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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第二章
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第百八十話「ついに出番だな姐さん」「血が沸き立ちますねぇ」

変装した姿のレンを見送った後、木の陰から出てきたオウカへ視線を向け、予想よりも早い再会に笑みがこぼれる。……大方、レンの姿を変えたのはオウカの『変化』によるものだろう。オウカの力なら、いくらガーシュでも見破られることはないはずだ。


「まさか、近くにいるとは思わなかったぜ」

「うん……」


声をかけると、やや緊張ぎみに頷いた。


「なんだよ。この前、敵意むき出しで俺と戦ったことでも思い出して気まずくなったか?」

「あれから考えたの。私のことを知って、カイトがどう考えて、実行したのか。……私ね、カイトが私に言うことに嘘はないと思ってる。だから、手段はどうあれ、私が死なないようにとカイトが必死になって動いてくれたことは嬉しい」

「そうか……」

「でも、今の私の状態に対してどう責任とるつもり?」


オウカは自分の胸に手を当て、俺へ詰め寄る。


「私の復讐劇はカイトの手で終わり、私の人生という物語は白紙になった。でも、そのせいで心が変に平静になってしまうの。何もかもが味気ないし、色褪せてる。このまま生きていたら私の存在も希薄になるんじゃないかって考えてしまう」


その点については、俺もそうなるんじゃないかと思っていた。死なせない為とはいえ、他者の物語を改竄・白紙化したのだ。記憶や精神になんらかの変化があるはずだ、と。


「カイト、いいの? 私が消えても……」

「そんなのお断りだ。もちろん、責任はとる」


だからこそ、その対策も考えた上で計画を立てた。


「安心しろ。お前に関することだけは、責任をもって最後までやり遂げる。だからお前たちも……戦争を王国の勝利もしくは早期終結の為に、力を貸してくれ」

「いいよ、もともと私やレンたちはその為に来た」

「───なるほど、であれば私たちもお手伝いしたほうが良さそうですね。というかそのつもりのようでしたし……」


近づいてきたのはさっきまでガーシュが戦って手こずっていた男女二人。


「ルコアさん、久しぶりだね」

「はい。オウカさんも、お元気……というにはちょっぴり微妙なとこでしょうか、ご無事でなによりです」


一見、穏やかで優しそうな、コートを羽織った修道女。しかし両手にある見るからに凶悪そうな鋭い爪を備えた篭手が、彼女の柔らかな雰囲気を台無しにさせている女性、ルコア。


「えっと……後ろにいるのは、もしかして弟さん……?」

「はい、そうです。───オラ、ツム。挨拶しな」

「姐さん、素が出てる……」


ルコアが肘で、ドスッと音がでるほどの力で小突き、後ろにいる巨漢へ前に出るよう促す。


その巨漢は一言でいえば筋肉の塊。身長も二メートルは超えている。紺のジーパンに上半身は黒の革ジャンのみのほぼ半裸、茶色の短髪、黒い目、十字架のネックレスをつけたイケメンだ。


「ども、名前は夢原(ゆめはら) (つむぐ)です。姐さんみたく、ツムって呼んでもいいんでヨロシク」

「始めまして、ルコアさんから聞いてると思うけど私はオウカ・ココノエ。それからこの子が……」

「わたしは、ル、ルイズ・アレイスターです、そしてこっちが使い魔のロルフ、あと今あっちで戦ってるのがわたしの従者、レンよ」

「ワン!!」


オウカは身内にデカい人がいるからだろう、そこまで驚かなかったようだ。ルイズは気丈に振る舞ってるものの、やや顔が引きつってる。んでロルフは……あー、味方と分かるや尻尾振ってるわ。


『キューッ!!』

「おっと、お前も久しぶりだなコン」


オウカの使い魔『野狐』の一匹。やたら俺に懐いていたコンが茂みから飛び出て、俺の首に巻き付いてきた。


「ルコアさんはどうしてここに?」

「そちらの彼に、前々から話を聞いていたのです。───あの森は危険だ、早いうちにどこかへ身を隠せ、と」

「カイトが?」


おっと、なんかオウカの目つきが鋭くなった。


「カイト、説明。あとコンは離れて」

『ギュッ!!』

「ぐえっ」


背筋が凍るような声色にコンの巻き付く力が強くなり、俺の首が締まる。なんか懐かしいなこの流れ。


「ルコアとは帝国に来てから何度か接触していたんだ。あの森はいずれ帝国軍が開拓して後詰の部隊とかを配置する予定でな、冬が過ぎる前にどっかへ行くように話してたんだよ。だから浮気じゃない」

「そもそも私たちまだ付き合ってもいない」

「あ、はい。そーですね」


じゃあなんでそんな俺を責めるような目で見るんだよぉ。


「彼の言うように、度々帝国軍が森を見て回っているのを目撃しまして、平穏な暮らしが出来なさそうでしたので直ぐに支度して家を飛び出したのです。でも行く当てなどなく、どこか村の宿にお世話になろうかと思っていた矢先、彼を連れたあの男に襲われたというわけです」

「うちの元帥が二人の力に目をつけたようだ。どうやって知ったのかは分からないけどな。まあ捕まったとしても、強者至上主義なところだから居心地は悪いことにはならないはずだ」

「でも無理やりにでも戦わせられるのでしょう? それは嫌です、戦うかどうかの判断はこちらでしたいのに」


うんうん、と紡も頷く。


「俺としては王国に加わってもらいたい。帝国軍の二個中隊くらいなら、二人だけで戦えるくらいの力はある。だいぶ王国側も助かるだろ」

「二個中隊に二人だけでぇ!?」

「……そんなにルコアさんとツムくんは強いの?」

「強いですよ、私。もちろんこの舎弟……コホン、弟も」


ふふふ、と笑うルコア。パキパキと指を鳴らす仕草はとても自然に行われ、それが彼女の癖なのだと分かる。弟の紡もサイドチェストで筋肉をこれでもかと見せつけてくる。


「本当なら別のタイミングで、他に選択肢は無く、そちらに選ばせる形にしたかったがな。どうか頼めないか、ルコア。王国の為に力を貸してほしい」

「今の段階で王国の勝率はどのくらいあります?」

「……四割ってとこだな。あとは両国がどこまで準備して開戦を迎えるか、だ」

「だいぶ劣勢ですねぇ……」


頬に手を当てて思案するルコア。


ルコアと紡の望みは平穏に暮らすこと。


よほどの理由がない限りは、共に戦ってくれと頼んでも首を縦には振らない。だからのっぴきならない状況下で選択肢を与え、レンたちと協力するしかないように仕向けたかった。だが、


「劣勢───上等です、やはり闘争(ケンカ)はケツに火がついてないとつまらないですからね」


見てくれと言葉遣いはシスターなのに、言ってることはヤンキーとかレディースとかを思わせる。いや根っこの部分はそうなんだろう。二人が元々いた世界がアレだし。


感謝する、と頭を下げて俺はオウカへ向き直る。


「二人を王国に連れてってくれないか」

「でも、私たちは───」

「連れてった後にまた来ればいい。それに俺はまだ片付けなきゃいけないことかある。ここで二人を逃がせば、ガーシュの目はまた国の外に向けられるはずだ。その隙に済ませておきたい。俺の手伝いはその後。そんなに待たせないから、良いタイミングのところで連絡する」


頭をトントンと指で叩く。これは、俺の能力でボイスチャットするという合図だ。


「さて、レンもコツを掴んだみたいだな。……合図を送ってレンを呼び戻して、ここを離れろ。それから紡、適当に穴を掘って俺を埋めてくれ。『ガーシュの代わりに捕らえようとしたけど返り討ちにあって埋められた』、と言い訳するから」

「ん、頭だけ出るくらいでいい?」

「ああそれでいい。間抜けな姿に笑われるだろうが、それでアイツの意識をそらせる」


ルイズは光の小精霊を召喚し、空へ飛ばす。紡はお安い御用だと頷き、大きな手で地面を掘っていく。


「ガーシュをかなり警戒してるね」

「アイツは俺の帝国版って感じだな。身体能力が高い分、俺の上位互換とも言っていい。流石は帝国軍最高戦力の一人だよ」


穴ができるのを見ながらオウカと話す。こうして、僅かな時間でも、オウカと話せるだけで俺の心は癒されていく。


「そうだ……レンに伝えておけ、まだ調べきれてないから確かなことは言えないが、面倒臭さで言うならアイツがトップだ」

「面倒臭さ?」

「ああ」


俺はこれまで調べたことから推測し、恐らくは、という言葉をつけ足した上で、オウカに言う。


「勝負を決める決定打、あるいはそれに繋がる一撃、そういった攻撃が当たらない───そんな感じだ」

「それは、厄介だね……」


遠くからガーシュの叫ぶ声が聞こえる。そろそろレンが戻って来るか、となるとガーシュも来るな。


「穴、できた」

「よし……っと、埋めてくれ」


ちょうど頭だけ地表にでるくらいの穴に入り、紡が土で埋める。オウカが『転移』の準備をし、そこへレンも戻って来た。


「なにこれ」

「いいからこっち来なさい」


ルイズに引っ張られるレン。見たところ負傷はない。……僅かだが、片目から淡い光が揺らめいてるような気がした。


「レン、色々と頼んだぜ」

「え? 色々ってなに───」

「転移」


レンがなにか言おうとしたところでオウカが手を叩き僅かな光を残して全員消えた。


……やれやれ、転移はそれなりに魔力を消費する。転移する人数によっては魔力消費が倍にもなる。オウカ含め五人と使い魔一匹、普通なら無理な数だが、今のオウカにはたいした問題ではないらしい。


「元相棒として、お前が強くなってるのは嬉しいことだ。オウカ……」


ガーシュの足音が聞こえる。あと数秒後にはアイツから煽られ笑われる未来を想像し、思わずため息をつく。


「紡め、がっちり地面固めやがって。身動きできないじゃねえか。ケツがかゆいったらないぜ、まったく……」

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