第百七十四話「ロマン武器いいよな」「いい…」
森の奥からロケットみたいな何かが上昇して急加速、弧を描いてあっという間に公爵邸の近くに落下。衝撃で砂を巻き上げながら、スーパーヒーロー着地した。
「お前ェ……最初の銃は、俺を油断させる為のもので、戦車クラスの一撃を当てるのが本命かァ!!」
え、いや、そういう訳ではないんだが……まあ、そういうことにしとくか。
「明らかにダメージを受けたな。ご自慢の装甲は、軽く凹んだくらいか。だがその衝撃までは受けきれなかったと見える」
「今のは油断しただけだ。次はそう簡単にはくらわねェぞ!! 姿勢制御と衝撃緩和のプログラムの修整に、さっきの黒い霧と砲撃を解析したからな。お前、あの霧から武器を出せるのか!!」
「おっと……流石は未来の戦士、さっきの一連の流れを記録してスロー再生でもしたか? 出して、撃って、消すのを最速で行ったのにバレちまったか」
ちょうどいい、その程度の認識のままでいてくれた方が俺もやりやすくなる。
『魔は独り、騒乱に酔う』はただ武器を出して、使用するだけのものではないことを奴はまだ知らない。もしかしたら憶測や可能性の話として、武器を出すこと以上のなにかが出来るとサイノスが想定していたのなら、それはそれで好都合だ。
とどのつまり黒霧に対して脅威や警戒心をいだいているということ。
それっぽい動きを見せるだけで、勝手に悩んで動いて、過剰に反応してくれる。
(完全に肉体が機械化されたとはいえ、そういうキャラ付けで動くようプログラムされた機械ではなく、意思も感情もある人間だ。搭載しているシステムとかも彼の意思や思考を補佐するだけ。───だったら、人間を相手にするのと変わらない……)
黒霧を後方に、広範囲に広げる。そして出てくる大量の銃身。
「対物、対ビーム、どちらにおいても一級品……確かにそうなんだろう。戦車の砲弾を至近距離でくらったのに生きてるんだからな。けどよ、どれだけ硬くても限度はあるだろ」
ハンドキャノン、ショットガン、ヘビーアサルトライフル、ヘビースナイパーライフル、ロケットランチャー、ジャベリン、ランチャーグレネード、レールガン───とにかく威力の高い武器全てを黒霧を介して召喚する。
「それに加えて、トンデモ科学でできたお前の装甲や内部の修理をできるほどの技術者は、この世界にはいない。破損覚悟の無茶はあまりできないじゃないか?」
─── 一斉掃射、開始。
「チィッ……!!」
サイノスは両腕で防御し上半身を守りながら、振り注ぐ銃弾や榴弾の射線から逃れようと、全力でブースターを吹かして逃げ回る。
見た感じ、両腕両足の装甲が特に硬い。
そんで、カス当たりは許容し、直撃は避けるべくブースターの角度を微調整してホバー移動。先ほど戦車の砲撃で少し凹んだ胸部が特にガードが硬いのは……俺の気のせい、ではないと思っていいか。
(やはり、サイノスも分かってはいたか。この世界とサイノスがいた世界では文明レベルが違いすぎることを。そもそもここは魔法で発展した世界だ、技術分野だって違う)
ぶっちゃけ……奴を修理できそうな奴なら、一人だけ、心当たりはある。まあ、それを教える予定は今のところ無いけどな。
「足を止めたらまた戦車ぶっ放すからなー」
「なら足、つかブースター狙うのやめろォ!!」
「デカい図体のくせして高機動なのが悪い」
高性能で頑丈でも、流石にブースターまで装甲並の硬さではないだろう。集中狙いしてみたら明らかに回避行動の本気度が増した。
「あァくそ、あの屑公爵め!! アイツが飛び道具を使うと聞いたが、ここまでだと予め言われてたら『おう助けるぜ』なんて即答しなかった!!」
悪態をつきながらサイノスは向きを変えて俺へ突進してくる。
「予想外の弾幕だがよォ……お前と似たような戦い方をする、全身に砲門のせた敵と戦ったことはある。攻略法は───射手であるお前に近づいちまえばいい!!」
「っ、そう来たかッ!!」
一斉掃射は続けながら全力でサイノスから逃げようと 駆け出す。
「一度近づいちまえば自分ごと撃ってしまう可能性がある。それを考えずに撃ち続けたもんだから、ソイツは穴だらけになって自滅したが、お前はどうすんだよ、ああァん!?」
あー、駄目だコレ。Sランクの脚力でも追いつかれる。加速力がトンデモナイぞアレ。最初は逃げ切れるくらい離れてたのにどんどん距離が縮まってる。
「ったく、そのエネルギーはどっから来るんだかな。魔力じゃないだろ!!」
「動物機械人専用の小型恒星炉。外部からのエネルギー供給も必要無い、半永久機関だ!!」
「やっぱお前の世界おかしーって!!」
実質、無制限で常に全力全開でも問題ないってことだ。そのエネルギーでブースター吹かしてるんだ、そりゃ殺人的な加速力だって出せるか。
「潰れろやァ!!」
「っ……!!」
あっという間に追いつかれ、サイノスは両手を頭の上で組んで振り下ろしてくる。あんなの喰らったらミンチになるどころの話ではなくなる。
「そんな大振り当たるか───、っ!?」
俺が使える少ない魔力も総動員しての全力回避で逃れようとした時、グッと引っ張られるような感覚がした。
「……は?」
サイノスの脇下から伸びる、細くも頑丈そうな鋼鉄の腕。鋭い爪を備えた三本指の手がガッシリと俺の左腕を掴んでいた。見間違えようもない。それは紛うことなく、
「サ、サブアームだとぅ!?」
「こういうのは隠してこそだろォ!!」
そうだよなロボットならそういうのも有りだもんな!! 完ッ全に失念してた!! でも、なんでピンチなのにちょっと興奮してんだ俺ぇ!!
「さァ、観念しな!!」
「くそぉぉぉおおおおお!!」
仕方ねぇ、あとではめ直しだ!!
カチカチと手首を動かし、義手のロックが外れたのを確認して大急ぎで後ろ飛び。空振ったサイノスの両腕は地面に叩きつけられてめり込んだ。
「義手、かァ? ……ああ、だから左腕だけカメラに映らなかったわけだ。近いとこにあったから左腕を掴んだが、これは俺の落ち度だな」
やれやれ失敗した、と言いながら離れたとこにポイッと義手を投げ捨て、サイノスは再度ブースターを吹かす。今度こそ俺を掴まえて、必殺の一撃を叩き込むつもりだろう。
(タタルに頼んで、自由に取り外しできるようにしてもらっておいて良かった。シールドが合ったとしても普通に死ねるね。つか、この世界の強めの一撃全般がそれなもんだから、シールドがあっても油断できないんだよな……)
どうせ一撃喰らって死ぬのなら、もうシールドがあっても無くても変わらないんじゃないか───そんな気さえしてしまう。
(初速では俺が勝つ、だがそこからの速度は一定だ。対してサイノスはどんどん加速する。となると……勝っている初速に勝機を見出すか)
思い出すのは『泰山公』との特訓。どこに行こうと追い付いて、先回りして、容赦なく一撃を見舞ってくる中で、どうやってこちらの攻撃を当てるものかと悩んでいた時、
『───流石にセレネス殿やユキナ殿のような猛者には及びませんが、回避や逃げの時の、カイト殿の初動の速さは帝国内でも上位に位置するでしょう。あれを攻撃に使えたなら、なかなかの威力になるのではないですかな』
(……やってみるか)
残りの魔力からして身体強化できるのは一秒もない。
脚力はBになってるが、どうせ即死級の攻撃がきてビビってSになるから問題なし。
あとは武器……確か『保管庫』にはアレがあったな、義手がないから片手でやるしかないが、なんとかなるか───いや、回収して誘うか。
「………っ!!」
投げ捨てられた義手へ向かって駆け出す。
「させると思うかァ!!」
(……来た)
進路を阻もうとサイノスがブースターを吹かす。
(それでいい。全身機械でも人としての意識があるなら、邪魔しようと俺に意識を集中させるだろう。そして魔法というものをよく知らず、そういう能力としてしか理解していないなら、他になにかするか予測はできないだろう)
義手は影に沈み、左腕に戻って装着する。
「な、に……!?」
フリーズ───パソコンや端末が操作を受け付けず画面が固まる現象。主な原因はメモリ不足、高負荷な処理に、アプリの不具合。
当然、これはサイノスの身体にも起こりうる。
どれだけ未来の技術で作られたものだとでも、動かしているのは人の意識。システムに補助されていようが、当人にとって予想外のことが起これば、ほんの僅かな瞬間であっても硬直する。
俺が走って目指したのは義手ではなく、それを阻もうと進路上にくるサイノス自身。予想よりちょっと近いが、誤差と割り切る。今はこの硬直時間を無駄にするべきではない。
「パイルバンカー!!」
前腕部に装着できるように小型化された釘打機。
ゲームでは、どんな建造物の壁でも、戦車の装甲でも容易くぶち抜き、プレイヤーのHPを消し飛ばす一撃必殺のロマン武器として実装された。壁越しでもキルを狙えるショットガンとして、実装時は多くのプレイヤーが使っていたものだ。
欠点としては一発限りであること、射出時の音が物凄く大きくその音を聞きつけて漁夫狙いで他のプレイヤーが来てしまうこと、武器説明にある『重い』という設定を表現する為かエイム時操作がクソ遅いということ。そして実際マジで重い。
(義手回収して正解。そんでまあ、こんだけ近けりゃ狙う必要は無いな!!)
「クソがァ!!」
必死すぎて両手だけじゃなくサブアームも使って俺を掴み殺そうとしてくる。───やるなら、ここだ。
(身体強化……!!)
【脚力強化:B→S】
義手の常時発動効果、そして残りの魔力を余さず使って自力での強化を合わせた、一秒限りの全力強化。それを脚力のみに行い、迫るサイノスの両手とサブアームを掻い潜り、パイルバンカーを胸部に押し付ける。
「っ、……お前ェ!!」
「Checkmate」
射出された杭は、胸部装甲のわずかに凹んでいた部分に命中。装甲を突き破り内部を破壊しながら突き進むも、貫通はしなかった。だが、
「が、ギ───………」
杭の勢いでサイノスは数メートル吹っ飛び、僅かに身動きした後、その目から明かりが消えた。




