実技試験の心構え
ふざけているのかこの老人……。
いや、待て……これも他の受験生の差し金か……?
何か仕組まれたか? いや、俺だけピンポイントなど出来る訳がない。
きっと何か――
「これは……測定値ゼロで報告するしかないのう」
俺はスーッと息を吸い、天を仰ぐ。
……こいつどうしてくれようか? 殺すか?
――いや、落ち着け俺。
そう言う思考は今はまだ不要だ。
俺は首を左右に振る。
思考を切り替えろ。
そうだ、落ちたと決まった訳ではない。
恐らく、俺の魔力は特殊だ。魔族と人間では構造が違うのだ。
人間の魔力を測定するために造られたこの装置では測定できないと言ったところか……。
「残念じゃが……」
不憫そうに見つめる老人。
俺はゆっくりと息を吐く。
「――そうか……仕方あるまい。別にこの試験だけが全てではないだろう。実技でその実力を示すだけだ」
「ほう! かっはっは、良い心がけじゃ。じゃが、魔力が測定できないとは初めてじゃよ。……ある意味楽しみじゃな」
「どういう意味だ?」
「魔術師は想定外に興味惹かれる生き物ということじゃよ。合格したらまたこの学院で会おう。そうしたら身体を少し調べさせておくれ」
そう言って老人はヒッヒッヒと怪しく笑う。
「不気味なことを言うな」
そうして俺たちは魔力測定の会場を後にする。
シリカは心配そうな表情で俺を見つめてくる。
「安心しろ。別に落ち込んではいない」
「でも……おかしいよ! あれだけ魔術が使えるゼノア君が測定自体できないなんて……きっと他の受験生が私の時みたいに邪魔を……」
「だとしても、俺には関係ない。実技で実力を示せば済むことだ。万が一にも俺が負けることはありえん」
「…………」
セリカはじっと俺の方を見る。
「なんだ」
「いや、すごいなあと思って。私と違って自信があって」
「ふん。人の上に立つ以上、弱みを見せるようなことはしないのが基本だ。常に最強に仕えているという幸福感を与えるのも、王たるものの責務よ」
「王……? 上に立つ……?」
シリカはぽかんとした表情で首をかしげる。
おっと、つい喋り過ぎたか。
「…………例えばの話だ。いくぞ、さっさと実技も終わらせる」
◇ ◇ ◇
実技試験は、魔物の討伐試験だ。
これもユーティミスからの事前情報通り。
ここで実力を発揮しなければ合格は不可能だろう。
ただ、人数が多いため、試験は四人一パーティで同時に行われるようだ。
その分チャンスは少ないが、一気に三人を引きずりおろせると考えれば悪くはない。
勇者学院の敷地内にはダンジョンがいくつかあり、そのうちの一つが闘技場の地下に広がっているという。
そこから新鮮な魔獣を引っ張り出し、入学試験のみならず授業でも使っているようだ。
「パーティが違うけど、お互い頑張ろうね」
「ああ、後で会おう」
そう言って、セリカは俺に元気よく手を振ると、自分のパーティの方へと向かう。
俺もその場を離れ、同じタイミングで試験に挑む他の三人の元へと行く。
「私はミーシャ。よろしくお願いしますね」
「ガンバだ。よろしく頼む」
「リコだよ! 皆、がんばろー!」
眼鏡の黒髪少女と、渋い顔をした大男、そして小柄な青髪少女か……。
自己紹介など、なかなか能天気なものだな。
ここに試験に来ている連中は本当に多種多様のようだ。
シリカのような純粋無垢な者から、試験を妨害する者……そしてみんなで仲良く合格しようとする者、か。
「緊張しますね……私自信ないかも……」
「そんなこと言わないで頑張ろうよ! せっかくのパーティ戦なんだし」
「そうですね……わざわざメラニカにから来たんです、頑張らないと……!」
すると、青髪の少女がパーっと目を輝かせる。
「メラニカ! いい国だよね~! 魔術の聖地! 私はこの国出身だから……海外行って見たいなあ」
「いいところですよ。是非遊びに来てみてください」
「いくいく! ――で、えーっとガンバさんは何処出身?」
「俺はリストニアだ」
「へー! 砂漠の国! みんな色んな所から来てるなあ……。っと、君は?」
そう言って、青髪少女のリコは俺の方を向き、顔を傾け俺の顔を覗き込む。
「……何がだ?」
「だから、名前と出身!」
「必要か?」
リコはぷくっと頬を膨らませる。
「必要でしょ! これから一緒に戦うんだよ!? 仲良くしないと」
「はあ……。俺はゼノア・アーウィンだ。出身はコウサ村だ」
「へえ、コウサ! イエローフォレストの近くね。この国の出身なら一緒だ! よろしくね」
リコは微笑みながら手を差し出す。
「ふっ、悪いが仲良くするつもりはない」
「ど、どういう意味よ?」
「四人一パーティで魔獣の討伐…………ここで目立てなければ合格は無理だろう。これはチーム戦なんかではない。誰が最も目立ち、活躍するか、それだけを見る試験だ。馴れ合いは不要だ」
俺の言葉に、場が静まり返る。
リコもミーシャも、困った様子で眉を潜める。
「――まあ、好きにするといい。俺は魔力測定が振るわなくてね。悪いが、速攻で片づけさせてもらう」
「そんな、魔獣だよ!? 確かに活躍も大事だけど、皆で協力してやらないと命だって危ないよ……?」
「その時はその時だ。ここには死んでも勇者学院に入る。その覚悟を持ってきたんじゃないのか?」
「そ、そうだけど……」
冷たく突き放してもなおも心配する素振りを見せるミーシャに、俺は若干の心苦しさと同時に、呆れを感じる。
「な、なかなか武骨なタイプみたいね。……そうね、あなたのやり方を否定はしないわ。試験に対する臨み方は人それぞれだものね。……お互いがんばりま――」
「きゃああああ!」
「「「!?」」」
急な叫び声は、前のパーティが発したものだった。
しかし、助けに動く気配は周りには微塵もない。
その様子に、他のパーティメンバーが委縮し始める。
顔色がどんどん悪くなっていくのが分かる。
しばらくして、中から係の人が現れる。
「次のパーティ。中に入って」
そんな空気のまま、俺達のパーティの番が訪れる。
薄暗い通路を抜け、ゆっくりと光りの方へと進む。
少しして、明りが差し込む場所にでると、そこには鉄格子がはめ込まれていた。
その先は闘技場の様になっており、反対側には目の前のものより更に巨大な鉄格子が同じように嵌められている。
ひんやりとした空気が、より一層緊張感を高める。
「さっきの悲鳴……。うぅ、緊張する……。確かに私覚悟が甘かったかも……頑張らないと」
「確かにあの人の言う事も一理あるけど、命あってこそよ。だって魔獣だよ? 普通の人間が一人で倒せる訳ないよ。冒険者だってパーティ組んで倒すんだから。あの人は手伝ってくれないかもしれないから……せめて私達三人で連携して倒そう!」
「う、うん……」
「そうだな。まずは目の前の敵……だな」
団結する三人の中で、気弱そうなミーシャが申し訳なさそうにこちらを見る。
俺は腕を組み、ゆっくりと頷くと、顎で前の方を指す。
自分のことに集中しろ、という意味を込めて。
俺に構っていると、死ぬのは自分かもしれない。
ミーシャはその意図を理解したのかは分からないが、俺に頷き返すと前に向き直る。
しばらくして、正面の鉄格子が、ギギギっと重厚な音を立て上がっていく。
俺たちはゆっくりと中に入っていく。
「闘技場だな、完全に」
「すごいね……」
全員が中に入ると、背後で鉄格子が閉まる。
「さて、どんな魔物かな。さすがにゴブリンとかライガみたいな魔物――」
「ガアアアアアアアア!!!!!!」
リコ達の声をかき消すように、激しい咆哮が聞こえる。
その迫力に、皆ビリビリと身体を震わせる。
「嘘、ちょっと待って、この泣き声って……!!」
「な、何、何か知ってるの!?」
「私の親、魔獣学者をやってるのよ! この泣き声……でも、試験程度でそんな……!! さっきの悲鳴って……!」
リコの顔の血の気が、一気に引いていくのが傍目にも分かる。
それを見て、他の2人も引っ張られるように委縮していく。
――そして、正面の門が開く。
暗いその影の奥から、魔獣がゆっくりとこちらに向かってくる。
一歩進むごとに、僅かに地面が揺れる。
固唾を飲んで見守る三人の前に、それはゆっくりと日の光の下へと、暗闇から咆哮の主が姿を現す。
二足歩行の魔獣。
顔は黒く、黄色い眼が光る。
トカゲのような頭に、強靭な肉体。
下半身は毛におおわれ、尻尾を地面に引きづる。
その魔物は、辺りをキョロキョロと見回し、俺達に視線を定める。
長くのびる舌が、不気味に震える。
そして、もう一度、激しい咆哮。
「ガアアアアアアアアアアア!!!」
「間違いない……"オキュリス"よ……! B級認定の魔獣……ッ! 試験で相手するような魔獣じゃない……!!」
ほう、オキュリスか。勇者候補を選抜するんだ、これくらいでないとな。
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