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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第二章
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第百七十八話「ねえ、レンくんになにしたの」「なんのことか我にはさっぱり」

「『泰山公』に稽古をつけてもらったぁあ!?」

「ご、ごめんなさい……」


夕食を済ませた後、部屋で今日あったことをルイズとオウカさんに報告した。そして怒られた。


「ルイズちゃん、気持ちはわかるけど声が大きいよ」

「むぐ……こ、コホン……。それで、レン。お互いに正体がバレたってことでいいわね?」

「うん。剣を交えて、この人は只者じゃない、明らかに格上だと分かった。帝国騎士って感じでもなかったからそれよりも立場が上の人、誰かにものを教えるのに慣れているようだった、オウカさんから『泰山公』は見習い騎士の育成をしているって聞いてたから、もしかしたらと思って……」


『泰山公』、イブキ・オルト・タチムカイ───帝国軍の将軍という立場にあり、いずれ『赤枝騎士団』になる見習い騎士たちを育成しているという、異国から来た初老の男。


その特徴を話すと、本人で間違いない、とオウカさんは頷いた。


「まさか、本籍はこの村だったなんて……そこまでは調べてなかった。稽古をつけてもらったって言ったけど、その後どうなったの?」

「本当に稽古をつけてもらっただけなんです。次に会う時は敵同士だ、とだけ。それから明日には迎えが来るから早めにここを発つように、と」

「なら支度して出発しましょう。レンには悪いけど、その話が嘘で、もうその迎えが来るかもしれないもの」

「分かった……」


イブキさんが嘘をつくような人ではないということは、直接会って剣を交えた僕が一番分かっている。でも、明日来るという迎えの人が、それよりも早く来ないとも限らない。


僕たちは直ぐに支度をして、宿屋の裏にある小屋で寝ていたロルフをルイズが叩き起こし、背に乗って村を出る。


「だいぶ離れましたね」

「ええ、でも次はどこに行きましょうか……」

「カイトと会うのは難しいだろうね、今後どう動くのか知ることができれば、こっちもそれに合わせて動けるのに」

「ジブリール様も言ってましたね。カイトさんの望む盤面に、それとなく周りを誘導するって」


どうにかカイトさんと会いたいところだけど、向こうがそれを避けているのか、それともなんらかの手段で意思をこちらに伝えようとしているが今はできないのか、中々知ることができない。


「レジスタンス……カイトさんはレジスタンスの人たちとは通じているようでした、少なくともあのアズマさんとはそうでしたし」

「そうだったわね。今は身を隠しているらしいし、見つけるだけでも苦労しそうだけど、レジスタンスの人と接触できればカイトさんと連絡がとれるかしら」

「問題は、どこに身を隠しているのか全く分からないから探しようがないところだけど───、っ!?」


突然、遠くから何か音が聞こえた。それも何か爆ぜるような、とても大きな音だった。


「なにごとっ!?」

「爆発……距離が離れてるのか、僅かに魔力を感じる。誰かが戦ってる……?」


オウカさんが直ぐに使い魔の『野狐』を召喚し、音が聞こえた方向へ向かわせた。視覚を共有しているのか暫く目を閉じ、何が起きているか口にする。


「四人……二人組同士、で戦ってるけど───って……」


オウカさんは何を見たのか驚いた様子で目を開く。



「そんな、なんであそこに……っ?」





■■■




「だああああ、クソがッ!! なんだアレ、面倒極まりないぞ。どんだけ攻撃してもきりがねえ!!」

「おいおい『悪路公』様よォ、あまり思ったことを直ぐに言わねえ方が良いんじゃねえか? あっ、もしかして演技だったりする? だったら悪いことは言わねえから、役者より芸人を目指した方が良いぞ」

「誰がなるかあ!! あと、演技下手じゃねぇから!!」


商人が利用する山道。この時期は物凄い積雪で利用不可になっているが、まあそれは大陸全てに当てはまる話だ。そんな場所で俺は苛立ちを隠そうともせず、こめかみに青筋を浮かべる『悪路公』のガーシュに声をかける。


「公爵殺して直ぐ、セレネスからの要請が来て、俺にも手伝ってもらえってあったのに、お前は俺の手は借りたくないんだろ? 後ろでうだうだ言われたくなかったらとっとと捕まえろよ。逃げられんぞー」

「チッ……ンなこと分かってんだよ!!」


ガーシュが駆け出す。


『悪路公』としてアイツが使う得物はダガー。装備は俺の義手の材料にもなった特殊合金を使った試作の鎧を小型化して、関節や急所を隠す程度にした機動性重視。黒塗りして闇夜での活動を主にしている。


戦闘スタイルは暗殺系、しかし帝国人らしくゴリゴリの近接アタッカーだ。速度と手数、そして騎士や戦士と並ぶ攻撃力で、相手に反撃の隙を与えぬまま押し切る。


そんな奴がさっきから攻撃しているのは、ガーシュに見つかり、セレネスからも別の方法で目をつけられて、無力化しもしくは始末するようにと要請を受けてしまった男女二人組。


 ───よりにもよって、俺が前から何度かこっそり接触していた二人だった。


(ガーシュのことだから……あー、始末の方向でやってるんだろう。それは非常に困る。あの二人は王国側にいてもらいたい。どうやってこの状況から逃がしてやるか───ん?)


『闇影』の能力で、闇夜を通してやや離れたところに()()()()がいるのを見た。しかも、こっちに向かってきている。


(……………)


色々と疑問があるが、チャンスだと思った。


(あの時、お前のもとから去った手前、テメェが言うなって話だが……信じるぞ。オウカ)


近くの茂みからキューキューと、小さな小動物の鳴き声を聞き、俺はその方向に向けてサインを出した。




■■■




オウカさんがこちらを見て頷く。


「……信じますよ、カイトさん」


オウカさんの『変化』で姿を無精髭の大人に変えてもらいながら、木々の間を縫うように駆け、『月夜祓(つくよのはら)』の柄を握る。


「……我が心、月を映す水面の如く、一切の揺らぎ無く、蒼白の光を我が眼に点ともさん……即ち、『蒼白ノ水月』。───我が刃、万象を渡れ」


草木を抜け、ダガーを手にしている男へ突撃する。


「ッ、なに!?」


不意打ちだったが、僅かに反応が早く防がれた。だが即座に鍔迫り合いに持ち込み、そのまま押し切る。


「なんなんだテメェ、退きやがれ!!」

「オオオオオオオッ!!」

「がッ───!?」


反撃しようと伸ばしてきた左手を掴む。相手の勢い、体重移動、正確な体捌き、その全てが噛み合った背負投げで、男を遠くへとぶん投げる。


「…………」


()と目が合う。


「ハッ……」


それは安堵か。彼は小さく笑い、行けと言うかのように顎で促した。何か言おうかと思ったけど止めて、投げ飛ばした男へ追撃すべく駆け出す。


(今、僕がやるべきはあっち。なるべく時間を稼いで、少しでもオウカさんたちが情報を共有できるようにするのが僕の役目───!!)


男は既に着地して体勢を整えている。


「テメェ……俺が『悪路公』と知ってて邪魔しにきたのかァ?」

「ッ、その名……」


警戒心を高める。


『悪路公』、ガーシュ・オルト・クリシュナン───オウカさんから聞いていた、帝国最高戦力の一人だ。まさか『泰山公』に続いて『悪路公』と会うことになるなんて……。


「まあいい。邪魔してきたってことは、最近帝国内でうろちょろしている反乱分子か。探す手間がはぶけた。仕方ねぇ、あの二人組は一旦アイツに任せるとして、まずはテメェから始末してやるよ!!」


ダガーをもう一本出し、両手に持って突っ込んでくる。


「"一気呵成"……為すは連刃、空を割る稲妻の如く」


移動速度は目で追える。今はダガーの二本による手数の差を埋めるべく、己の攻撃速度を強化する。


「オラオラオラァ!!」

「……っ」


恐ろしい攻撃速度だった。


リーチの差でなんとか凌いでいるが、地面すれすれかと言うほどの低い姿勢と、取り回しの良いダガーから繰り出される連続攻撃。


執拗に足を狙い、防御が下に集中させたところをがら空きの上半身へ不意を打ってきたり。ジャグリングするように二本のダガーを投げ、持ちかえて、あらゆる角度から不規則に攻めてくる。


(やりづらい……っ!!『泰山公』のように狙いがいやらしく、ラウのような限界度外視の速攻よりもなお速く、かつ不規則な攻撃!! このままじゃいずれ体のどこかを刺され、そこから切り崩される!!)


現状、"一気呵成"で無理やり全ての攻撃を弾いているからこそまだ拮抗しているが、それも長くは続かないだろう。


(なら、誘うか……!!)


ダガーを下から弾き、空いた胴へ蹴りを入れる。


「足癖が悪ぃなァ!!」

「───ッ、……!!」


素早く鞘に納め、『気』を練り上げる。


繰り出すは速く、鋭く、人体を容易く両断することを旨とした居合い。大きく踏み込み、『悪路公』へ肉薄しながら、必殺の抜刀を放とうとして、


「甘いんだよ!!」


『悪路公』はニタリと笑い、抜こうとした刀の柄を踏みつけ、鞘から抜けなくすることで居合いを封じてきた。


「刀を使う奴は決まって居合いでキメたがるもんだ。だが俺には通じねえ、残念だったな!!」

「甘いのはそちらだ」

「ああァ……?」


居合いとは、鞘から刀を抜くのではない。その逆だ。即ち───()()()()()()()


「ッ!?」

「斬───!!」


足を押しのけて、体勢が崩れたところを見逃さず。ここで仕留めるつもりで、脳天から股下にかけて、一気に振り下ろした。


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