第百八十一話「本当に共闘したんだな?」「しましたー(棒読み)」
しばらくガーシュに笑われ、怒りゲージがマックスになりながら助けを乞い、二人で帝都に戻る頃には夜が明けていた。そしてセレネスに報告しにいき、たまたま各々の報告で来たタタルとイブキの二人とも居合わせた。
「久々に同士たちが揃ったんだ、皆で話そう」
セレネスの提案で前にも使った赤い円卓のある部屋に集まって報告会をすることになった。
「まずは技術開発局から。破壊工作を受けたところの修繕が終わって、工場の試運転も問題なし。止まっていた魔道具や兵器の生産が再開したわ」
「今が戦時中ではなかったのは幸いでしたな。一部が生産ストップになり、しかも帝都まで何者かに潜入し、破壊工作までされたとなれば士気にも影響します。我は王国の妨害だと思いますが?」
「もしくは、最近になってちらほらと『マクール』から報告があった第三勢力によるものだろう。……ガーシュ、カイト。昨夜のことを聞かせてくれ」
セレネスに促され、まずガーシュが口を開く。
「セレネスに言われたとおりに、カイトと怪しい男女の二人組を追っていたところ、複数の人間から介入を受けた」
『マクール』は早い段階で帝国内に第三勢力がいることを感じ取って捜索していた。捕まった奴はまだいないが、お陰でレジスタンスは身を隠すしかなく、まともに活動できないでいる。
「俺を邪魔してきたのは刀を持った無精髭の男だ。一瞬、王国の新しい『抑止力』だっていう野郎かと思ったが、若くねぇしありゃ明らかに別人だな」
「戦ってどうだった、ガーシュ」
「身体強化系の魔法で俺と正面からやり合いやがった。かなり上位の剣士だな。あと、見覚えのある踏み込みをしていた。イブキの旦那……たぶんアンタの教えを受けた人間だ」
「ふむ……それはそれは、ちと我の立場が揺らぐ流れになりますかな」
イブキは見習い騎士の育成の傍らで『冒険者ギルド』でも剣術指南をしていた経歴がある。
そして、イブキから教えを受けた者たちの共通点があるらしく、それこそがガーシュが言った踏み込みだという。俺にはどう違うのか分からないがな。……んで、どうやらガーシュはレンの踏み込みを見て、その共通点とやらがあると確信している。
(……つまり、レンはイブキから指導を受けていたと?)
確か、イブキは数日前からほんの僅かな休日を得て帝都を出ていたはず。だとしたら、その時にどこかでレンと出くわした? でもそれなら帝国にレンがいることがバレて、今頃は大捜索が始まってるはず……。
「我の教えを受けた者が、ガーシュ殿の邪魔をし、帝国に刃を向けた───これが知られればコソコソ動いている者が騒ぎ立ててくるでしょうな」
「……なによ、またどこかの貴族や大臣が騒いでるの?」
「ああ、どうも彼らは人目を気にして影に隠れようとしているようなのでな。少し前から目をつけているのだが、中々尻尾を見せない」
「まあでも踏み込みくらいなら、気にしなくても大丈夫じゃねえか? イブキの旦那が誰彼構わず指南したがるのは周知の事実だし」
レンについてイブキから言う気配はない、か……。
「そうだ。カイト、お前からも言うことあるだろ」
「黙ってろガーシュ、今言うとこだったんだ」
「ンだと」
「やんのかオラ」
「はいはい悪ガキ共そこまでにしなさい」
「「ガキじゃねえ!!」」
タタルに注意されて揃って反論、ハモったことに苛立ってまた睨み合う。なんだってガーシュとはこうも相性が悪いのか。
「はぁ……ガーシュが剣士に抑えられてる間、俺だけでその二人組を相手にしてたが、まあ当然俺だけでどうすることもできず地面に埋められたよ」
「ガーシュと共闘でも無理だったか」
「そうだな───」
昨夜のことを思い返す。
紡、そしてルコア。二人の戦闘スタイルは、元々いた世界のことを聞いていたからある程度は予想できていた。しかし、ここまで俺と相性が悪いとは思わなかった。
「まず男の方はとにかくゴツい筋肉の塊みたいな大柄、俺の弾は内部まで届かず表皮を破いたところで止まったし、ガーシュのダガーも僅かに切っ先で皮膚を斬るだけで終わった」
筋肉の密度、といえばいいのか。俺とガーシュの攻撃は紡の筋肉の前に屈した。とにかく素の肉体の強度が桁違いなのだ。
「太い木の幹を片手で握り潰すわ、岩を拳で容易く粉砕するわ、地面を踏みしめただけで地割れ起こすわ、バカみたいな攻撃力だった。しかもデカい図体のくせして動きが早い。小回りは利かず、直線的なのがまだ救いか」
やっていることは大型魔獣と遜色ない。俺を見て察してくれたのか本気を出さなかったからこちらも被害はなかったが、もしむ向こうがその気できたなら、俺はガーシュを置いて逃げ出していた。
「ふむ……やはり、かなりの強敵だったか。それで同士よ、もう一人の女の方はどうだった?」
「……あー、たぶんヤバさで言うなら女が一番だな。彼女が帝国軍で先頭に立っていたら、間違いなく無敵の軍団になっただろ」
そうだな、と隣でガーシュが頷いている。
「セレネス、あの女はヤバい。肉体の強度では男の方が上だが、単純な戦闘能力なら間違いなく女が強いぞ」
ガーシュと二人で夜の山中を歩く紡とルコアへ奇襲した時、真っ先に気づいて反撃したのがルコアだった。しかもその反撃の仕方には度肝を抜かれた。
『姐さん? 俺を掴んでなにをおおおおおおっ!?』
『フンッッッ!!』
『『ぎゃあああああああ!?』』
「───身長差が二倍三倍ある男の首根っこを掴んで、俺とガーシュへぶん投げやがったんだ。女の細腕一本で……」
「「「………………」」」
静まりかえる室内。分かるよ、にわかには信じがたいんだろう。でも俺とガーシュの顔を見て察してくれ。
「しかもだ」
「まだあるのか」
「あの女は周囲の人間の負傷を治す……治癒魔法ではない、異能の類いだ。有効範囲もかなり広いと思う」
「なんと……」
セレネスが絶句し、タタルは顎が外れたみたいに大口を開け、イブキはタラリと汗を流す。
「戦闘はほぼ男の方に任せていたが、めちゃくちゃな戦闘能力と治癒能力があることは直ぐに分かった。俺とガーシュがどれだけ攻撃しても、向こうはノーガードで反撃して、それを食らえばこちらはただじゃ済まない、どうにか負傷させてもすぐ女が治す」
ありゃどうやっても無理だ、と肩をすくめる。
「な? 俺だけじゃどうしようもないだろ?」
「そうだな、そこまでの相手に準備もなしではカイトも無理か。その後はどうなった?」
「俺を埋めたところで潜伏してた冒険者が出てきて剣士も連れて転移したよ」
「冒険者?」
「見覚えのある女だった」
俺は懐から冒険者の身分証であるカードを取り出してセレネスに投げ渡す。
「準Aランク冒険者、サクラ……。確か、試験でギルドマスターを魔法一発で吹っ飛ばしたという冒険者だな。中々の強者で、いくつか貴族とも繋がりを得ていてるとか。私も遠目にだが見たことがある」
「ここに来る前にギルドから無理言ってカードの控えを借りてきた。夜闇でよく見えなかったが、その女で間違いない。……転移する間際に、王国と言ったのを聞いた。どうやら転移先は王国らしいぜ」
「ほう……?」
少しだけ、セレネスの纏う雰囲気が変わったのを感じた。同時に室内は緊張感のある空気に支配され、俺は逃げたくなる衝動を押さえる。
「ガーシュ、部下を何人か使ってこの女のここ最近の動きを調べてくれ。残りの部下と君自身は情報収集だ」
「どこの情報が欲しい?」
「国外……王国方面だ、あちらの騎士には見つからぬよう注意してくれ」
「了解だ」
ガーシュは直ぐに席を立ち、部屋を出ていく。
「タタル、できる限りでいい。開発中の武具の完成を急いでくれ。兵器開発の人員も使え。ただし生産ラインは止めない範疇で、だ」
「オーケー」
「イブキは騎士たちの育成を継続。多少は厳しくして、即戦力になるようにしてくれ」
「心得ましたぞ、セレネス殿。ではカイト殿、お先に失礼」
セレネスに指示されてタタルとイブキも退室。俺だけが、セレネスと対面する形で残された。
「同士よ、我ら帝国はお前の望みを叶えた」
静かに俺を見据えてセレネスが言う。
「……ああ、お陰で全員殺せた。後始末してくれたことも感謝している」
こちらの心を見通し、不自然な言動を逃すまいとするセレネスの目。俺の狙いを悟られないよう、自然を装って、目をそらさずに答える。
「以前殿下に誓ったこと、忘れてはいないな」
「まさか。もう俺は帝国の駒で、その指し手はお前や皇太子殿下だ。お望みなら悪魔の力で王国に一発ぶち込んできたっていい」
まあ、俺の役目は対抑止力としてレンや勇者の相手をすること。ネルガの対価だって簡単には用意できない。いくらセレネスでも、開戦前にそんな大々的なこと命じてくるとは思えないが、
「───そうか。ならちょうどそれを頼もうとしていたところだ。対価は払う。こちらは開発局を爆破されたからな。その報復として王国の適当な街を吹き飛ばしてくれ」
「…………分かった」
マジかコイツ。




