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絶滅の種

 困惑した様子で、彼女はおどおどと視線を泳がせる。


 俺は戸惑っているシルフローラの手を強引に引っ張り、自分の身体に引き寄せる。


「貴様ら、今回は俺に免じて許してやる。さっさと帰れ」

「な……んだと……! 何様だてめえ! 黙って引き下がれるかよ! こ、こっちは金貰ってんだ、仕事なんだよ!」


 そう言って五人が一斉に剣を掲げる。

 自分たちを奮い立たせ、声を張り上げる。恐怖に抗うように。


「全員で殺すぞ!! この男と女を逃がすな!」


 自分と相手の差もわからんか。 

 いや、ある意味仕事熱心な奴らと見るべきか。


 ――仕方ない。


 俺は右手をすっと前にだす。

 手のひらの前に歪な魔法陣が浮かび上がる。


「――"魔王の重圧(イビルプレス)"」


 刹那、見えない()()が、男たちの頭上から降り注ぐ。


 男たちの頬の肉が下に垂れ下がり、剣を持つ腕が下がっていく。


「ぐ……お……ッ!!」


 地面に転がる砂利が、上からの圧力で震える。


 男たちは、ほんの少しの間その圧に耐えていたが、数秒後にはその地面を舐めるようにひれ伏す。

 周りから見れば、男たちが急に地面に伏せたように見えるだろう。


「はっ、他愛ない……。達者なのは口だけのようだな。そのまましばらく地面とキスをしていろ」

「す、凄い魔術……」


 シルフローラが、ひれ伏す男たちを見て感嘆の声を上げる。


「こんなもの凄くもなんともない。殺傷能力はないからな」

「殺傷……」


 すると、周りからの視線を感じる。


 どうやら、少し注目を集めてしまったようだ。


「ちっ、厄介だな。……とっとといくぞ。ここを離れる」

「え、ちょっと――!」


 俺は女の手を引く。


「きゃっ、なになになに!?」

「いいからついて来い」


 俺はそのまま一気に走り出すと、人ごみを掻き分け路地の方に逃げ込む。


 試験前から余り注目を集めるのは得策じゃないと思っていた矢先につい手を出してしまった。


 殆ど素通りしていたからそれ程多くの人間には見られてないとは思うが……。

 殺しはしていないんだ、何とかなるだろう。


◇ ◇ ◇


「びっくりした……」


 シルフローラは、はあはあと息を荒げながら胸を抑える。


 すらっとした体躯に、金髪の長い髪。

 白いローブに、ショートパンツから健康的な脚が伸びる。


 俺はシルフローラの髪をさっと払うと、耳たぶを掴む。


「ふぇ!? ななな、なに!?」


 シルフローラの口から、甲高い声が漏れる。


 ふむ……やはり人間のそれだな。


 だが――こいつが()()()の血を引いているのは確実だ。


 エルフ族。

 かつて人間界に居た、人とは違う種族。


 数百年前に絶滅したはずだが、その血筋が残っていたか。身体的特徴からしても純血ではない……混血か。


 人と交わるエルフが居るとはな。


 エルフは高い魔術適性を有する。

 数は少ないが、その圧倒的火力で人間との均衡を保っていた種族。


 その力を受け継いでいるとすれば、魔術の名家として有名になっていてもおかしくはない。


 ……今はまだ気付いていることは黙っておくのが得策か。


 俺はシルフローラの耳から手を離す。


「いや、なんでもない。……無事でなによりだ」


 シルフローラは少し警戒した様子で自分の耳を触りながら後退する。


 が、息を整えると、すぐに笑みを浮かべる。


「……と、とりあえず、ありがとね。助かっちゃった」


 シルフローラは手でローブの汚れを落としながら、サラサラとした金の髪を耳に掛ける。


「気にするな。試験会場へ行く途中に喧しい連中を黙らせただけだ。君を助けた訳じゃない」

「あはは、結構紳士的なんだね」

「そう言う訳でもないが……。そもそも君は普通に戦えば勝てただろう?」


 すると、シルフローラは苦笑いしながら頬を掻く。


「いやあどうかな……一応いろいろ仕込まれては来たけどね……。でもありがとう、偶然でもたまたまでも助けてくれたのには変わりないよ。私、シリカ。シリカ・シルフローラ」


 シリカはスッと手を差し出す。


 俺はその手を握り返す。


「シリカ……。そうか、覚えておこう。もう絡まれることは無いだろうが、気を付けていくんだな。それじゃあな」


 俺は踵を返す。


 とりあえず、問題は解決した。


 皆あの場面を素通りしていたのが幸いか。

 恐らくそれほど騒ぎにはなってはいないだろう。


 毎年恒例の受験生狩りだと、良くも悪くもそう認識しているはず。

 俺の魔術を見た者もそれほど多くはあるまい。


 もしかすると奴らを雇ったやつは血眼で俺を探すかも知れないが……それはそうなった時考えればいいだろう。個人的な話なら対処はいくらでもできる。


 とりあえずは反省だ。試験が終わるまではもう少し存在を消しておかなくては。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 後ろから俺を呼び止める声が聞こえる。


「……どうした?」

「いやいやいや! 私名前言ったんだから!」

「? だからどうした?」


 シリカは短く息を止め、ググっと身体を強張らせる。


「――ふ、普通あなたも自己紹介しない!? そりゃ助けて貰った側の私が言うのもおかしいけど……名前くらい聞かせてよ」

「なんだそんなことか」


 やれやれ、面倒だな。


 だが、確かにこちらだけ一方的に知っていてもしょうがないか。


 ついつい魔王の頃の癖で誰でも俺の事を知っていると勘違いしてしまう。


 恩を売るんだ、俺のことを知っておいてもらわないと困るな。


「俺はゼノア・アーウィンだ」

「ゼノア君ね。わかった、この恩は絶対返すから! 私勇者学院に絶対合格しなきゃいけなかったから……助かったよ!」

「そうか。お互い無事受かるといいな」


◇ ◇ ◇


 少し遅れて、勇者学院の門をくぐり、会場へと到着する。


 勇者学院の試験は、魔力値測定と実技試験の二つだ。

 

 魔力の潜在的な能力を確認するための測定は意外と重要で、魔術という物は魔術師の家系でなければその才能に気付くのは難しいと言われている。


 なぜなら、人間には魔力を感知する能力がないからだ(極端に強大な魔力になると第六感のようなもので恐怖を覚えるとは言うが)。


 剣士が実は魔術の才能に溢れていた、というのは人間には珍しくない話らしい。

 その才能を見逃さないための測定だろう。


 それに、一流の剣士・武人ともなれば、無意識的に魔術と同等の力を使っていることは良くある話だ。試験としては申し分ないだろう。


 そして実技試験。これは言わずもがなだ。


 単純にして明快。


 ――ただ強くあれ。


 それだけを求める学院の姿勢が伺える。


 俺が知る勇者は、人間界を背負い、自己犠牲の精神の元、善良なる心で突き進む存在……。


 ユーティミスの言っていた学院内部の話と、この力一辺倒の試験から鑑みるに、どうやら現代の勇者は俺が戦ってきたものとは別の存在となっているようだ。


 恐らく、魔族をほぼ滅ぼしたことにより勇者という存在は形骸化し、力と名声の象徴という価値だけが拡大したのだろう。


 俺は口角が上がっていくのを感じ、慌てて口元を隠す。


 おっと、危ない。


 力だけを求める学院……俺にとってこれほど都合の良い場所はない。

 腐っても魔王……そこら辺の人間の学生風情に負ける俺ではない。


 もし勇者としての精神性なんてものを診られたらさすがの俺も苦労すると思ったが……これは好都合だ。俺の勇者への道もそう遠くなさそうだ。


「どうしたの? ゼノア君」


 口を抑える俺に、シリカが眉を八の字にし不安そうに声を掛ける。


「――いや、なんでもない。さっそく魔力測定の方に向かうか」



 会場では五列ほどに並び、受験者たちが順々に魔力値測定を受けていた。

 魔力儀と呼ばれる、魔力に反応する専用の装置を用いた測定。

 魔力儀に魔力を流し込むと、その魔力に反応し色が変わる仕組みのようだ。


「――青じゃな」

「くっ……!」


 前に並んでいた長身の少年が、悔しそうな顔で列を外れる。


 青……上から四つ目か。


 色の変化は七色。

 白、茶、緑、青、紫、黄、赤で、白が一番低く、赤が一番高い。


 魔力値が高い程好成績を残せるようだ。

 しばらくして、順番が回ってくる。


「ほい、じゃあ次。――シリカ・シルフローラ……」

「よし、じゃあ行くよ……!」

「……ほう」


 眼鏡を掛けた白髪の老人が、眼鏡をずらしシリカの顔を覗き込む。


「似ておるな……」

「え? な、何か……?」


 シリカは困惑した様子で老人を見る。


「――いや、こっちの話じゃ。いいぞ、魔力儀に触れなさい」

「はい……!」


 シリカはふぅっと大きく深呼吸をし、口をきゅっと真一文字に結ぶ。


「行きます……!」


 シリカの手が、魔力儀に触れる。


 魔力が発生し、どんどん魔力儀に注ぎ込まれていく。


 ふむ……やはりエルフ族の魔力を感じるな……。


 シリカの身体に魔力が迸る。

 魔力儀の周りに付いた輪が、高速で回転を始める。


 それに呼応するように、中心の球体状のクリスタルが徐々に色づき始める。


 白から茶、緑とどんどん色が変化していき、やがて色が一色で固定される。


「ほう……やはり"赤"か」

「赤……ですか……!」


 シリカの目がキラキラと輝く。


 当然だな。エルフ族の血筋が魔力値が低いわけがない。


 シリカは魔力儀から離れ、老人にお辞儀をすると、俺の元へパタパタと駆け寄る。


「やったよ、ゼノア君!」


 そう言って、シリカは無邪気にハイタッチを求める。


「はしゃぎ過ぎだ」

「いいじゃん! よかったーほっとしたよ!」


 強引に手を持ち上げられ、ハイタッチを強要される。


「次はゼノア君だね! 楽しみ」

「ふん、まあ見ていろ」

「あれだけの魔術使えるんだから、きっと大丈夫だね」

「次じゃ。あーっと、ゼノア・アーウィンか。魔力儀に触れるのじゃ」


 俺は言われた通り、そっと魔力儀に触れる。


 下らん測定はさっさと終わらせよう。


 やる前から結果の分かっていることほどつまらんことはない。


 グッと力を入れ、魔力を流し込む。


 魔力儀の周りの輪が、シリカ同様高速で回転を始める。


「ほう、回転は景気良いの…………さて、色はどうかの」


 老人が眼鏡をクイッと押し上げ、魔力儀を覗く。


 さあ、さっさと赤になれ。


 ――が、変化する気配がない。


 老人がポリポリと顎を掻く。


「はて……?」

「……なんだこれは? 赤の上か? 上限突破してしまったか?」


 やってしまったか……さすがに魔王の魔力をもってすればそれくらい当然――


「いや……下限突破しておるの」

「か――!?」


 か、下限……!?


 こいつ、下限と言ったか!?


 おかしい……なぜ色が変わらん?

 俺程の魔力があれば、造作もないはずだが……。


「おかしいのう……」


 眼鏡の老人も不思議そうに魔力儀を眺める。


「輪が回っているとうことは魔力が流れているということ。じゃが……色が無色のままとは……白にすらならん」

「壊れているんじゃないか? 装置を変えて再試験を希望する」

「そうじゃな……どれ待っとれ」


 老人は一度俺から魔力儀を離すと、自分で使用する。


 すると、今度はしっかりと赤色に変化する。


「うーむ、壊れてはおらんようじゃ。……不思議じゃが、壊れていない以上やり直しは許可できん」

「何……!?」

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