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BC5xxx年、超古代文明は富士の地にあった……てか興した  作者: 枝垂みかん
第一章

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日時計カレンダー


 いつもとは違う朝日が瞼を照らす。

 おかしい。僕の(むろ)は巫女さまの住まいのすぐ下にあるから、こんなに眩しく日は差さないはずなのに……。

 ここまでを理解して僕は飛び起きた。

 そして辺りを見回し、


「やってしまった!」


 大失態だと頭を抱えるハメに。


「んん……もぉう朝っぱらからぁ……」


 僕の声に、巫女さまは目を覚ました。


「なぁにぃ、やってしまったってぇ」


 そしてコシコシ目を擦りながら身体を起こし、ややあって——


「ややや、やってしまったですとぉおおおーッ!」


 絶叫するなり掛け布を捲ると、巫女さまは頭を突っ込むようにしてなかを覗いた。しばらくのあいだ布はもそもそ蠢く。

 それを横目に、僕は恐る恐る側付きの様子を確かめた。

 ふぅ……。どうやらまだ寝ているようだ。


「セェ〜フ!」


 巫女さまがあげた安堵の声にヒヤリとさせられたが、側付きは未だに寝息を立てている。

 しかしホッとできたのも束の間。


「もう! オヒトくんが『やってしまった』なんて言うから、あたしてっきり——」

「お、お静かに」


 こうヒソヒソ声でお願いしても、巫女さまは黙ってくれない。


「いろんな意味でヤバいことしちゃったかもって、めちゃくちゃ焦ったんだからね!」

「で、ですから、僕がここにいるのを見られてはそのような誤解を招くので」


 お互いに早口で捲し立てる。これがいけなかった。念のため口裏合わせをしておこうなんて欲をかかずに、さっさと立ち去ればよかったんだ。


「んん、っ、いっつつ……。頭いたっ……」


 ついに側付きが目を覚ましてしまった。

 ここでようやく僕の言い分を聞き入れてくれた巫女さまは、あろうことか寝起きの側付きに、


「おりゃあー!」

「み、巫女さま⁉︎ なにを——」


 掛け布を被せ、


『いまだ、逃げろ』


 と目配せ。

 もちろんこの機に、僕は五〇段を転がり落ちるように逃げ出した。最近こんなのばっかりだ。



 いけない、早く巫女さまに昼食(ひるげ)を届けなければ!

 これに気づいたのはとっくに日が真上を過ぎたころで、それまで僕は自分の室にこもり、悶々と悶えていた。昨夜の己の迂闊さを悔いに悔いていたんだ。


 とにかく急がねばと慌てて室を飛び出した。すると、


「……なんですか、それ?」

「オヒトくんお先ぃ」


 広場に巫女さまがいた。(ひこ)(ひめ)らと同じように地面に腰を下ろし、童らにまとわりつかれて。

 ここまでは昨日の宴とさして変わらない光景で、驚きはしない。たとえ(しょく)を共にしていても。

 もっといえば——


「まずは日時計カレンダーを作ろうと思って。フィールドノートをつけるのに日付は必須だもん」


 またもや言っていることはさっぱりだが、そんなこともどうだっていい。

 とにかく僕がおかしいと思ったのは、巫女さまの装いだ。


「てへへ、いいでしょう?」


 よくない。いいわけがない。

 いったい側付きはなにをやっている……って、そうか、まだ二日酔いで横になってるんだな。


「動きやすい格好にしてみたんだぁ」


 だとしてもだ、飾りという飾りをすべて外し、長い髪は布で雑に束ねて、あまつさえ——


「し、下穿(したば)きを履くだなんて!」


 おまけに膝から下は脛巾(はばき)までぐるぐる巻き。まるで狩りに向かう彦じゃないか。


「フィールドワークするって言ったじゃん。その前のちょっとした公共事業に、軽く土木作業しなきゃだから」

「待ってください。どうして巫女さま自ら——」

「ダァメ。あたしがお願いしたことなんだから、まずあたしが手を動かさないと。それにこういうの、前から作って見たかったんだよねぇ」


 ……。その楽しげな口ぶりから、最後のが本音だということだけはよくわかった。


「まぁまぁ男弟(オヒト)どの、そんなに目くじら立てるなって。手順さえ教えてくれれば、あとはワシらでやっとくから」


 火守(ひのもり)ノ彦が宥めてくる。その傍らに立つ媛も、


「常世の知恵ってスゴイのよ。紐と棒だけで、簡単にキレイな丸が描けちゃうんだもの」


 面白がって巫女さまの味方を。

 というか、キレイな丸が描けるのと彦みたいな装いは関係ないと思うけど。


「お姉さん、これに興味あるならやってみる?」

「ワタシも丸を描いてみていいんですか!」

「そうじゃなくって、これを使った日時の記録」


 それから巫女さまは、まず描いた丸の内側に土を盛りはじめた。


「溝でもいいんだけど、埋もれちゃうから」


 と言って。

 土塗れになる巫女さまの姿を目の当たりにした僕も彦らも、呆ける。だがすぐに我を取り戻し、せっせと土を手を動かした。


 そして皆で盛り土を踏み固めたら、


「あとは真ん中に棒を立てて、できあがり」


 さすがに残りは彦たちに任せてくれた。

 もし巫女さまがケガでもされたら一大事なので、誰もがホッとした様子だ。


 彦らがせっせと長い棒を引き立て、カンカン叩いて打ちつけていく。

 そのさまを僕は巫女さまといっしょに眺めていた。

 そしたら、さっきの媛が寄ってきて、


「これでなにがわかるんです?」


 と、僕も気になっていたことを聞くんだ。

 たしか巫女さまは『ひどけいかれんだあ』と言っていたけど……。


「日付けと時間だよ。とりあえず時任(ときとう)ノ媛の仕事は、朝昼夕、毎日この円に目印をつけること。それをつづけていくと、だいたい何月何日何時かがわかるようになるから」

「ん?」


 これには媛と同じく僕も首を傾げてしまう。


「目印はなんでもいいよ。スズ竹の串が見やすいかも」

「いえ……、いまの『トキトウ』とは」

「あれぇ? ニュアンス違ってた? なんとなく他の人の役名からインスピレーション受けて『時のことは任せた』的な意味で呼んでみたんだけど」

「……とき、ですか⁇」

「そう。季節や朝昼夕の移ろい、みたいな」

「わかりました! 日の移ろいを常世(とこよ)では『とき』と呼ぶのですね」

「だいたい合ってる。あとで詳しく話すね。まずは一日のなかで『いつ棒の影が一番短くなるか』かを記録してってくれれば、それで他はだいたいわかるし」


 ここまでを聞いて、僕は唖然とさせられた。いきなりとんでもないモノを作ったものだ、と。

 でも当の巫女さまは、


「次行くよ、次。ほらオヒトくん、ボサッとしない。急がないとすぐ日が暮れちゃうんだから」


 なんでもないふうに僕の手を引くんだ。


 いったいこれからどこへ連れていかれるのか?

 ()の先、移ろいの先にはなにが待っているのか?


 こんなことを考えて僕はワクワクしてしまった。



 そうして次に向かった先は——


「……捨て場」

「そう。貝塚!」


 屑を捨てる場所だった。


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