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三つ首の獣

 ドス黒い地獄の業火が魔法陣から放たれると、唸りを上げながらメアリーへ目掛けて猛進する。


 小細工も何もない、ただ真っ直ぐに放たれた炎。


 轟々と猛々しい音を立てながら、六層を熱気が包み込む。


 しかし、これを一身に受けようとしていた当のメアリーは。


「あはっ……! あははははは!!」


 壊れたのかと思うような笑い声を上げる。


 その目はしっかりと火球を見据えているが、恐怖の色はない。


「魔王!! まさか本当だったとはね……! 完敗よ……私の負け。あぁ……身が焦がれる……貴方こそ、完璧なる存在!」


 髪を振り乱し、右目がちらりと見える。


 今までで初めての、生き生きとした表情。


 死霊魔術を極め、キメラを作り出すほどの魔術師。

 人間の魔術師としては、かなりの域に達している。


 闇に生き、滅多に地上に顔を出さない地下の住人。


 冥府の魔女、そう呼ばれる彼女が真に冥府の――魔界の王たる俺を焦がれるのは自然な流れだ。


「歓喜しているところ悪いが、俺に慈悲はない。耐え切れたなら褒めて遣わす」


 出力にして約20%。


 それでも、人間1人を殺すには申し分ない威力だ。


 メアリーは動きを阻害していた足のスカートを引きちぎり、真正面から迎え撃つ。


「あははは! 今私、最高に楽しいわ……!」


 メアリーが右手首と左手首を切り裂き、その傷口をすり合わせる。

 すると、地面に血の魔法陣が現れる。


 血を触媒とした召喚魔術か。


「見せてもらおうか、貴様の力を」


「――我が一族秘伝の奥義! ――冥府と現世を繋ぐ鎖。石造りの門。三つ首の獣。今交わした契りの元、その姿をあらわせ。……ケルベロスッ!!」


「ウオオオオオオオオオンンン!!!」


 特大の咆哮と共に、血の魔法陣が赤く光る。


 そこに空いた暗く大きな穴から、一匹の魔獣が這い出てくる。


 そこに現れたのは三つ首を持つ冥府の番犬。


 ケルベロスとよばれる、上位種の魔獣。


 上位種が人間と契約するか……メアリー……いや、ウィットソン家もあなどれんな。


「力比べだ、犬」


「ウオオオオオオオオオンンン!!」


 激しい熱と、激しい咆哮。


 一気に駆けたケルベロスが、俺の火炎に突撃する。

 炎の耐性を持つケルベロスなら耐えられるかもしれないという算段か。


 甘いな。


 正面から衝突し、爆音が上がる。


 泣き叫ぶ声にも聞こえるケルベロスの叫びがこだまする。


 しかし、魔王の火炎の勢いは止まらない。


「ケルベロス!!」


「ウオォ……ウオオオオンン!!」


 熱と叫びと光り。


 そして、崩壊。


 爆煙が全てを包み込み、さっきまでの熱気は嘘のように一気に冷気がなだれ込む。


 一瞬のうちに全てが終結する。


 俺はゆっくり歩を進める。


 そこには、うつ伏せに横たわるメアリーの姿が。


 ケルベロスは跡形もなく消え、首につけていたと思しき首輪だけがその場に残されている。


「俺の勝ちだな、魔女。これが魔王というものだ。さて、アカネはどうなったか……」


 俺はシリカを背中におんぶし、アカネたちの居た方へと向かう。


 遠くから微かに刀を振る音が聞こえる。

 それと同時に、獣のような呻き声も聞こえる。


 ……まだやっていたのか。


 しばらくして、視界には二人の人影が。


 見るとお互いに血だらけだが、致命傷には至っていない。――というより、アカネに関しては与えようとしていないように見受けられた。


 サラは腕や足、肩、尻尾に傷があるものの、肝心の頭や胸などにはなく、腕や脚を切り落とそうとしたそぶりすら見えない。


 番人と呼ばれた女も情には勝てんか。


「まだ終わらないんですか、アカネさん」


「はぁ、はぁ……ゼノアか!? やけに派手にやってたじゃないか」


 アカネはサラと距離を取り、俺の近くへとくる。


 サラへの警戒は解かない。


「後ろのはシリカか、大丈夫なのか?」


「気絶してるだけです」


「そうか」


 アカネはほっと胸を撫でおろす。


「私としたことが、一年生に無謀なことをさせてしまったな、すまない。……だがさすがだな、やはり私が見込んだだけはある。あの女を倒せる者など学院広しと言えど片手で数えられる程度だぞ」


「お世辞はいいですよ。それより……アカネさんこれは――」


 すると、アカネはバッと手を出し俺の言葉を遮る。


「……自分でもわかってるさ。不甲斐ないってね。だがわかってほしい……サラ先輩は私にとって大切な存在なんだ」


 だからこそ――そう言おうとして俺は口をつぐんだ。


 部外者が口を出すべきではない。


「それで殺されたらシャレになりませんよ」


「そのときはゼノア、お前がやれ」


「はぁ……そんなことをさせるなら最初から俺にやらせれば良かったんですよ」


「そう言うな。……それに、もう覚悟は決まった。お前も私の期待通り決着をつけたことだ、私もそろそろこの楽しい時間を終わらせなければならない」


 そう言って、アカネは刀を構える。


 それは静かだった。


 まるで殺気が感じられない、凪ぎのような状態。


 一瞬で決める気か。


「もう十分戦った。そうですよね?」


「ぐるるる……」


 アカネはそれを、はいと取る。


「ありがとう、サラ先輩。そしてさようなら」


 アカネは刀をスッと引くと一気に駆ける。


「"真朧流五式"――凪断ち」


 アカネの刀が、空を切る音がした。

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