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春を待つ

「お疲れ様です、魔王様」

「ああ」


 宿にて、ユーティミスが俺を出迎える。


 俺は上に羽織ったローブを渡し、椅子に腰かける。


「どうでしたか?」

「問題ないだろう。魔力が測定できないという事故はあったが……他でカバーしたから問題ない」

「さすが魔王様です!」


 そう言ってユーティミスは膝を着いて頭を下げる。


 その時、ユーティミスの服装に気が付く。


「はぁ……まったく、何という恰好をしているんだ」

「えっ!」


 ユーティミスはカッと顔が赤くなる。


 胸が零れそうなセクシーな服に、思わず視線が吸い寄せられる。

 これも人間の身体に生まれた弊害か……。


「えっと、これには訳が……! 何かとこういう恰好の方が情報を集めるのに向いてまして……」

「なるほどな。考えあってか……」


 色仕掛けという訳か。

 確かに都合は良さそうだ。


 世渡りが上手くなったか、あるいは俺の知らないところでこういう努力を積み重ねてきたか。


 どの道優秀な部下を持ったものだ。


「さすが"謀将"よ」

「ありがたきお言葉!」


 ユーティミスは改めて深々とお辞儀をする。


 俺はユーティミスからコップを受け取り、中の飲み物を飲むと一息つく。


 久しぶりになんだか疲れたという感覚がある。


 そこで俺は今日会ったあの娘を思い出す。


「――して、面白い人間にあったぞ」

「面白い人間……ですか?」


 ユーティミスは荷物を整理しながら問い返す。


「あぁ。エルフ族だ」

「エルフ族!?」


 ユーティミスは思ってもみなかったのか、驚愕した様子で目を見開く。


 それだけ珍しい存在なのだ。今となっては。


「まあ、エルフ族の血が混じっているというだけの話だが……あれは確実に血を引いている」

「エルフの血を引き継いだ人間ですか……」

「ああ。大分血は薄まっているようだが、間違いないだろう。仲間に引き込んでおいた。学院生活でこの関係を上手く活かせるだろう」

「さすが魔王様です……! 先を見据えた一手、お見事です! ちなみに名前は?」

「シリカ・シルフローラと言ったか」


 すると、ユーティミスがなるほどと言った様子で何度も頷く。


「シルフローラ……メラニカの名門魔術師の家系ですね」

「ほう、知っているか?」


 ユーティミスは頷く。


「ええ、名前だけは。メラニカは魔術の聖地メッカですが、その中でもかなり有名な部類に入る名家です。……そうですか、その娘が今年の勇者学院の試験に……」

「学院内は敵が多いとお前が言っていたからな。最低限味方となる人間は確保する必要があるだろう?」

「そうですね。だとすると、彼女はまさに適任かと……!」


 ユーティミスは感心した様子で目を輝かせる。


「であろう。これで多少はその魔窟とやらも動きやすくなるはずだ」


 こんな時、"智将"が居ればもう少しスムーズに計画を立てて挑めるのだが……いないものはしょうがない。今は出来るだけ可能性を広げておくしかあるまい。


 あの娘、シリカの魔術も見てみたかったが……学院に入学すればおのずと見る機会もあるだろう。


 残りの問題は魔界に帰る方法だが、それはどの道勇者学院を卒業し、勇者となった後の話だ。


「ユーティミス、お前は引き続き魔界への渡り方を調べろ。俺は勇者学院に専念する」

「仰せのままに。その方がよろしいかと」


 俺は頬杖をつきながら不敵に笑い、コップを揺らす。


「くっくっく。やっと統一へのスタートラインだ。長い間生きてきたが、こんなアプローチで統一を目指すのは初めてだ。思いの外、高揚感がある」


 勇者を目指す――か。

 存外、楽しめるかもな。


「楽しみだよ、勇者学院。――入学は春だ。俺は一旦村へ帰る」

「はい、魔王様」


 こうして、ファルウール勇者学院の入試は終了した。


 あとは春を待つのみ。


 魔界の方はユーティミスに任せる。

 まずはこの学院で勇者となる。世界の統一までの道筋はもう見えている。



 ――だがこの時、まだ俺は知らなかった。


 勇者学院――そこは俺が思っている以上に荒々しく、聖人から悪鬼羅刹まで巣食う魔窟であることを。勇者とは名ばかりの、武と智と名声を求めるエリートたちの学院だということを。

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