ると起床し、集落から離れて狩りや採集へ。正午すぎには集落へ戻り、以降は採取物の処理。または素材の加工。

 これらの作業は断続的に休息を挟みつつ継続。実質労働は4時間未満。


媛(成人女性※注3)

 子供の世話、煮炊き、編み物、採集が中心。媛の採集は集落近隣の管理された林にて、木の実や果実の採集が主。

 彦らと同じく労働と休憩の境が曖昧。


嫗(老齢女性)

 実年齢は不明。対する翁(老齢男性)は見当たらず。

 西暦2000年代ではまだまだ現役とされる歳であると推測。主な仕事は媛と変わらないが、より緩やかに労働している。


※注3 当地では男女ともに中学生ほどで成人とされている。



7.全体所感


 ここまで、フィールドワークと集落民からのインタビューにより得た情報をまとめてみたが、率直に、理想的なスローライフかに思えた。

 観測者のイメージより遥かに衣食住確保の難易度は低く、正午過ぎの食事のあとは、それぞれ余暇の時間を潤沢にとれていたのだ。

 しかし衛生面や医療技術に課題は多く、出産における危険度、その後の新生児や幼児の生存率は著しく低い。この悲しい現実から目を逸らしてはいけない。

 また、男弟と同年代がほとんど見当たらない要因にも考慮が必要か。

 人口比は20代から30代を中心とした歪なゴブレット型構造である。



[検証]現在地(年代)同定における致命的な、ねじれ


仮説A 物質文化からの年代推定

 儀式で使用された土偶の形質、および精緻な注口土器、漆塗りの高杯の存在。

 これらは日本の考古学編年において、社会と文化が成熟した縄文時代後期(BC1500年からBC1000年)」の特徴と一致。


仮説B 地形学からの年代推定

 新富士山初期段階の地形的特徴から推測した場合、当地は、およそ縄文早期末から前期初頭(BC5000年)のフェーズを示している。


[結論]

 仮説A(後期)と仮説B(早期から前期)のあいだに、約3500年以上の致命的な時間的乖離が存在する。

 ていうか一万年以上の期間を縄文時代の一括りって、さすがに乱暴すぎるのでは? 前期と後期でもぜんぜん違うし。縄文軽視も甚だしい。

 ムリムリもうムリ。首かしげ。お手上げ。意味不明すぎて草も生えない。結論は「とりあえずあいだとって縄文中期」ってことで!



[巫女メモ]


 ここの人たちのアミニズム的な価値観からか、または別の理由があってか、巫女に憑依したあたしを「神降し」と拍子抜けするくらいあっさり受け入れてくれた。

 とくにソバツキさん。以前の巫女を一番知ってる彼女が最も拒絶しそうなのに、そうでもなかった。

 でも不仲だったふうでもないし、なにか事情があるのかも。でもまだそれを聞けるほどの仲じゃない。


 令和のあたしは日焼け止め塗ってても年中こんがり肌だったのに、いまの巫女さまボディは透き通るうるうる美肌。

 たぶんハイティーンくらいの若さもあってか、瑞々しさが半端ない。長くてキレイな黒髪も、お姫様感がパない。


 でもこの身体、引きこもり気味だったからか運動神経がすこぶる鈍い。鈍すぎる。こないだも貝塚で転んじゃったもん。

 この点については専門外だから明言は避けるけど、憑依したってのも理由だったりして。

 というかこの分野の専門があるんなら、ぜひ受講してみたい。

 あたしってオカルト史観にも寛容だし、けっこう楽しめそう。単なる興味と片付けられない当時者の今だと、さおさら。


 縄文時代中期(仮定)の人たちは、みんな(オヒトくんとソバツキさんを除く)は陽キャなオシャレさん。

 でもすごく理知的な面もある。

 たとえば、手品のタネを黙っててくれた。ちゃんとエンターテイメントをマナーをもって楽しめるんて、すごいことだよ。

 ぜひ、AD2000年代のSNSに棲息するネタバレ厨は、縄文時代からやり直してもらいたい。


 ここで触れておかないと逆に意識してるっぽくなりそうだから、オヒトくんの話を少しだけ。

 あたしも郷にいれば郷に従う日本人。だから彼との結婚について文句言うつもりはないの。なにげにけっこう可愛いとこもあるし、しっかり者ぶるところなんてとくに。

 でも最低あと5年、いや、少なくとも3年は引き延ばしたい。だってあたしの精神年齢から考えたら、いくらなんでも犯罪だって。

 あと印象深いのは「強い彦になりたい」って言ってたこと。あれにはお姉さんキュンでした。てへっ。

 まさかあたしに「力が欲しいか? ならばくれてやろう」をやる日がくるとは!


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