第20話 虚ろ
決意の夜は思いのほか静かだった。
不安がつきまとった。
倉沢という男の存在が、僕の胸の奥に重くのしかかっていた。
でも、由香里さんの面影が胸に浮かんだ。
今、どのように過ごしているのだろうか。
彼女の沈んだ表情が容易に想像できた。
僕にできることを考え続けた。
佐藤と名乗る者の話では、由香里さんは倉沢と別居していた。
しかも、倉沢は仕事で不在だという。
会うこと自体は、さほど難しくないように思われた。
その夜は静かに過ぎていった。
そして、朝を迎えた。
事前に聞いていた別居先へと向かった。
そこは、高級マンションだった。
僕はドアをノックした。
しかし、物音一つしない。
再びノックすると、ドアの開く音が静かに聞こえた。
意外だった。
現れたのは倉沢だった。
「おや、これは拓真さん。どのようなご用件ですか」
倉沢の声が冷たく響いた。
しかし、柔和な表情だった。
それが何より僕には恐ろしく思えた。
「由香里さんに会いに来ました」
「そうですか、では、せっかくですからお入りください」
僕はマンションの一室に案内された。
「由香里さん、お客様ですよ」
しばらくしてかすかな声が返ってきた。
「帰ってください……」
その声を聞いた瞬間、胸の奥が強く沈んだ。
倉沢は静かに言った。
「どうしますか、由香里さん」
「もう来ないでください……」
由香里さんは無表情だった。
その視線は遠くを見つめていた。
僕は言葉を失った。
そして、マンションを後にした。
自分の無力さだけが、胸の奥に重く残った。




