ブラックパレード
サラはアカネに任せるとして、相手はメアリー・ウィットソンか。
栄誉の負傷とはいえ、下手にルークがここまでついてこなくて良かったかもしれない。
あいつだったら、メアリーの使う魅了には耐えられなかっただろう(むしろ自分からしっぽを振るまである)。
流石の俺も相手にルークが居たら多少は気がちってしまったかもしれない。
特にシリカなんかは戦うことはできなかっただろう。
「なんだか……この人雰囲気というかオーラというか……すごい独特……」
シリカもチャームを感じ取ったのか、怪訝な顔をする。
だいぶ魔力に敏感になっているな。
「おそらく魅了だろうな。同性にも多少は効くというわけだ」
「さすがは、って感じだね。ゼノア君は平気なの?」
「気にするな、俺には効かん」
「す、すごいね……私でも結構くらっときちゃうよ」
今更ながらに、シリカの気が改めて引き締まる。
シリカにとって敵は遥か強者だ。
「さぁ、どちらからかかってくるの? 2人まとめてでも良いわよ。アカネちゃんはまだまだかかりそうだしね」
メアリーは水晶に腰掛け、妖艶な指先で俺たちを招く。
と、シリカが不意に一歩前にでる。
シリカ――いや、これは丁度いいかもしれん。
今エルフの力が目覚めかけているのだ、実戦で感覚を掴ませない手はない。
「あら、金髪の貴女からくるの? ゼノア君ほど期待できないけれど」
「やれるか?」
シリカはゆっくりと頷く。
「サラさんの仇……アカネさんはサラさん本人と戦ってくれてる。なら、私はこの人をやらなくちゃ……!」
「随分とサラにご執心だったのね、妬けちゃうわ」
「……あなたのような人を人と思わないような人には負ける訳にはいかないよ」
「あら酷い。あなたも同じ魔術師でしょ? 同類よ」
「ちがう! 私はそんなんじゃない」
メアリーは笑みを浮かべる。
「サラと同じ研究をしてそこ止まりなんて、しょせんは一年生ね」
「……どういう意味」
「さぁね。――さあやりましょう、シリカちゃん。あなたをゼノア君の前で粉々にしてあげるわ。そしてシリカちゃんの亡骸を胸に泣き崩れるゼノア君を殺る。……いや、アンデッド化させて襲わせた方がいいかしら……唆るわね」
「酷い……させないんだから! 安心してね、ゼノア君。私別に特攻しようって訳じゃないよ」
シリカは振り返る。
「私、怒りとは裏腹に今何故だか絶好調だから」
その目は未だに緑に光っている。
エルフの血……やはりまだ活性化していたか。
これなら良い勝負ができるかもしれない。
この状態を常時うまく操れればあるいは……。
「心配していないさ」
「良かった。私なんか、魔力みたいなものまで感じられる……すごい、私どうなっちゃったんだろ」
「気にするな、今まで通りいってこい。ただ、危険ならすぐに俺が参加する、いいな?」
「うん、ありがと。これは……私の戦いだから。思う存分やらせて」
シリカは腰の杖を取り出すと、先端のクリスタルを器用に振り回す。
さあ、見せてもらおうか。
エルフの力を……!
「"アイシクルレイン"!!」
シリカの背後に、巨大な魔法陣が複数個現れる。
今までの比じゃないな。
二倍……いや、三倍か。
そこから現れた剥き出しの氷の槍は、最高速度で射出される。
その数、八本。
一本一本が当たれば必殺の魔術!
「すごいわね、どこにそんな力を隠し持ってたのかしら。――けど、まだ甘い」
メアリーは右の手の甲に左手を重ね、下に向けて腕を伸ばす。
「簡易アンデッド生成。"骸の盾"」
掌からこぼれ落ちた何かの骨。
それが一瞬にして形を作り、メアリーを覆う巨大な盾となる。
幾重にも折り重なった腕のようなものが組みあがっていく。
アンデッド化させる部位を絞って、小さい状態で携帯しているのか。
戦い慣れていると言うだけはある。
「はあああ!」
シリカの氷が、次々と盾に突き刺さる。
しかし、メアリーの骸の盾により悉く弾かれる。
アイシクルレインの乱撃の終わりと同時に、骸の盾は崩れ去る。
カラカラと骨が地面で跳ねる。
その奥から、不敵に笑うメアリーの姿が現れる。
「まだまだね、シリカちゃんそんなんじゃ――」
「"アイスフロア"――スリップして!」
一瞬にしてシリカの足元から広がる氷の地面が、メアリーの足元まで広がる。
その床に滑り、メアリーの体制が一瞬崩れる。
「ッ! 魔術の出が早いじゃない……ッ」
「チャンス! "アイス――」
「――簡易アンデッド生成。"王の手"」
メアリーは体勢を崩しながら、何かをシリカの後ろに放り、そう言葉を唱える。
刹那、シリカの背後から、巨大な骨の腕が出現する。
その陰に覆われ、シリカは慌てて振り返る。
「なっ――」
「潰れて頂戴」
ドガーン!! っと激しい勢いで叩きつけられた骨の腕。
生身ではひとたまりも無い威力だ。
さあ、こんなもんじゃあないだろ? エルフの少女よ。
その腕もまた、ゆっくりと崩壊していく。
メアリーは体勢を立て直し、髪の毛をかき上げる。
その動作には相変わらず色気が付いて回る。
冷ややかな視線で、骨の手の衝撃で舞い上がった煙を見つめる。
「呆気なかったわね。――さ、ゼノア君やりましょうか。あなたが手助けしないとは思わなかったけれど。ふふ、まぁアンデッド化させて――」
「よく見ろ、魔女」
「何が…………ふぅん、やるわね」
骨の隙間から見えるのは、氷の檻。
瞬時に自身を氷の中に閉じ込めたシリカは、すんでのところでメアリーの攻撃を躱す。
「こんなに魔術がスムーズに出る何て、私本当に調子が良い……!」
「そう、ベストコンディションなのねあなた。魔術をやってるとたまにあるのよねそういう、万能だと勘違いしてしまう日が」
「もう負ける気がしないよ」
「なら、この魔術も受け止めてくれるかしら?」
メアリーの魔力が膨れ上がっていく。
「何を――……」
「――"冥府顕現、ブラックパレード"」
地面に落ちた影。
その中から、無数のアンデッドが姿を現す。
小型のものから、大型のものまで、多種多様なアンデッドが列をなす。
しかも、最前列は裸だが、中列以降は鎧を着ている者まで居る。
その数、ざっと百……!
「キメラは死滅したけれど、私にはまだこの子たちが居るわ。私を守る大軍隊。アンデッドの大行進よ」
「くっ……! どれだけ……!」
「さあ、行きなさい、可愛いアンデッドたち。久しぶりの贄よ!」
「「「アアアアア!!!」」」
一斉に襲い掛かるアンデッドたち。
それは激しい地鳴りをならし、まるで軍の行進のようだ。
これが冥府の魔女、なるほどな。
「くっ……"アイシクルレイン"!」
高威力の連撃を放ち、前列のアンデッドたちが崩壊していく。
しかし、その死体を乗り越えるようにして、後ろのアンデッドが襲い掛かる。
「キリがない! これ以上……間に合わない……!」
なんとか魔術を放ち、敵をなぎ倒していくが、その魔術のスピードを上回る速度でアンデッドたちが襲い掛かる。
徐々にシリカがアンデッドに埋もれて行き、ついに、その姿が見えなくなる。
「ここら辺が限界か……」
俺は一歩前に出る。
そろそろ選手交代といこう。
あれだけ暴れれば、エルフの魔術感覚はつかめただろう。
いい収穫になったはずだ。
死なせるわけには行かないからな。さて――と刹那、アンデッドで出来た山の内側から、眩い光が放たれる。
一瞬、アンデッドの自爆かと思った。
しかし、それは違った。
この魔力……完全にエルフの――!!




