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BC5xxx年、超古代文明は富士の地にあった……てか興した  作者: 枝垂みかん
第一章

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14/31

再焼成レンガ


 今日も水面は凪いでいる。

 ここは、岸にいるよりも照り返す陽が眩しい。 


 いま僕らは、ショウジというセノ海の北側へ向かっている。そこからミサカの山々を越えて、カヒの地に向かうためだ。

 だというのに、巫女さまはツンと口を尖らせてたまま。


「あるならあるって教えといてくれてもいいのに、もうっ」


 不機嫌の理由は、舟があると伝えていなかったから。

 皆、てっきり巫女さまなら知っているものだと思い込んでいたのだ。


「丸木舟。あって当然だけど、ド忘れしてたよ」


 ポンポンと舟べりを鳴らし、


「遠方から駿河湾まで交易にくるって聞いてたんだから、気づかなかったあたしが悪いのかもぉ」


 なにも言い返してないのに、巫女さまは勝手にしょげる。

 だが、気を取り直すのもすぐ。


「でもこれでセノ海もショートカットできるようになったし、すでに精進(しょうじ)はお散歩圏内も同然!」


 ショウジには、ミカサの山々を越える中継地としてだけではなく、もう一つ重要な役割がある。


 舟が岸に近づくと、


「すっごいガシャガシャ鳴ってるね」

 

 器を砕く音が聞こえてきた。

 僕らが降りて到着に気づいたのか、舟を繋ぎ終わってようやく、ここの(おさ)である瓦土(かわらけ)ノ彦が顔を見せる。


「巫女さまが言ってたとおりだ! 粉が舞うほど器を崩して混ぜ込んだら、焼き物の丈夫さが増したぞ!」


 出迎えの言葉もなく、大きな掠れ声で。

 といっても興奮しているわけではなく、ただ単に、瓦土ノ彦の声が普段から大きいだけ。ここに居着くようになってからは、なおさらだ。


「あれこれ試したが、これだっつう加減がだんだんわかってきたぞ!」

「おおっ、カワラケさん仕事早ぁい! 見せて見せて」


 どちらかといえば、巫女さまの方が興奮気味か。

 この調子だと、今日はここで過ごすことになりそうだ……。


「巫女さま、フルセキに報せの人をやります。到着が遅れると心配させてしまうので」

「オヒトくん気が利くねぇ。よろしく!」


 実は、僕としても器でない焼き物には興味がある。だからだ。


「オレが行く。数名連れてくぞ」


 山辺ノ彦が名乗りでてくれたので、お願いした。

 この手の物に関心がない者もいて、すんなりと先行する人員は決まる。なにごとも人ぞれぞれということか。


「こっちだ!」


 瓦土ノ彦に案内され、捏ね場へ。

 その途中、


「耳栓を作った方がいいかもぉ」

「……? 巫女さま、いまなんと!」

「みみせん! 音、すごいからぁ!」


 と、会話にならないくらい喧しい室があった。

 ここは割り場と呼ばれていて、欠けた器を粉々に砕いて材料にする所だ。


 少し離れてやっと声が聞き取れるようになった。


「外の方がマシなんだろうけど、でも雨の日に作業できなくなっちゃうしなぁ……。やっぱり耳栓は必要か。濡れた布を入れておくだけで、かなり改善するはずだし」

「では、さっそく伝えてきます。分けるぶんの古布もありますので」


 巫女さまたちは先に行ってもらって、僕は騒がしい室へ。


「あのぉ! これ、巫女さまから!」


 ダメだ。誰にも聞こえてない。自分でもなんと言ったのか確かめられないほどの煩さ。


「あの! おい! 聞いて!」


 なんとか気づいてもらおうと、一心不乱に器を砕く彦らの傍らで、足をダンダンさせながら叫んだ。

 それでようやく、


「なんだ!」

「男弟どのか!」

「なんだ?」


 気づいてもらえた。

 でも、すぐに口で説明してもムリそうなので、実際に濡らした古布を耳に突っ込んで見せる。

 それから古布を手渡すと、彦らは僕と同じようにして耳の穴に詰めた。


「「「おお!」」」

「すごく静かだぞ、これ!」

「ああ‼︎ なんだって?」

「静かと言った!」

「ああ⁉︎ なんつった!」


 ……うん。耳は痛めずに済みそうだけど、先に喉を枯らしそう。あと、


「では僕はこれで!」

「「「ああッ‼︎ なんだと?」」」


 ここで働く彦たちの声はもっと大きくなってくんだろうな、と思った。


 巫女さまのところに戻ると、例の、器でない焼き物を作っている真っ最中。


「そうそう。イイ感じ」


 土器ノ彦が持っているのは、節を削ったスズ竹の枠に何本も紐を渡した道具で、枠付きのスカスカな網のようでもあった。

 それを平たくした粘土に押しつけると——


「すごい!」


 思わず声をあげてしまうほど大きさの揃った四方形が、一手間で。


「オヒトくん来てたんだぁ」

「はい。しかし驚きました」

「レンガはなるべく均一に作るのが重要だもん」


 言われてみれば、さっきの道具を使えば、なんどでも同じ四方形ができるわけか。


「このやり方なら土器黒板も同じサイズで作れるし、いろいろ捗っちゃう」

「それを作っても使うのは巫女さまだけでは?」

「ちっちっちっ。わかってないなぁオヒトくん」


 わかってないから聞いているのに、解せない。


「あれ、こないだ言ったと思うけど。ソバツキさんにカタカナ教えたって」

「そんなこと……」


 聞いたような気もする。


「簡単だよっ。五〇音順を覚えたら、あとは書きたい音とカタカナ五〇音表と照らし合わせるだけ」


 と言われても。


「もう焼けとるぞ! ほれ!」


 瓦土ノ彦が渡してきたこれが『五〇音ひょう』なのだろう。


「文字が並んでいますね」

「それ見たまんまぁ。でもそのとお〜り!」


 五〇の声と、それの並びを覚えると言っていたけど、一文字一文字を探しながら書くとなると、とんでもない手間だ。


「言いたいことはわかるけど、聞いて。一番上を横に読んでいくね。ア、カ、サ、タ、ナ、ハ、マ、ヤ、ラ、ワ。どう? わかった?」


 わかるわけ……、んん⁉︎


「もういちどいいですか。できればゆっくり」

「おおっ、オヒトくんなんか掴みかけてる?」


 よぉく聞けば、アァ、カァ、サァ、タァ、ナァ……。やっぱりだ。


「いまのはぜんぶ声を伸ばすと『あ』になります」

「大正解! それを母音っていうの」

「となると右の縦一列すべて同じくボイン、なのですか?」

「うん。あいうえおの母音。横一列をア段イ段ウ段エ段オ段って分けて、縦一列を『行』って呼ぶんだよっ。どぉお、わかりやすいでしょ!」


 たしかに、最初に思ったよりは簡単そうだ。


「ワシも書いとるぞ!」


 それは驚きだ。で、なにを?


「業務日報っ。どんな作業をする予定で、実際にやってみたらどうだったかを、所用時間とか作業内容別にまとめてもらってるの」


 つづけて瓦土ノ彦が口を開こうとしたが、巫女さまが「しっ」と止めた。少し考えみろということだろう。

 すぐに思い当たるのは、数日前のことでも忘れずに済むこと。他には……あっ。


「同じことができる」

「——そう! すごいすごいオヒトくんすごいよ! さすがにびっくり。どうしてわかったの?」


 また巫女さまは僕を童扱いして。


「書いてあるとおりにやれば同じになるに決まっています。上手くいった日の『なんたらにっぽ』とやらを見たら、他の誰でもできるのでしょう」


 そのやり方を知っていた巫女さまがすごいだけで、僕の言ったことなんて誰でも気づくことだ。

 だというのに、


「オヒトくんガチの天才かも。びびるわっ」


 大仰なっ。

 露骨におだてられて喜ぶほど、僕は幼くないぞ。


「もう、そんな照れなくてもいいのにぃ」


 照れてもない!


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