魔王の力
「嘘、オキュリス!? こんなの私達で倒せる訳がないです!! ただの試験じゃないんですか!?」
「毎年試験で死者が出るとは聞いていたが……こういう訳か……!」
「さ、さっきの悲鳴もこいつの仕業ね……」
全員に緊張が走る。
完全に動揺し、顔が恐怖に染まっている。
これまで魔獣と戦ったことがない者たちか……。
対人戦を磨いてきただけという訳か。恐怖に支配されても仕方がないな。
「で、でも、頑張るしかない……!! 協力して倒そうよ……!」
そう言いながら、リコは剣を構える。
ほう……あの剣、なかなかの業物だな。
「――そうだな。どの道倒さなければ俺たちは奴の腹の中だ……! 俺の信条は前進あるのみ……引き下がる気は毛頭ない!」
ガンバはナックルを手に装着すると、トントンと脚でリズムを刻み、拳を構える。
「怖い……私無理……!」
「ミーシャ! 怯えてても、この窮地は突破できないわよ……! 怖くても、やらないと……!」
「……わかってますけど……!」
「協力すれば倒せる……それを信じるだけだ!」
「二人とも……」
二人の言葉に、ミーシャは震えながらも腰のホルダーから本を取り出し、開く。
三人は震える身体に鞭を打ちながら、懸命に立ち向かう覚悟を決める。
「そこの銀髪のあんた! あんたも一人にこだわってないで協力して倒すわよ! こんなの一人でどうにかなる相手じゃない!」
「そうだ、ここはみんなで協力しよう! お前とて、奴の腹に収まるのは本意ではないだろう!」
「そうですよ! 皆で一緒に生きて帰りましょう……! 今は協力するときですよ……!」
三人が俺の方を振り返る。
その奥では、オキュリスが獲物を嗅ぎ分けるようにクンクンと鼻先を揺らしている。
「……お前たちの覚悟は理解した。恐怖に対抗し、抵抗する姿勢を見せるのは立派なものだ」
「何を悠長なこといってるの! それより今は――」
瞬間、オキュリスの振り下ろした拳が、地面を大きく砕き、その破片が隕石のように降り注ぐ。
「何という……!!」
「うわあああ!!!」
リコは剣を振り、何とか岩を弾き返す。
ガンバも、全力で振りかぶった拳で岩を砕き、安全圏を確保する。
「くっ、こちらも攻撃に転じなくては……!」
「このままだと一方的――」
しかし、オキュリスの動きは彼らより数段早く、全くとらえきれないうちにリコの背後へと回る。
伸びる腕がリコを握りつぶすように掴むと、オキュリスの口元へと持っていく。
「うっ……抜けない……!!」
「リコさん……!」
食事だとでも言うように、オキュリスの長い舌がリコの顔を這う。
足元ではガンバがオキュリスの脚に連撃を加えるが、ピクリともしない。
「ゼノア、ミーシャ!!! 魔術だ、俺の打撃では効かん!!」
「うっ……がああ……!」
苦しそうにあえぐリコの手から、剣が滑り落ちる。
もう一刻の猶予もない。
「私……私の魔術じゃこんなの……!!」
恐怖で再び顔を覆うミーシャに、ガンバが愕然とした表情を浮かべる。
「――だから言っただろ。舐めすぎだと」
俺はそっと右腕を前に構える。
オキュリス程度なら、火炎で問題ないか。
「ゼノア、何を――」
「下がっていろ。巻き込まれるぞ。――"魔王の火炎"」
刹那、オキュリスの足元に魔法陣が展開されると、地面が溶けるように赤く変色していく。
次の瞬間、地面から天空へ向け、炎の柱が隆起する。
「ガアアアア!!!」
炎の柱に閉じ込められたオキュリスは、激しい悲鳴を上げる。
その拍子に、握っていたリコを放り投げる。
俺はそれを地面ギリギリのところでキャッチし、そのまま肩を寄せ立たせる。
炎の放つ熱気が闘技場中を包み込み、パーティメンバーは皆熱気を抑えようと顔の前に手をかざし、目を細める。
炎の柱は継続的にオキュリスを燃やし続け、肉の焦げる臭いが当たりに充満する。
リコは苦い顔をしながら、俺の腕の中で轟轟と燃え上がるオキュリスを見つめる。
「な、何この魔術……! とんでもない火力……!」
「凄い圧だ……!」
「メラニカでも、こんな魔術系統見た事ないです……!」
他の三人は、顔を覆いながら必死に死にゆくオキュリスを見つめる。
「……いい加減燃え尽きろ、オキュリス」
俺がグッと拳を握った瞬間。
炎は渦を巻きながら消え、その中からオキュリス《《だった》》黒い炭の塊が、前のめりに倒れこむ。
ドシーン!! っと激しい音を立て、地面が揺れる。
土煙が上がり、騒がしかった闘技場に静寂が訪れる。
その様子を、唖然とした表情で見つめる三人は、まるで夢を見ていたかのように口をぽかんと開ける。
しばらくして、やっとの思いでリコが口を開く。
「う、嘘でしょ……魔術一発で……? オ、オキュリスよ? 一匹で村を壊滅させることだって出来る程の魔獣よ……?」
ガンバやミーシャも、冷や汗を垂らしながら声を絞りだす。
「なんと……」
「こんな魔術……もう何が何だか……」
困惑する三人を尻目に、俺は軽く手を払うと闘技場を後にする。
つまらん相手だった。
威力を抑えたのに一撃で死ぬとは……試験用に飼いならされた魔獣だったと言う訳だ。
魔界原産の魔獣であればもう少し骨があっただろうが……まあいい。
久しぶりに魔獣と戦えたんだ、転生して以来まともに実践が出来なかったからな。いい機会だったと思っておこう。
「待って!」
闘技場を後にしようとする俺に、不意にリコが俺を呼び止める。
「……どうした?」
「あの……助かったわ……。ありがとう」
リコは深々と頭を下げる。
「気にするな。試験だったから倒したまでだ」
「あはは、強者の発言ね……。あんたの言う通りの結果になった……わね」
「悪かったな。結局俺が一人でやってしまった。――だが、悪いがお前達三人があのまま戦っていたとしてもやれたとは思えん」
皆手が震え、身体が硬くなっていた。
リコに至ってはあっさり掴まり、あのままでは食い殺されていただろう。
「……それはもう否定は出来ないわね……。実際私は死にかけた……。ちょっと、この学院を舐めてたわ……。さすがはファルウール勇者学院ね、文字通りレベルが違う……」
リコは悔しそうに自分の拳を握りしめる。
「私たちはきっと駄目ね。何もできなかったどころか危険に身を晒して右往左往しただけ……。あなたは……ううん。あなたみたいな人がきっとこの学院に合格するのね。最後に、もう一度名前……聞いてもいい?」
「……ゼノアだ」
「ゼノア……ありがとう。私達の分まで、よろしくね。その名前が勇者として私達の所に聞こえてくるのを楽しみにしてるわ」
三人は、じっと俺の方を見つめる。
「……任せておけ」
そうして俺達はゆっくりと闘技場を後にする。
自分たちの不合格を悟りつつも、命が無事にあったことに感謝をしながら。
◇ ◇ ◇
こうして、すべての試験が終了した。
共に魔物と戦った三人(戦ったは少し語弊があるが)は、俺に全てを託したと語り、それぞれの故郷へと帰って行った。
やはり、エリートの集う勇者学院とはいえ、受験生では全員がエリートという訳にはいかないか。
さて、一体この中で何人が合格するのか。
「定員は六十名らしいよ」
俺の後ろから、シリカが俺の独り言にそう回答を返す。
「シリカか。……そうか。まあ問題なさそうだな」
「すごい自信だね! よっぽど実技が上手くいったんだ」
「まあそんなところだ。お前はどうだった?」
シリカ……エルフ族の血を引く少女。
この娘には受かっていてもらいたいところだ。
今後役に立つ可能性がある。
「私はまあぼちぼちかな?」
しかしその顔は、明らかに自信ありげという感じだ。
「そうか。魔力測定で最高値をだしたんだ、ぼちぼちならまあ問題ないだろう」
「あはは、ゼノア君に掛かれば全部ポジティブになっちゃうね」
「シリカがネガティブ過ぎるだけだ」
シリカは、「そうかなあ」と言いながら頬を掻く。
「まあ、とりあえず試験は終わったんだ。お互い合格しているといいな」
「そうだね。次会うのは春かな? 入学式で会えるといいね」
「そうだな」
「うん! 私も恩返しがあるからね。何かあったらいつでも言ってね!」
そう言って、俺達は別れた。
次に会うときは、お互いに勇者候補生だ。
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