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「おうおう、見舞いに来てくれたのかよ」


 ルークはベッドに横たわりながら嬉しいのか恥ずかしいのか微妙な表情でこちらを見る。


 ベッドの周りには果物や花などがいくつか飾られている。


 おそらく普段絡んでいる女の子からの贈り物だろう。いけすかないやつだ。


「タイミングが悪かったか? ナンパの最中とか――」


「ちがわい! ――ただ……」


 ルークは口を尖らせ窓の方を向いてしまう。


「俺は正直役に立たなかったからよ……顔合わせ辛いっつーかなんつーか……」


「一丁前に気にしてるのか。最初から逃げ腰だったんだ、今更だろう」


「そ、そうだけどよ……」


 と、そこでシリカがすかさず異議を唱える。


「そんなことないよ! 私を助けてくれたじゃん! 私の不注意だったのに……」


「あ、あれは……たまたまだよ。わかってんだろ? 俺は戦うのが正直性に合わないんだよ。村では一番の剣の使い手だったが、所詮井の中の蛙さ。この学院にきてビビったね」


 そう言ってルークはほとんど治っている胸のあたりに触れる。


「魔獣なんて相手にしたことなかったし、人間相手なら別なんだがな……要はビビってんのさ。それで怪我して途中退場だ。はっ、笑えるだろ? 普段格好つけてるのによ」


「普段格好つけてる割にはいつになく弱気でダサい言い訳じゃないかルーク。俺たちにはもう格好つける気力もないか?」


「ちょっ、ゼノア君そんな言い方しなくても……」


「――だがまあ、最後のは見直したよ。あのままガクガク震えて逃げ腰だったら今頃お前のことを見限ってたところだ」


「はは、手厳しいな、ゼノア。だけどまあ、見直してくれたんならよかったよ」


 ルークはハハハっと軽く笑う。


 ルーク……実力は正直未知数だ。

 クリスタルベアーの首を落とした時の剣には光るものを感じたが……。


 こいつの評価は保留だな。

 だがまあ――


「とりあえずお前が生きていて安心したよ。隣の部屋が静かになると違和感だからな」


「ゼノアああ~!! お前って奴は! ツンデレか!」


 そう言ってルークが俺に抱き着いてくる。


「離せ! そう言うつもりで言ったんじゃない!」


「いてててて……動いたら傷口が……」


「ちょっとルーク君、安静にしてないと……回復魔術でも限度はあるんだから」


 シリカはルークの身体をベッドに寝かせなおす。


「悪い悪い……。まあよ、次またこういう機会があればよ……多少は貢献できるように努力でもしてみるのも悪くねえかな……なんてな」


 そう言ってルークは満足げな表情で笑う。


「そうだな。お前が戦力になってくれると嬉しい」


「はは! もっとモテちゃったりしてな! やべー俄然やる気が出てきたぜ!!」


「……いくかシリカ。こいつはもう放っておこう」


「そうだね……」


「あ、おい! 冗談だって!! なあおい!」


 俺たちは振り返らずそっと医務室を後にする。


 中から何かを叫び続けるルークが居たが、無視した。


◇ ◇ ◇


 俺たちはその足で研究室へと向かう。


 扉を開けると、中からはもう、あの元気の良い声は聞こえてこない。


「……連れて帰ってこれなかったね」


「そうだな。……だが、アカネさん達が何とかしてくれるだろう。そしてメアリーを"アラド"に入れてくれるはずだ」


「そうだといいな」


「ただその結果サラさんがどうなるかは……」


 沈黙が流れる。

 シリカも察しているのだ、もうあの日々は戻らないと。


 シリカは寂しそうな眼で研究室の机の上に並ぶ本をパラパラとめくる。


「……それまでにしっかり研究しておかないとな。万が一サラさんが戻ってきた時に何も進んでませんじゃ怒られるぞ」


「ふふ、そうだね。……私も止まってばかりじゃいられないしね。でも、古代魔術かあ……私にどうにかできるのかな」


「何を言って――」


 まさか……いや、やはりこいつ、《《あの時の記憶がない》》……?


 シリカの目が緑に光、放ったあの古代魔術……。


 無意識下での詠唱だったということか?


「何も覚えてないのか?」


「何が?」


「あのメアリーとの戦いで、シリカが気絶する直前のことを覚えてないのか?」


 シリカは眉間にしわをよせ、うーんと唸る。


「――覚えてないんだよねえ。気絶する前の最後の光景があのアンデッドたちに囲まれる瞬間で……ゼノア君が助けてくれたんだよね?」


「……まあそんなようなもんだ」


「へへ、ありがとね」


 完全に忘れているか……。


 エルフとしての力を行使する時は完全に無意識だったと言う訳だ。


 魔力切れで記憶が飛んでいるのか?

 それとも、シリカとしての意識が飛んでいる状態がエルフの力を引き出す鍵なのだろうか。


 現段階ではわからないか。


「どうしたの?」


「いや、なんでもない。きっとここで研究していけばいつか古代魔術についてもっと深くしることができるさ、シリカならな」


「うん! サラさんの為にも、頑張るよ私!」


 俺の為にも……な。


 こうしてサラの一件は幕を閉じた。


 問題はまだ山積され、俺の今後の学院での振る舞いにも影響が出る事件となった。

 メアリーに魔王だと知られたのは非常にマズイ。


 ――だが得た物も多い。


 シリカのエルフとしての覚醒、アカネとの協力関係、ルークの覚悟……俺の勇者への道を妨げる障害は増えたが、同時に目標へも近づいた。


 魔王にして勇者。


 絶対の存在となり世界を統一するためにも、遠回りに見えるが今はこの学院で目の前の障害を一つ一つ乗り越えるしかない。


 それが結果として、魔王にして勇者となる近道なのだから。

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