↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BC5xxx年、超古代文明は富士の地にあった……てか興した  作者: 枝垂みかん
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/31

三日月


「オヒトくん!」


 巫女さまが駆け寄ってくる。起きなくてはと思ってみても、身体が言うことを聞いてくれない。


「み、巫女さま……」

「そのまま。寝てていいからっ」


 やっと背を浮かせたのに、そっと地面に戻された。


 彦らは、山辺ノ彦を中心に大熊の処理をはじめた。

 だがそれも全員ではなく、周防ノ彦は手を水に浸けていて、怪我を負った者らも傷口を洗ったのち布で覆っている。


「こら、他の人の怪我を心配してる場合じゃないでしょ。オヒトくんが一番重傷なんだからねっ」

「す……すみま、せん」

「ホントだよ。帰ったらこってりお説教っ。ソバツキさんにもキツく言ってもらうし」


 それは容赦ないな。


「はぁ〜……。でも、無事でよかったぁ」


 安堵の息をつく巫女さまを見てみれば、その手は炭と貝殻チョークの粉で汚れていた。

 もしかしたら、巫女さまが彦たちに策を授けたのかもれない。その説明のために書き殴り、いざ実行となったら自ら手を動かしたのではないか。


「どこか痛む?」

「……どこも、かしこもです」

「骨が折れてたりは?」

「か、肩と脚が……」

「言ったと思うけど、あたしはお医者さんじゃないから。我慢してね」


 どういう意味——ぃいいいいい〜ッ‼︎


「ホッ……。たぶん折れてはないかな。ヒビくらい入ってそうだけど」


 くぅゔゔぅ。痛すぎる。思わず泣いてしまったではないか。


「寝てて。みんなの手が空いたら担架を作ってもらうから」

「…………はい」


 ここで僕の意識は遠のく。


「ダメだ男弟どの、まだ起きておけ。言いたいことが山ほどある」

「オヒトくん怪我してるんだよ! 小言はあとででいいでしょ」

「なりません——って、こら男弟どの寝るな!」


 覚えてるのはここまで。


 起きたら、山辺ノ彦はもちろん他の彦たちにも叱られるのだろう。もしかしたら周防ノ彦からも苦言があるかもしれない。

 それだけのことを僕はした。いいや、男弟の役目を果たさなかった。巫女さまも皆も危うくさせた。


 本来は省みるべきで深く落ち込むべき……。

 なのに僕ときたら、満たされてしまっているのだから、困りものだ。



「やはり他の大熊は見つからなかったそうです。巫女さまの見立てでは『別の場所から流れてきたのでは?』とのことでした」


 教えてくれたのは、側付きだ。


「うむ」


 この返事は僕ではなく、周防ノ彦だ。


「…………あの、どうして僕の室に二人がいるのです?」

「三人でも持て余す広さ、とくに困ることはないでしょう。それに私は『男弟どのの看病を』と巫女さまより仰せつかっておりますので」


 だからって一日中ここにいる必要はないと思う。


「それに、周防ノ彦も手に酷い火傷を負いましたから」


 二人を世話するなら同じ室の方が、という理屈か。わからなくもない。でも、それは半分本当で半分は……。


「まだなにか?」

「い、いえ」


 薄々わかってはいたけど、やはりそういうことか。

 起き上がるのもやっとな僕より、


「ささっ、周防ノ彦」

「う、うむ」


 なにかと手厚く、それでいてぎごちない。

 ただ食を口に運ぶだけではないか。なにを大仰にしているんだ。

 ちなみに巫女さまは、この所作を『あーん』と言っていた。そう言われたら乳子扱いにも見えなくはない。


「やはり腫れも引いてきたゆえ」

「——な、なりません。治りかけが一番の大事。なりませんよっ」


 かれこれ二週間。飽きずに似たようなやり取りをつづけている。

 せめて、なにかしらの進展でもあれば、横になってばかりの退屈も少しは紛れるのに……。


 周防ノ彦はよく寝る。食と手当てが済むなり寝息を立てるほどだ。

 起きていると側付きに構われるから、という線もありそうだけど、それよりも早く身体を癒すためなのだろう。


 では『ここは僕も見習って』と、目を瞑ろうとしたとき、


「男弟どの」


 側付きが改まった雰囲気で話しかけてきた。

 これはさすがに横になったまま聞くような話でもなさそうなので、身体を起こそうとしたら、


「眠ければ寝てしまって結構ですので」


 そっと止められた。


「男弟どのは、語部ノ彦と語部ノ媛を覚えておられますか?」


 なぜ父さまと母さまのことを?


「……まだ幼かったので」

「では、共にこの集落へ移った姉のことは?」

「いったいなんの話ですか」


 僕の困惑に返されたのは——


「神降しさえ在らなければ、口にすることは一生なかったことでしょう」

「巫女さまとなにか関係が⁇」

「余計なことを言いました。つまらない思い込みと、人の間のこと。いまの言葉は忘れてください。けれど、一つだけ伝えたいのです。聞いてくださますか」

「……」

「男弟どの、これで(とと)さまも(かか)さまも、中つ海(なかつみ)の者らも浮かばれます。よくぞ、よくぞ大熊を討ち果たしてくれました」


 いろいろな引っかかりが解けて、でも新たに確かめられない疑問も沸く、そんな話だった。

 側付きの垂れ目は潤み、唇が微かに震えている。目尻から溢れる涙の、その先を見るつもりはない。


「僕一人でやったことではありません。では、そろそろ」


 目を瞑ると、近くで忍び泣く気配がした。


 微睡みの先で見た夢は、中つ海(なかつみ)での暮らし……。

 忘れていた父さまと母さまがいた。

 そして、幼い僕を懸命におぶる小さな童の背。こちらを振り返る横顔には、側付きの面影があった。



 いまさら側付きを姉とは思えないが、それでも周防ノ彦とは堅物同士お似合いだと思う。なので、


「涼んできます」

 

 僕は気を利かせた。

 二人きりにしたところで仲が深まるとは思えないが。それでも。


「もう日暮れですよ」

「ほんの少しだけ」

「わかりました。ではお気をつけて」


 だいぶ身体も癒えたので、散歩くらいで煩くは言われない。さすがに剣を振ったときはこっぴどく叱られたけど。


 足の向くまま歩いていった先は、セノ海だ。


「隠れている姿も悪くない」


 広がる水面に映る月は弓のようだった。それでもキレイだと思えるのだから、不思議だ。


 しばらく眺めて、そろそろ帰ろうとしたとき、ふと、足元に転がる棒きれが目につく。

 なんとはなしに、拾って——ビュンと振ってみた。


「想い描くのとは程遠いな」


 僕はまだまだ弱い。より速く、もっと強くならなければ。

 もう一度と、振りかぶったとき——


「こらオヒトくん!」


 茂みから巫女さまが現れた。


「どうしてそんなところに?」

「どうしてもこうしてもないでしょうが! まだ療養中なのにチャンバラなんかしてっ」

「そ、側付きには黙っていて……」

「ダァメ。きっちり叱ってもらわないと」


 諦めた方がよさそうだ。

 それにしたって、もう夜だぞ。なぜ巫女さまは茂みにいた?


「たまたまセノ海に歩いてくオヒトくんを見かけて、こっそり跡つけてきたの」

「声をかけてくださればいいものを」

「びっくりさせたくて」


 だから隠れていたと。まったく巫女さまは……。


「そろそろ戻りましょう」

「そだねっ」


 まだ身体は癒えきっていないようで、動かすと痛めたところがすぐに熱を持つ。そこに当たる夜風は、すごく心地がいい。


「夏の終わりも近いですね」

「もうじき実りの秋かぁ」


 その前に嵐の季節くる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。