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残月の彼方――愛は欠けた月を満たす光  作者: 月原 悠
第四章 新たな世界へ

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33/35

第35話 異国の静けさの中で

僕たちは不安を抱えながらも、クロアチアのシベニクにたどり着いた。

海辺の町だった。

赤い瓦屋根と白い壁の家々が、陽の光の中に静かに連なっていた。

その異国の景色は、僕の心を強くとらえて離さなかった。


里岡が用意した住まいは、旧市街を見下ろす小高い丘の上にあった。

窓の向こうには、紺碧の海が広がり、町には石畳の路地が縦横に通って、中世の街並みを彷彿とさせた。

それは、異国の世界が僕らに何かを語りかけるようだった。


言葉は主にクロアチア語であったが、英語も多少なりに通じた。

それに加えて、僕らには現地の言葉がわかる世話人がついた。

生活に必要なものは里岡が準備してくれた。

世話人も必要以上に僕らの暮らしへ踏み込むことはなく、思っていたより自由であった。

日が過ぎるにつれ、現地の言葉も少しずつ耳に馴染み、やがて通訳なしでも生活していけるようになっていった。

倉沢の影に怯えつつも、僕たちの幸せな日々は静かに始まった。


季節は夏だった。

シベニクでは、灼熱の光が海を照らし、青の世界が広がった。

海にはいくつものヨットが静かに揺れていた。

白い帆柱が海に映えて眩しかった。


僕たちは海水浴にでかけた。


「拓真さん、私は海水浴は初めてです」

「ええ、海水浴は初めてなの?」

「はい。だから泳げないのです」

「大丈夫だよ。浮き輪を買っていこう」

「はい」


砂浜に、僕たちの足跡が並んで伸びていた。

波が来るたびに、その跡は少しずつ消えていき、由香里さんはそれを黙って見つめていた。

僕もまた、その光景から目を離せなかった。


楽しい時はあっという間に過ぎ、海は夕暮れ色に染まった。


「拓真さん見て、夕日が水平線に沈んでいきます。きれいです」

「本当だね。こんなにきれいな海は僕は初めてだよ」

「私もです」

「でも、何より由香里さんがきれいだよ」

「そんな恥ずかしいことを言わないでください」


楽しかった。

このままこの幸せが続いてほしいと、心から願った。


「拓真さん、私は心配です。今頃、父と倉沢さんが私を探しているはずなので」

「そうだね……でも、ここまで逃げれば大丈夫だよ」

「そうだといいのですけど」


そんな頃、里岡から手紙が届いた。

手紙には、倉沢のことは心配ないと綴ってあった。

それが安心を意味するのか、あるいは別の何かを意味するのか、僕にはわからなかった。

ただ、胸の奥の不安だけは消えなかった。

しばらく充電期間をいただいていました。

また少しずつ書き進めていきたいと思います。

今後もお読みいただけたらうれしいです。

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