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BC5xxx年、超古代文明は富士の地にあった……てか興した  作者: 枝垂みかん
第一章

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16/31

カヒの地


「やっと甲府!」


 と巫女さまが呼ぶ——カヒの地。ミサカの山々を越えた先に広がる湿った土地だ。

 至るところに水辺の草が生い茂り、いくつもの川が合間を縫うように交わっている。

 その手前、小高い丘に目的の集落はあった。


「おお、フシの地の者らか。よく来たなぁ」

「どうもぉ」

「いいところに! ちょうどさっき泥魚が取れたんだ。前みたいに焼いてくれよ」


 ……巫女さまが、巫女さまと思われていない。


「オヒトくん、どぉどぉ落ち着いて。そもそも甲府の集落はヒメヒコ制じゃないっぽいし、うちがレアなだけなんだよ」

「たしかに中つ海(なかつみ)にもウツ海(うつみ)にも、巫女さまのような役目の方はいませんでした」

「でしょ。だからさ、細かいことは気にしない気にしなぁい」


 いや、そもそも巫女さまの装いがいけないんだ。

 丈の長さは媛のものと同じだけど、あとは他の彦と変わらず、飾り気もない。

 

「媛らも呼んでいいか?」

「いいけど、なんで?」

「こないだ見せてもらったとおりに手順を教えたんだがな、ちっとも美味くねぇんだ」


 巫女さまは快く頷く。


「なんなら一人二人はそっちの集落に連れてってもいいぞ。代わりにヌシか、そっちの童が来てもらうってことで」


 ——わ、童だと! 僕を指して童と言ったか!


「あ、あはははっ。ほらほら、オヒトくんとはこういう関係だから」


 なぜか巫女が腕を組んでくる。

 するとカヒの彦は、


「ああ〜あ、そういうことかい。まぁ若いんだ、そういうこともあらぁな」


 訳知り顔。

 よくわからないな。でもだ。


「もしや巫女さま、彦だと思われていませんか?」

「そりゃあこの格好だし」


 耳打ちすると、この調子。


「ですから——」

「いいのっ。女の子と思われるより、よっぽどやりやすいから。ていうか縄文時代の人の多様性って、パないね。あっさりBLを受け入れちゃったよ」


 また難しい常世言葉で煙に撒こうとして。


「なんにせよです、巫女さまには相応しい装いをしていただかないと」

「だからだって。ただでもバリバリ自由恋愛な価値観なんだし、もしも女の子ってバレたら、そういうリスクもあるかもでしょうが」

「そんなもの、僕が守ればいいことです」

「………ふ、ふぅん。あたしのこと守ってくれるんだぁ」

「役目ですので」

「へえ〜、便利な言い訳ぇ」


 巫女さまの見透かすような眼差しに、僕はもうなにも言えなくなってしまった。



「ホントはもっといい捌き方があるんだけどね」


 とは言うけど、相変わらず巫女さまの手際は見事だ。

 泥抜きをした泥魚の頭をストン落とし、血抜きを済ませると腹に切れ目を入れて腑を取る。

 それから炭に火をつけ、串を打ち平たくした泥魚を炙っていく。


「そっちのウナギ焼けたから、お好みで塩かけて」


 パタパタと布を振り炭火を煽る、手慣れたさま。

 この、他では見かけない類の雰囲気に物好きな媛らは惹かれ、


「こんな彦がいるなら、フシの地に行くのもいいかもしれな〜い」

「ワタシも行きた〜い」


 うっとりと。でも巫女さまには聞こえるように。


「あっはは。ボク(・・)には、オヒトくんという心に決めた人がいるんだ」

「「「——そ、そういうこと‼︎」」」

「だから、ごめんね」

「「「きゃあ〜ん!」」」


 な、なんなのだいったい。

 どうして巫女さまは彦のように振る舞う? わざとらしく声を低めにして。

 あと、僕に向けられる媛らの視線に変なものが混じっているのはなぜだ⁇


 とにかく、こうやって巫女さまはカヒの地の彦とも媛とも仲を深めていった。



 ようやく炭の火も落ちたころ——


「ちょっと! なんでお酒飲んでるのさ。これから金峰山(きんぷさん)まで行く予定なのに!」


 山辺(やまのべ)ノ彦はじめ、彦らは酒に手をつけていた。


「まぁまぁ巫女さま、焦るなって。石ころが足はやして逃げるわけでもねぇだろ」

「おい山辺ノ、いくらなんでも巫女さまにその言い方はないぞ」


 いちおう嗜めた川渡(かわたび)ノ彦だが、


「あら、立派な彦。隣いい? ささっ一杯どうぞ」

「おおっとこいつはすまねぇ」


 媛の惑わしを受け、さらに酒を重ねた。

 こうなったらもうダメだ。今日は押しても引いても動かないだろう。


「オレは控えておく。男弟どのは巫女さまのそばにいろ」


 周防ノ彦はそれだけ言うと、焼き魚の串を何本か取り、離れたところへ。


「……ん? スオウさんってこういう席が苦手?」

「違う違う、周防ノは酒に弱ぇんだ」

「こないだも一杯でヘロヘロになってたぜ」

「ええ〜っ。めちゃくちゃ怪物退治しそうな見た目なのに、下戸(げこ)って……。人は見かけによらないねぇ」


 偽りの装いでカヒの者らを誑かしておいて、どの口が言うんだか。


「そういえばお土産渡すの忘れてた。よかったら、これどうぞ。試供品ってことで」

「「「しきょう……?」」」


 知らない言葉と黒焦げになった薪。なにがなんだかだよな。気持ちはよくわかる。


「これは、巫女さまから授かった『常世の知恵』により、僕らの集落で作った強く長く燃える薪です。名を『炭』といいます」

「たしかさっき、これで泥魚を焼いとったな」

「そうそう! 火の加減がしやすくて煙も少ない。しかも火力あげるのもすぐだから一気に焼けるの。とくに脂の多いお魚なんか焼いたら、皮パリパリの身ぃフワフワ!」


 カヒの者らが首を傾げるたび訳していくと、


「で、交換になにが欲しい? 泥魚だとフシの地までは保たんだろう」


 当然の疑問を。


「ウナギっていうのも嬉しい提案なんだけど、やっぱりあれかなぁ」


 巫女さまは遠くの山を指差す。


「どれだ?」

「あの山にある鈍く光る石。もしくは濁ってて透きとおる石でもいいけど」

「漆石のことか?」


 僕らは巫女さまの影響で黒曜石と呼ぶようになったけど、同じものだ。たしかに交易品としての(あたい)は高い。


「あれはもっと奥の谷まで行かないと見つからん」

「光る石ならあったぞ。色がついとるのだろ?」

「——たぶんそれ! どこどこ?」

「美味い泥魚の礼だ。明日、案内する。ワシらが同じものを拾い集めたとしても、その『すみ』と言ったか、黒い薪と交換してくれるのかい?」

「もちろんだよ! そのための探索だもん」


 正しくは『そのために炭を贈ったんだもん』ではないか。

 これまでの交易に別の物を加えるなら、こちらからも新しい物を出さなければならない。となると、炭は打ってつけなんだろう。


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