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BC5xxx年、超古代文明は富士の地にあった……てか興した  作者: 枝垂みかん
第二章

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中綿あったかウェア


 鋭さを知っているからこそ、(まど)う。

 互いに向け合う剣がヒヒイロカネでなくても、それを頭が勝手に補うのだ。


 僕は右手で構えた木剣の柄底を、左手で揺らした。

 すると相手の注意は、


「チッ。さっきからフラフラと!」


 切先にばかり注がれる。

 そこへすかさず握りを左手に替え、手首の返しと踏み込みで斬りつけた——


「痛ッ、つぅ〜う。参った参ったオレの負けだ」

 

 山辺ノ彦の肩口を僕の切先が打ったのだ。


「カァ〜ッ、妙な技を身につけやがって」

「男弟どのは剣を手足のように操るな」


 離れていた川渡(かわたび)ノ彦にもそう映ったのか。


「巫女さまが両方の構えで剣の習いをした方がよいと言うので」


 だから右手でも左手でも、両手でも振れるようにした。

 構えだって、どちらの足が前にきても自在に扱える。

 退いたり躱したり、ときには駆け寄ることも考えたら、振り方にはこだわらない方がいい。

 刃さえ立てられれば、あとは速さで斬れるのだから。ヒヒイロカネの剣とはそういう武器だ。


 ひと息ついたあとは川渡ノ彦を相手にもう一本、となったところへ、


「あたしそこまでやれなんて言ってないんだけど」


 巫女さまがやってきた。


「本当ですかい?」

「どうせまた巫女さまの仕込みなんでしょう」

「ヤマノベさんもカワタビさんもひどいなぁ。違うってば。ただ、左構えでも練習した方がバランスよく鍛えられるよってアドバイスしただけだもん。これを『クロスエデュケーション』って言ってね、右側で練習したことは左側にも、左側で練習したことは右側にも学習されるの。神経系だけじゃなくて体幹の強化にも繋がるからオススメって」


 受け売りみたいに巫女さまは語る。その顔は、親しい誰かを懐かしむようで……。


「こんなの男子が少ない学科あるあるだし。おかげで文理関係なく別学部の女子とも仲良くなれて、専門外のこともたくさん聞けてさ、それはそれで楽しいんだぁ」


 常世での話か。


「して、巫女さまはどうしてこちらへ? たしか『きゅうきょくしんりゃくへいき』なるものを作るため、媛らを伴いドングリ拾いをしていたはず……」

「べつに飽きたとかそんなのじゃないから。あっちは次の段階っ。だからそんな顔しないでっ」


 おっといけない、また顔に出ていたか。

 これも直さないとだな。

 少なからず僕も相手の顔色から先を読む。となれば、こちらの表情からも読まれるわけで……。


「オヒトくんがそうやって剣のことばっかり考えてるから、甲府に連れてこうと思って」

「カヒの地に? 行ってなにをするのです?」

(がま)の穂を集めるの!」

「秋の蒲は食には向いてませんよ。穂綿になっているので。食べるのなら——」

「食べないって」

「では穂など集めてどうするのです?」


 僕の問いかけにすぐ答えは返ってこない。

 巫女さまはニタリと、よくぞ聞いてくれたと言わんがばかりの不適な笑みを浮かべて、ようやく口を開く。


「中綿あったかウェアを作りまぁす!」


 とのこと。

 おそらく冬の備えなのだろう。



 カヒの地——


「すごいすごい、わったわたの綿いっぱ〜い!」


 どこを見ても、茶色だった蒲は爆ぜて、くすんだ白の綿毛が膨らんでいる。


「これを集めればよいのですね」

「そう! さぁみんな、風で飛んでっちゃう前に集められるだけ集めるよう!」


 ということで、僕らは葛布の袋が丸々となるまで摘みに摘んだ。



 そして二日かけて集落へ持ち帰ると、息つく間もなく巫女さまは風の当たらないところで干しはじめた。


 しばらくして蒲綿が乾くと、こんどは媛らを集めて洗うようにと指示。もちろん自らの手も動かして。

 

「こんな感じに掻き回してキレイにしてほしいの。もし水が冷たかったら言ってね。お湯も沸かしてあるし」


 温い水まで用意して皆でザブザブと洗っていく。

 そうやって洗い終えた蒲綿。すぐに干すのかと思えば、


「棒でバンバン叩いてほぐして。乾かすのはそのあとっ。ふわっと具合があったかさになるから」


 とのことで、僕ら彦は石の上に載せた濡れ蒲綿をバシバシ打つことに。



 こういった作業を重ねて一週間ほどが経った——ある日。


「オヒトくんオヒトくん、どう? あたしエレガント?」


 巫女さまが見せびらかしてきたのは、やたらと分厚い毛皮だった。


「複雑にすると蒲綿が出てきちゃうかもだし、大判の肩掛けにしてみたんだけど」


 なるほど、あの蒲綿を中に入れているのか。


「裏地は灰汁水(あくみず)で柔らかくした麻布を使ってるから、けっこう肌触りもいいんだよ。寝るときは布団がわりに掛けてもあったかいと思う。てか、いまの季節にはちょっと暑いくらい」


 見るからに温かそうではある。

 しかし集落のなかで着るぶんにはいいとしても、外に着ていくには動きづらいそうだ。


「大丈夫っ。ちゃ〜んと考えてあるってば。メンズはね、マントみたく紐で縛れるようにするから、オヒトくんにはそっちをあげる」

「それなら剣を振る邪魔になりませんね」

「またそれぇ。ホント最近そればっかぁ」


 巫女さまこそ『ヒムカの州の住人を避難させる』という目的を忘れてはいないか?


「焦っちゃダメ、ダメだよ。計画どおり春になるまでは力を蓄えないと。それに、なにもしないわけじゃないもん。秋のうちに富士山近郊の集落には事前通告に行くから」

「冬越えで衰えたところへ、従えと迫るわけですね」

「イジワルな言い方ぁ。でも、あたしがやることって実際そういうことだよね……」


 常世の知恵は、どこまでいっても知恵だ。どう使うのかで善くも悪くもなる。

 そして巫女さまは、善くない使い方をすることを気に病んでいる様子。


「それほど、件の『きゅうきょくしんりゃくへいき』とやらは危険な物なのですか?」

「舐めてみる?」

「——ど、毒なのですか⁉︎」

「こらこらオヒトくん。あたしをなんだと思ってるのさ。毒なんて作らないよっ」


 ではいったい……。


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