第30話 声
由香里さんのお父さんは僕たちの交際を認めてくれた。
彼女も少しずつ笑顔を取り戻していった。
「拓真さん、今日こそ、ショパンのリサイタルへ行きましょう」
「ああ、そうだね。以前は佐藤さんがいたからね」
「今日は大丈夫ですよ」
由香里さんの楽しそうな声が届くと、僕は幸せでたまらなかった。
僕たちの楽しい日々が続いた。
「拓真さん、ほら見て、このドレスはどうですか?」
「由香里さん、まだ、婚約していないのに」
「大丈夫です。父が言っていました」
「なんて、言ったの?」
「もう、そろそろかなって」
「もしかして……?」
「はい」
ある日のことだった。
「拓真さん、今日は父が拓真さんに来てほしいって言っているのです」
「どうして?」
「もう、拓真さんも鈍感ですね」
「いや、いよいよかな?」
「はい」
そして、僕は彼女の家に招かれた。
「拓真さん、そろそろですな」
「何がでしょうか?」
「娘を幸せにしてあげてください」
「ありがとうございます。必ず幸せな家庭を作ります」
「頼もしいよ。それでは私は失礼します。ゆっくりしていってください」
僕と由香里さんと談笑している時だった。
部屋の奥から、かすかに声が届いたような気がした。
「……これでいいのですな」
「はい」
次話から新しい章になります。
ここから、物語は大きく動き出します。
作品の見どころが、ここから本格的になります。




