古代魔術
「何……?」
その光はどんどん大きくなり、アンデッドの大軍を包み込む。
「さっきまでの氷魔術とは違う…………何か様子がおかしいわね」
きたか……古代魔術。
肉体のピンチに血が目覚めたのか……?
『広き森の祈り。神聖なる大樹。吸収、収束、拡散。太陽司る古の業――』
その光の中心から聞こえてくる無機質な詠唱に、初めてメアリーの顔がぎょっとする。
「この呪文……古代魔術?! 冗談でしょう? こんなところでお目にかかれるなんて……。でもあれはエルフだけの……」
「さすがのメアリー先輩もびっくりか。こんなところじゃまずお目にかかれない。いや、現代ならまず不可能だ」
「じゃあこれは一体――」
その間も詠唱が進み、光が満ち溢れる。
『――即ち聖光。放ち、外敵を討ち滅ぼしたまえ。エル・ド・ヴァース』
「ッ!?」
全てが無音となる。
眩い光が、アンデッドの大軍を包み込む。
広範囲へ向けた聖属性の殲滅攻撃……!
慈悲の聖なる光で不浄を浄化する古代魔術。
完全に弱点を捉えられたアンデッドたちが、目の前で断末魔の叫びを上げながら粉々に砕け散り、霧散していく。
余りの眩しさに、俺は目を逸らす。
懐かしい、我がアンデッド軍を半壊させた聖魔術!
しばらくして光の余韻に目が慣れ始めると、さっきまでいたアンデッドたちは1匹残らず消え去っていた。跡形もなく。
そこには、ボロボロになったシリカがただ一人立ち尽くしていた。
「シリカ」
「うっ……」
魔力が完全に底をつき、シリカがその場に倒れ込む。
俺は済んでのところでシリカを腕に抱きかかえる。
ちらとアカネたちの方を見ると、遠くで戦っていたためか影響はない。
未だに戦いを続けている。
シリカの顔は汗ばみ、息が荒い。
息苦しそうに顔を歪め、体温が上がっていく。
この症状、魔力欠乏か。
早めに治療しないと命が危ないな。
死なせるわけにはいかない。
シリカをそばに置きたい……確実に!
古代魔術をいずれは発動して貰うつもりだったが、こうも早く発動してしまうとは。
我が覇道に欠かせない存在だ。
「待ちなさい、ゼノア君」
振り向くと、そこには服が所々に破れたメアリーの姿があった。
「――あの位置で魔術を浴びて生きていたのか」
「古代魔術……びっくりだわ。だけど、まだ未熟。敵味方関係なしに放つだけじゃ、私までは届かない。浄化されるそばからアンデッドを生成し続ければ耐えきれるわ」
「ごり押しでなんとかしのいだという訳か。シリカの完敗だな」
俺は背負ったシリカをそっと地面に戻す。
「あら、逃げないの?」
「俺が逃げる理由はない。そしてそれはこっちのセリフだ。せっかく命を繋いだのなら逃げる方が得策だぞ。このままダンジョンの奥に逃げれば俺には追う術はない。アカネさんもサラに掛かりっきりだしな」
すると、メアリーはふふっと笑う。
「相変わらずね、ゼノア君。貴方はサラに対して頓着ないってわけね。……でも私は貴方に用があるの。大仕掛けまでして他と分断したんだからタダでは帰れないわ。いいわ、年季の違いを見せてあげる。まだアンデッドは尽きてないわよ」
「シリカも気絶、アカネも戦闘中……俺も思う存分魔術を発動できるという訳だが、いいのか?」
「あら、まるで勝てる気でいるのかしら。さっきのあなたの領域を展開されたとしても逃げ切れる自信があるわよ」
「ほう、大きくでたな。では、大出力でこちらもぶつければ良いだけだ」
メアリーの眉がぴくりと動く。
「シリカちゃんのスピードでもダメだったのに、その上に行けるつもりとはおめでたいわね。エルフを超えるっていうの? ……いいわ、もう一度試してあげる。器になりなさい、ゼノア・アーウィン。――"冥府顕現、ブラックパレード"」
影の中から、次々とアンデッドが這い出る。
やれやれ、芸のないやつだ。
「もっと貴様の魔術が見たかったよ、メアリー・ウィットソン」
「強がりもそれくらいにしたらどう?」
「アンデッドにはアンデッド……貴様の得意分野で潰してやろう。光栄に思え」
「どういう――」
「"魔王の行進"。――同じ土俵で完膚なきまでに倒す。これ以上の屈辱はなかろう?」
俺の付近の影の中から、何十ものアンデッドたちが出現する。
「私と同規模の死霊魔術!? どういうこと!?」
「同規模? 笑わせる。お前たち、蹂躙しろ」
「「「ガアアア!!」」
その規模は、圧倒的だった。
数はメアリーより少ないが、個の力は圧倒的で、一体が数十体を破壊していく。
激しい咆哮と、衝撃音。
骨と骨がぶつかり軋む音。
まるで戦のようだ。
その様子に、メアリーも唖然とする。
「そんな……私の一族の叡智が……!」
「甘いのさ、所詮数百年程度の研鑽で俺を超えようとはな」
「君は一体……まさか、この魔術……魔術系統……まさか君が魔お――」
俺はそっと指を唇に当てる。
「喋りすぎだな、冥府の魔女。……さよならだ。――"魔王の火炎"」




