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BC5xxx年、超古代文明は富士の地にあった……てか興した  作者: 枝垂みかん
第一章

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17/31

緑柱石


 キンプの山を覆う深い森……。

 そのあちこちに剥き出しの岩肌があり、なかには、何者かの手で岩を積みあげたかのような巨石が密な場所もあった。


「だんだん岩石の割合が増えてきたねぇ」

「もうそろそろだ」


 巫女さまは息を切らしてはいるが、その顔に疲れは見当たらない。

 そして……、


「ここだ。ここらでよく光る石を見かけるぞ。透けた石はもう少し先にたくさんある」

「ほうほう、ここが縄文時代の黒平(くろべら)! あっちの頂上あたりが水晶峠かな?」


 僕らは目的の地——キンプの山のクロベラに着いた。

 さっそく案内をしてくれたカヒの彦は、そこらの石から一つを選び、


「探してるのは、こういうのだろ?」


 緑色の石を見せてきた。


「孔雀石! 大当たりだよ」

「小石を投げ込んだ水面の(もん)のようですね」

「いい喩え。ホント波紋みたぁい」


 巫女さまは僕の呟きに合わせると、


「もう何個か見つけよっか」


 と彦らに。

 サンプルは一つでよかったはずでは?


「探すのは自然物だから、どの特徴を見るかで違うものを拾っちゃうかもしれないでしょ」


 こうやって話しているあいだも、僕らはクロベラを歩きながらだ。


「せっかく持ってきてもらって『それは違います』なんて言いづらいもん」


 なるほどだけど、これを見間違えるか?


「一種類だけなら平気だと思うけど」

「ということは、他にも?」

「——あった!」


 なにか岩石のなかに見つけたようだ。


「黄色く淡い光沢がありますね」

「たぶん黄銅鉱っ」


 巫女さまが大岩の周りをグルリと見てまわると、周防ノ彦がスッと前に出た。


「割ればよいか?」

「お願いしまぁす!」

「周防ノ、このあたりがいいとワシは見た」


 石に詳しい彦からの助言。

 それに頷いた周防ノ彦は、人の頭ほどの岩を持ちあげた。


「あれなら僕でも……」

「持ちあげるだけならね」


 どういう意味だ?


「運動エネルギーは、二分の一かける質量かける速度の二乗だから。どうなるかは……、見た方が早いかな」


 と巫女さまが常世の言葉を並べ立てた。直後——ガッッ‼︎

 固い岩が砕ける音。

 散ったのは小さい方で、大岩はそのまま。

 しかし助言をした彦は当たった面を確かめ、


「おっほほ。見事にひび入っとるぞ!」


 歓喜の声をあげた。


「ほらね。つまりスオウさんは、正確にコントロールできて、それでいて速くも投げられるサイズにしたってことっ」

「速さ……」

「あと狙いも。普通に考えて重たければ重たいほど威力は上がるでしょ。でもだからって、ゆっくりだとぶつかっても大したことないよね。それといっしょ。他にも要素はたくさんあるけど、つづきの授業は帰ってからっ」


 早口に言うなり、巫女さまは大岩へ。

 ひびが入ったのは本当のようで、周防ノ彦が押すと、グラリと半分が倒れた。


「ここの黄色く光ってるところを持ってきてくれたら、さっきの緑色の石よりたくさんの炭と交換するよ」

「ふむ。それなら手間に見合うか」


 カヒの彦はサンプルとして黄色い石を割り取ると、腰の袋に入れた。



 つづいて『すいしょう峠』の方へ向かう。

 その道中も、クロベラにいるころからも、ずっと巫女さまは赤黒い石を気にしている様子だった。

 なので「あの石は拾わないのですか?」と聞いてみた。


「よく見てるねぇ」

「役目ですので」

「ふふっ、またそれぇ——っとと。そんな怖い顔しないでぇ。えっと、たぶん褐鉄鉱のことを言ってるのかな?」

「……おそらく。持ったらズッシリ重い石です」

「なら合ってるか。あれはね、まだ大量には扱えないの。だからしばらくは放置。もし余裕がでてきたら貯めておくのもいいけど。それよりも、先にやらなきゃいけないタスクが山積みだし——っとと」


 と、巫女さまはせせらぎを飛び越えた。


「あたしの手ぇ引けなくて残念?」

「いえ、べつに」


 僕が戯れを聞き流したところで、


「んん⁉︎」


 なにかに興味を示された。


「巫女さま?」

「……洞窟」


 どうやら入りたいようだ。

 いちおうこちらに確認をとってくれたのは助かるが、中へ入るのを諦めるつもりはなさそう。


「ヒノモリさん!」


 呼びかけられるなり、火守ノ彦はあたりの木を見繕い、樹皮を剥ぐ。

 それを持ちやすそうな枝に巻き、(かずら)で結びつける。

 仕上げに火を起こして、松明に移した。


「スゴッ。なんど見ても神技ぁ」

「なんもなんも。火ぃつけただけですんで」


 火守ノ彦はポリポリと頬を掻きながら先に立つ。

 僕らもそれにつづく。


「替えを作っときましたが、さほど長くは保ちませんので」

「じゃあ、ダンジョン探索は一本目の簡易トーチが燃え尽きるまで! あと火に注意しておいてね。燃え方が変わったり変な匂いがしたら即撤退で。スオウさんはヒノモリさんのバックアップ。すぐ後ろについててあげて」


 なんだか巫女さま、ひとりで楽しげだ。……これはいまに限ったことでもないか。


 そんなに深い岩穴ではなかったようで、すぐ行き止まりにぶつかった。

 しかしそこには——


「……緑柱石」


 柱のような透けた石が。

 松明で照らすと、あたりは淡い緑と青の光に満ちて目が眩む。


「ほほぉ。珍しい(ぎょく)がたくさんだな」


 カヒの彦が言うなら、そうなんだろう。


「これが探していた石ですか?」

「明るいところで見てみないとなんともだけど、水晶とは違うみたい」

「さきほど巫女さまは『りょくちゅう石』と」

「うん、たぶんね。ざっくり言うと緑柱石はベリリウムを含む鉱物で、色違いにエメラルドとアクアマリンがある。特徴は、条件次第だけど見たとおりかな」


 この口ぶりからして、色違いの玉に偏っているのだろう。


「巫女さま、もうそろそろ」

「ああうん。じゃあ拾えそうなのだけ……」


 火守ノ彦が松明の火の保ちを心配すると、巫女さまは持ち帰れる石を探した。僕らもそれに倣う。

 そこでふと、透けた石の一つが気になった。


「こんなところにも銅の石があるのですね」

「え? 見間違いだと思うけど」

「クロベラで見た緑の光る石と黄色の淡い石が、透けた柱の割れ目に染みこんでいて、これ、そうだと思うんですが」

「ホントだ……。てかなにこれ⁇」


 どうやら巫女さまにとっても不可解な物らしい。

 見たところ他に同じような石はないので、よっぽど珍しいのだろう。


 結局、不思議な塊を割るのに時をかけすぎて、他の玉は持ってけず終い。

 このあと透けた石もいくつか拾い、僕らはキンプの山をあとにした。


 以降、カヒの地との交易品には、銅の石と黒水晶、そして極々僅かだが緑柱石も加わることとなる。


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