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BC5xxx年、超古代文明は富士の地にあった……てか興した  作者: 枝垂みかん
第一章

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貝殻チョーク


「……ここには道具にできる貝なんてありませんよ」

「大丈夫。目的はアクセサリーとか鱗取りの貝刃(かいじん)を作ることじゃないから」


 と言って、巫女さまは捨て場へズンズンと入っていってしまうんだ。ザクザク勢いよく貝を踏み割りながら。

 もちろん僕も慌ててあとを追った。


「もっとゆっくり! 転んではケガをしてしまいますよ。割れた貝はとても鋭いのです」

「わかってるって——って、ふおッ‼︎」

「どうされました⁉︎」

「めっ……ちゃ磯の匂いが濃縮されてて……」


 ああ、臭いのか。


「なさりたいことを仰ってくだされば、僕がやりますので」

「だから大人しくしてろって? 言ったでしょ、そういうのはダメッて。ていうか、あたしこう見えて発掘調査には慣れてるから。高校生の頃からやってたし。講義ほっぽりだして掘りまくってたし」

「わかりました。わかりましたから」


 なにか自負があるのだけは伝わった。でもいまにも転びそうで……。


「ぜんぜんわかってなぁい!」

「わかりましたって。お願いですから足元には気をつけてください」

「それだよ、それっ。いってもオヒトくんの方が年下なんだからね。お姉さんであるあたしの面倒をみてるみたいな態度って、どうなのって——キャ!」


 ——ええい、言ったそばから! こっちを向いて歩いてるからだ。

 巫女さまはズルリと足を滑らせ、後ろ倒れに。

 もちろん僕が咄嗟に回り込んで支えたので、大事には至らなかったけど。


「ふぅ〜。あっぶな。助かったよオヒトくん。ありがとう」

「ケガはありませんか? 足を切ったりとか」

「うん、平気……」


 いつまでも巫女さまを後ろ抱きにしているわけにもいかない。だからそっと背を押して離れてもらった。

 すると向き直るなり頭を下げ、詫びてくるんだ。


「ホントごめんなさい! ずっと気をつけるように言ってくれたのに」

「いえ」


 役目ですから。以前ならこのように応えていたんだろう。

 でもこのとき僕は、


「これからは、あらかじめなにをされるおつもりか教えておいてもらえませんか? ご様子から、ここに心惹かれるモノがあるというのは察せています。ですが巫女さまになにかあれば、……皆が困りますので」


 などと、立場を弁えないことを言ってしまったんだ。


「そうだね、言うとおりかも。あたしの考古学的な興味っていうのもあるけど、とにかくなにかしてないとソワソワしちゃって……。でもすごく反省した。これからは、ちゃんとオヒトくんに話してからにするねっ」


 たぶん、似た感覚を僕は知っている。


「やはり客人(まろうど)として現世(うつしよ)にいらしたばかりでは、落ち着きませんか?」

「そっか。オヒトくんも移住したんだもんね」

「ええ。だからなんとなくですが、巫女さまの気持ちもわかるつもりです。といっても中つ海(なかつみ)の集落から来たのと、常世からではだいぶ違うでしょうけど」


 いくらなんでも、さっきから僕はズケズケものを言いすぎだ。

 しかしそれを巫女さまは咎めることはなく、


「だからかぁ」


 なぜか納得された。


「あたしが元いた場所はね、だふん、ずっと先。貝塚(ここ)に来る前に作った日時計カレンダーが何周も何周も回った先……。あたしにもどうしてこの時代にいるのかわからないの。なにか大事な理由があるのか、それとも常世の神様のお茶目なイタズラなのか、実は特別な使命でもあるのか……、ぜんぜんなの」


 わからないことは不安なはずなのに、巫女さまはさっぱりした笑みをみせた。話はここまでとばかりに、迷いのない笑みを。


 それから僕は言われるがまま瓶いっぱいに貝殻を集めて、運んだ。



「できたー!」

 

 まずは貝殻に延々と石を打ちつけて粉々に。

 それから少しばかりの粘土と水を混ぜ、捏ねに捏ねる。

 だんだんと粘りがでたところで棒状にして適当な長さに切り、最後は焼く。

 そうして、


「貝殻チョークの完成!」


 となった。


「この白い棒が『ちょうく』ですか?」

「そう。これ便利なんだよっ」


 と巫女さまは一本を手にして、いっしょに焼いた薄くて真っ平な土器に擦りつけた。するとなるたることか——


「白い線が⁉︎」

「「「おお〜!」」」


 これには、遠巻きに珍妙な目を向けていた者らもどよめく。

 

「う〜ん。書き心地はまぁまぁかな。ノート代わりの土器黒版だけど、別案を思いつくまではこれでいいや。いまのところ一番コスパいいし」


 見物人のなかから、


「巫女さま巫女さま、これ、ワシらも作っていいですか?」


 こんな声があがった。

 たしかに白い線が現れたのには驚いたけど、なにに使うつもりだ?


「いいよいいよ、どんどん作って。で、なにに使うのかは……、まだ聞かないどこっ。思ったとおりになったら教えてね。ついでに土器黒板もたくさん焼いておいてもらえると助かるかも」


 どちらも作り方は、僕がやったのを見ていたから大丈夫だろう。

 そこまでコツがいるような難しいものでもない。童でも作れるほど簡単だ。


 これで巫女さまの『ふぃいるどわあく』とやらも済み、やっと落ち着く——のかと思いきや、


「ようやく本格的人フィールドワークをはじめられるよ!」


 とのこと。


 この日から、巫女さまは貝殻チョークと土器黒板を手に集落の隅々まで見て聞いて、歩きまわるようになる。


 その歩みはセノ海周辺に留まらず、対岸の山々を越えるまで、そう()はかからなかった。



 ここまでお付き合いいただきまして、ありがとうございます。

 あと、少し読書カロリー高めになってしまい、すみません。読んでくれてめちゃくちゃ嬉しいです。


 第8話へ進む前に、1話だけ転生巫女の調査ノートを閑話として挟みます。

 こちら若干ハイカロリーでして、ラーメンで喩えると二郎系くらい。

 ですので手軽に読みたいという方は、後半の[結論]と[巫女メモ]だけでもご覧いただけますと幸いです。


 少しでも「つづきが気になる」「おもしろい」など興味をもっていただけたのなら、ぜひとも【ブクマ】【★★★★★】【レビュー】を!


 ひきつづき、よろしくお願いします。

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