第26話 祈り
僕の足取りは、決まって公園のベンチへ向かっていた。
そこに答えがあるような気がしていたからだ。
由香里さんを信じていた。
その想いは変わらなかった。
何度も、何度も足を運んだ。
ある日、公園に行った。灰色の残月が心に残った。
すると、どこかから、すみれの香りがした。
想いが姿を変えた。
ベンチにはすみれが置いてあった。
でも、一体誰が置いたのか――
由香里さんであってほしい。
そう願うばかりだった。
そんなころだった。
いつものように公園へ行くと、見覚えのある人物がいた。
以前、会ったことのある、佐藤さんだった。
そして、僕に一通の手紙を渡した。
「これをお読みください」
手紙を渡すなり、去っていった。
僕はすぐさま目を通した。
拓真さん。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
私は何もできないのです。
せめて、すみれの花になりたいです。
せめて……
でも、私のことは忘れてください。
その手紙を読んで、僕の胸は熱くなった。
僕に何ができるだろうか。
そう思うばかりだった。
次の日も公園へ向かった。
そこに佐藤さんがいるような気がしたからだ。
願いは叶った。
まぎれもなく、佐藤さんがベンチに座っていた。
僕は迷うことなく声をかけた。
「僕はどうすればいいですか」
佐藤さんは静かに言った。
「拓真さん。あなたには覚悟がありますか。
その覚悟がおありでしたら、私がお嬢様へと手紙を渡しましょう。
その代わり、あなたには危険が及ぶかもしれません。
それでもいいですか」
「もちろんです」
僕は怖かった。
でも、覚悟はできていた。
「それなら、明日もまた、ここに来ましょう」
そう言って、僕に背を向けた。その背中が何かを訴えているようだった。
僕は必死に手紙を書いた。
想いの全てを書いた。
由香里さん。
僕は倉沢のように強くはありません。
倉沢のように力はありません。
でも、由香里さん、あの駅での悲しい表情が、
僕から消えることはありません。
雪だるまを作った時の由香里さんの笑顔が忘れられません。
信じてください。
由香里さんのことを想っています。
僕は不器用です。
うまく言葉にすらできません。
待っていてください。
必ず待っていてください。
でも僕がなんとかします。
僕がなんとかします。
僕の思いの全てだった。
言葉にならない手紙だったけれども――
翌日、僕は佐藤さんに手紙を託した。
必死の想いだった。
駅で別れた時の由香里さんの表情が浮かんだ。
遠くで汽笛の音が鳴り響いているようだった。
僕はそれをかきけす思いで公園を後にした。




