第百七十三話「巨大ロボとかってあった?」「なんなら戦艦だって変形してた」
人口増加やそれによる食料不足、飢餓に苦しんでいた人類は、延命とさらなる発展を望み、あらゆる技術を総動員することによってついに肉体を捨て、意識をデータ化することで永遠に生きる術を得た。
ついには故郷である星を機械化するまでになり、太陽系の星すらも巨大な配線で物理的に繋いで、超巨大な一つの機械にしてしまった。
そして人類はデータの中で生きながら、定期的なメンテナンスと太陽系外から来る侵略者から故郷を守る為に、強力な戦士と兵器を欲した。
星に降り立った侵略者を迎え撃つ為の人型兵器。その中でも、かつて存在していた大地を駆ける動物をモチーフに独自改良した者たちこそが───動物機械人だ。
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「ブースター、オン!!」
背面と脚部から爆発のような勢いで炎を噴き、突撃してくる。前傾姿勢になり、ショルダータックルの構えで押し潰すつもりか。
「……っ!!」
単純な速さならレンには及ばない。
だが、三メートルは越える巨体が、点火から急加速して一気に突っ込んでくるのは中々に怖い。もし当たれば、頭にあるサイの角で体をぶち抜かれるだけじゃすまないだろう。
目で追えてしまえる分、この後どうなるか理解できて、それが余計に恐怖心を煽ってくる。
───だが、この程度ならまだ戦いようはある。
「あァ?」
やたら高価そうな家具やら絨毯をブースターの噴射で焼き、吹き飛ばしながら、ロケット頭突き(角付き)してくるサイノスが廊下を突っ切った後に、振り向いて驚いたように声を上げる。
「どーいう原理だ?」
「教えるわけねぇだろ」
俺は今、天井からサイノスを立って見上げている。
なんてことはない。
サイノスの突進を天井にぶつかるぐらいの勢いでジャンプして躱し、天井に出来た俺の影を『手』とすることで、俺を掴んでもらってぶら下げているだけだ。
(まずはその装甲の硬さを教えてもらうぞ)
即座に腰のベルトにつけたホルスターからハンドキャノンを抜き、両手で持って発砲。大口径の弾丸がサイノスの胸部へと一直線に突き進む。
「銃か……っ!!」
人間なら横に数人並んでも余裕がある廊下だが、サイノスはその巨体故に左右に避けようとしてもどこかしらに当たる。ブースターを点火するにも僅かだがラグがあった。俺と奴の距離は四メートル、ハンドキャノンの弾速を考えれば回避不可───命中、確実。
チュイィィン───…
金属の擦れる嫌な音。一瞬、飛び散る火花。
サイノスの装甲に当たったハンドキャノンの弾丸は、わずかに体を揺らす程度の結果しか残せず、代わりに跳弾して斜め後ろの床をぶち抜いた。装甲には傷一つ、無い。
「銃……人間が生身だった時代に使ってた、古代の火器だな。記録映画で見たことがある。確かにこの世界なら有用だァ。だが、俺たちは戦艦を持ち出してくるような侵略者を相手にしてきた。対物、対ビーム、どちらにおいても一級品よォ」
そうだよな。そうなるよな。
内心で舌打ちしながら天井から降りて改めてサイノスの姿を見る。
(サイを人型にしたような二足歩行。前傾姿勢に加え、装甲も平面ではなく湾曲していて、正面からの攻撃を受け流せるようになってる。そんでハンドキャノンくらっても無傷で頑丈ときた……)
よくもまあ、俺が苦手な、ただただ物理的に硬い相手をここで用意できたものだ。過去イチ相手にしたくない敵だぞ。ロボットとか、世界観考えろってんだ。
(ハンドキャノンよりはヘビスナか? それともレールガンが良いか? もしくは戦車か……いずれにせよ───)
殺すべき公爵の場所は影を通して見つけた。護衛として獣人が二人。移動する様子は無い。あの勝ち誇った笑みからして、サイノスが俺の天敵だと確信しているな。
正直、影を通じてここから撃てなくもない。
しかしそれでは味気ない。俺は見たいんだ、自分は勝つと微塵も疑ってないあの顔が、奈落の底に叩き落とされて絶望に変わる瞬間を。だからまだ、だ。まだ手を出さない。
(サイノスの反応……俺が銃を使うとは知らなかった感じ、けっこう最近この世界に転生してきたか。そうなると、公爵にとって都合の良いだいぶ偏った説明を受けてるかもしれない。戦わず対話のみで終わらせられるかどうかは、ちと怪しいところだな……)
頭の中でどうサイノスを攻略しようか考えながらバックステップで距離を取る。
「アレを喰らって無傷か。こりゃ駄目だな。お前を相手にするのは面倒だし、無視して公爵を殺しに行くとするかねぇ」
「させると思うァ?」
「だよなぁ。しかし、なんであの公爵に従う。今この国でなにが起きてるのか分かってるだろ」
まずは、サイノスがどこまで今の帝国の現状、クライト公爵がなにをしでかしたのか、これらについてどこまで知っているのか。もしくはどう教えられたのか。それを確認する。
「だいたいのことは把握してるぜ───帝国は隣の王国との戦争に備えて準備してることも。クライト公爵がやらかして、その報いを今受けようとしていることもな」
サイノスは言う。
この世界に転生したのは、俺が『撃鉄公』として三人の貴族に宣戦布告した日。その数日後だったらしい。元の世界では『侵略者』と戦闘中に爆撃されて全壊……つまりは死んだのだが、神とやらに今の姿のまま転生させられた、そして転生したところクライト公爵が目の前にいたという。
「はじめはお前の差し金かと思って攻撃してきたんだが、装甲のお陰で痛くも痒くもねェし、俺もどうしていいのか分からねェしで、とりあえず話しかけてみた」
転生者であること。この世界がどうなってるのか知らないこと。あと、敵意はないこと。自身の現状を話すと、クライト公爵はニヤリと笑い、
『実は、私は命を狙われている。我が国の皇太子が悪魔に取り憑かれ男に唆され、無実の罪で私を亡き者にしようとしているのだ。頼む。どうか私を守って欲しい』
なんてことを言ってきたらしい。
初めはそれを信じた。そして、悪魔憑きの男がどんな手段を用いるのか知るために色々聞いていると、だんだんボロを出してきて、
「あ、コイツ性根が終わってるわ。って思った」
自分で嘘を言っておきながら、サイノスはもう味方であると信じて疑わず、ワイングラスを片手に『本当のところ私がだね』なんて墓穴を掘って、最後はほろ酔い状態で自分がやったことを赤裸々に、武勇伝のように、自慢げに語ったらしい。
「俺にはもう血肉も臓器も無い。だけどよォ……うっかり殺戮モードになってぶっ潰しそうになるくらいには、反吐が出る話だった」
「……そこまで知っておいてなんでまだ味方をする。分かるだろ、アイツは殺されて当然の人間だと」
「分かる。……あァ、分かるさ。でもな───」
サイノスは関節部から蒸気を噴き出す。
「動物機械人は一度受理したことは破棄しない。出来ないんだ。たとえ、それが間違いでもな。しっかり精査してから請け負うのが普通なんだが……俺ァ、他と違って知能が低いからよ」
そう言って再びサイノスは突撃してくる。
(さっきよりも速い……ッ!?)
なんとか股下を滑り抜けて躱す。
「俺はこのオーダーを達成するべく全力で稼働する。どっちが正義で、どっちが悪かって問題じゃねェ。そういうのは戦場じゃあ関係ねェことだ。だからよ、ここで終わるのが嫌なら……テメェ、俺に負けられねェぜ?」
振り向きながら、一際強く点灯する赤い目が俺を見る。そこから感情は伺えない。だが、どこか少しだけ、俺を応援しているように聞こえた。
「そうだな……ここまで来たんだ、最後の一歩ってところでトチって踏み外したくはねえ。ああ、そうだ。やると決めたのなら、しっかり最後までやらなくちゃな!!」
これ以上の対話は不要。
真実がどうであれ、一度やると決めたらやり抜く機械人の言葉は俺のやる気を刺激した。───そう、終われないのだ。俺の全部を使って、必ずアイツを生かすと決めたのだから。
相性がなんだ。天敵だからなんだ。目の前にいるのはなんだ。
敵……敵だ、敵なんだ。俺の目的を阻もうとする、打倒し、撃破し、粉砕し、破壊し、蹂躙すべき敵だ。
「ハッ……だったら、もう加減はしないぞ。その硬い装甲、なにがなんでもぶち抜いて、スクラップにしてやるからな」
───『魔は独り、騒乱に酔う』
「黒い霧……? だが俺の目は赤外線カメラ内蔵だ、こんな目隠しでどうにかなると思うな、───んァ?」
「これならちったぁ響くだろ!!」
ゴツンと、サイノスの胴体に押し当てられる砲身。霧から戦車のそれだけを出現させ、奴がなにか気づく前に即放つ。
「放て!!」
雷のような凄まじい轟音。触れるほどの至近距離で放った砲弾により、サイノスは俺の視界から一瞬で消えた。爆炎と衝撃で周りにあるものは破壊され、俺も 対応が間に合わず吹っ飛んで廊下を転がる。
「いてて……」
起き上がって一先ず『保管庫』からシールドポーションを召喚して飲み、サイノスの初撃で削れたシールド値を回復する。飲みながらどうなったのか見てみると、
「おー、だいぶいったな」
煙が晴れる。戦車の砲弾をもろに受けたサイノスは、そのまま吹っ飛んで建物の壁を突き破り、外の森までいったようだ。森の奥で土煙が上がっているから、たぶんそこにいるんだろう。
「待機中のデコイ、奴の姿は確認できるか?」
『───こちらデコイ、煙で状況は不明。そっちで確認してくれ』
まあ、俺のほうが近いしな。まずはサイノスの排除。倒したのならそれで良いが、はてさてどうなっているのやら……。
「っっっっぶねええェェ───!! 一瞬だけクラッシュしてたわ再起動できて良かったァァァ!!!!」
一発じゃ無理か。つか、声でっか。




