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第22話 ショパンの残り香
それは、数日後のことだった。
雨が激しく降りしきっていた。
郵便配達員の表情がなぜか不気味に思えた。
無言で僕に手紙を渡した。
封を見ると面影のある筆跡で、
由香里さんからのものだった。
僕は急いで封を切った。
手が震えていた。
雨がさらに激しくなった。
雷の音さえ響いた。
何と書かれているのだろうかと思いながら、
手紙を開いた。
手紙には何も書かれていない。
便箋の白さが僕に絶望を与えた。
何を意味するのか、その時はわからなかった。
けれど、胸騒ぎだけは間違いなかった。
そして、由香里さんの住むマンションへと向かった。
ドアを強く叩いた。
倉沢が出てくるかもしれない。
そう思ったけれど、それ以上の不安が僕を襲った。
何かが、もう手遅れになっている気がした。
ドアノブを手にした。
全身の震えがとまらなかった。
必死の思いで開けた。
部屋へ入ると、
中には由香里さんの柔らかな香りが残されていた。
テーブルには何も書かれていない便箋があった。
そして、その横には、すみれの花が静かに置かれていた。
ふと、冷静さを取り戻した。
その時、ショパンが流れていることに気づいた。
美しくも不気味な音色を奏でていた。
何かを伝えたいかのように。
僕の胸騒ぎは収まらなかった。




