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残月の彼方――愛は欠けた月を満たす光  作者: 月原 悠
第二章 想い

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第14話 紅に染まる海

僕は数日の間、下田に残ることにした。

花の香りが、まだ僕の中に残ったからだ。


想いは風に乗らなかった。

けれども、僕をこの地に残してくれるには十分だった。


未練という言葉が残されたのかもしれないけど、

静かな時がゆっくり動いているようにも思えた。

それは僕にとっては不思議なことだった。


僕は由香里さんのことを、忘れなければいけない。

そう思いながら、浜辺を歩いていた。

消えることがない想いが風になって吹いてきた。

別荘へ引き返すべきか、僕は迷っていた。


しばらく、海を歩き続けることにした。

そこに何かが見えてくるように思えたから。


夕日が沈むと、海は紅色に染まっていき、

海と空との境が、ゆっくりと遠くへ広がっていった。

寄せては返す海の波音が、いつまでも僕の心に響いていた。

僕の揺れる想いをまるで確かめるかのように――


由香里さんの長い黒髪、優しい声、僕を静かに見つめていた瞳、

それらの全てが僕の中にそっと入っていくようだった。


由香里さんは今、何を思っているのだろう。

あの別荘から灯台の灯りを見つめているのだろうか。

そう考えると、僕の胸にざわめく風が吹いた。

僕の足取りは、自然と別荘へと向かっていった。


しばらく歩くと、流木が落ちていた。

僕はそこに腰かけて海を眺めることにした。


海の紅は、やがて空の色へと溶けていくようだった。

星たちが顔を出し、月も姿を見せた。

欠けた月が何かを語りかけるように僕を照らしていた。


流木に座って次第に黒くなっていく海を眺めていると、

遠くに漁船の灯りが、点いたり消えたりしていた。


僕は流木のすぐそばに咲いていた野花を摘んだ。

そして、浜辺の波打ち際まで、足取りを進めた。

足には冷たさが伝わってきた。

その冷たい波打ち際に僕は野花を置いた。


その野花がいつまでも揺れていた。








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