第34話 開かれた道
僕と由香里さんは里岡という後押しを得た。
里岡は僕たちに海外への道を開いてくれた。
クロアチア*――
その言葉が、僕たちの胸に強く響いた。
「拓真さん、クロアチアに君たちの住処を用意したよ。何、生活費は心配しなくていい。それに地元言葉が話せる使用人を通訳代わりにすればいい。何も心配いらないよ。私に任せたまえ」
「ありがとうございます」
「それより、倉沢について知っていることは先日話したことだけかな? 心当たりだけでもいい、おしえてくれたまえ」
「はい、実は……」
「そうか、奴らしいな。まあ、決定打にはならないがこれで多少は追い込めるだろう。ありがとう、由香里さん」
「いえ……」
クロアチアへ行く日がいよいよ訪れた。
出国に必要な手続きも、里岡が整えてくれていた。
その手際のよさに、僕はあらためて里岡という人間の力を思い知った。
ありがたいはずなのに、どこか背筋が冷えた。
当日は、里岡が手配した車で空港へ向かった。
車中、僕たちはほとんど言葉を交わさなかった。
窓の外に流れる東京の景色を、僕はただ黙って見ていた。
国際空港へ着いた。
いよいよと思うと、胸はざわついた。
僕の周囲には数名の世話役がいた。
いや、監視役と言った方がよかったかもしれない。
僕たちは、その者たちに囲まれるようにして進んだ。
ものものしい雰囲気のまま、搭乗手続きを済ませ、出国審査も通った。
そして、飛行機に乗り込んだ。
遂に離陸した。
空は雲ひとつなく、東京の町が見渡せた。
あの町に僕は住んでいたのだと思うと不思議な気持ちになった。
母さんを一人残してよかったのだろうか、とも思った。
しばらく、いや、どの程度になるのかもわからないけど、
日本に帰れないと思うと複雑だった。
飛行機は一度ではクロアチアへ着かなかった。
遠い国の空港で乗り継ぎ、僕たちは行き先の町であるシベニク*へと向かった。
道中では、まわりで交わされる言葉はどれも僕にはわからず、
ただ、異国へ来てしまったのだという思いばかりが胸に残った。
由香里さんだけが、静かに前を見つめていた。
その横顔には、決意と言葉にできない寂しさが重なっているように見えた。
僕たちは、不安を抱えたまま未来へ向かうしかなかった。
*クロアチア・シベニク
作中では、当時の旧ユーゴスラビアのクロアチア方面にある、実在の海辺の町シベニクをもとに書いております。




