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「でも、私の目的は貴女じゃないもの。さあ、お披露目会よ……私の可愛いペットたち」


 瞬間、俺とシリカの周りから、複数の蠢く何かが這い上がる。


 物悲しげな、腹に響く鈍い声を上げながら。


 この腐敗臭……アンデッドか……?


「その顔……えぇ、そう思うわよね。あなたならわかる。……けれど、違うわよ、ゼノア君。これはあなたの為に作った特別製。見せて頂戴、あなたの力を……器になる可能性があるかどうか」


「くっ、ゼノア、シリカ!」


 振り返り加勢に戻ろうとするアカネの前に、冥府の魔女が立ちはだかる。


「喧嘩の相手は私でしょ、子猫ちゃん。今更一人が心細くなっちゃったのかしら?」


「貴様……!」


 すると、シリカが叫ぶ。


「アカネさん、こっちは心配しなくていいです! それよりメアリー・ウィットソンを……!」


「だが……!!」


「やっちゃって下さい、アカネさん!! サラさんを……サラさんを救って!!」


「シリカ……」


 悲痛な中にも希望を感じている叫びを上げるシリカに、アカネの覚悟が決まったのか、アカネは前に向き直る。


「うふっ……あの子面白いこと言うわね。救ってだなんて」


「ふぅ……」


 アカネは冷静さを取り戻し、息を整え、刀を顔の横で構え、切っ先をメアリーへと向ける。

「面白くなどないさ。面白いと感じるのは貴様だけだ、冥府の魔女。今刀の錆にしてくれる」


「うふふ……所詮はただの三年生。学院内にいる下級生ばかり相手にして我が物顔をしてきた貴女に、私をどうにかできるかしらね」


「それは……今にわかる!!」


◇ ◇ ◇


「特別製……どうやら訳アリのようだな」


「そうみたいだね……」


 俺たちを囲むのは、闇に蠢く無数の《《何か》》。


 それはアンデッドというにはあまりに《《奇形》》過ぎた。


「爛れた皮膚に、飛び出した目玉、独特の腐敗臭……アンデッドである要素は確かにあるが……角に牙、羽、鉤爪に変に飛び出した四肢……」


 違和感は留まることを知らない。


 どこかで見たような気もするが、かといって、これだというものが想像できない。


 この感覚は一体……。


「あれはクリスタルベアーか……? それにしては下半身の形状が液体化してまるでスライムのようだ――」


「ゼノア君!」


 不意にその中の一匹が俺目掛けて飛び掛かってくる。


「グアアアアア!!」


 不快な叫びを上げ、それは四足歩行で駆け、異常に発達した牙を俺に向けて突きつけてくる。


 下半身は四足獣……ライガのようだが上半身はまるで二足歩行の魔獣から切り取られたかのような形……ケンタウロスのようだがそれとはまた違う。これは……まさか。


 俺はさっとそのアンデッドの攻撃を避けると、脇腹にそっと手を添える。


「"魔王の空間(イビルホール)"」


 魔法陣が瞬時に展開され、ガラス玉ほどの黒い球体が現れる。


 それは、フォンっと甲高い音を立て急速に広がると、一気にそのアンデッドの脇腹を飲み込む。


「思考の邪魔だ」


 パッと黒い球体が消える。


「……ガッ……」


 真横に居たはずのアンデッドは、身体を《《球体の形に削り取られ》》、地面にぼとりと落ちる。


 噴き出した血飛沫が、地面を血に染める。


 俺は返り血を浴びた左手を払いながら、シリカに言う。


「わかったぞ、シリカ」


「…………」


「おい、シリカ?」


「な、何!?」


 なんだ、急にぼーっとしだしたな。


「……どうした、何かあったか?」


「い、いや、凄い魔術だなと思って……なんで私の方がこれで序列が上なんだろうなあって……あはは」


「はぁ……今そんなこと考えている場合じゃないだろ。これはピンチって言うやつだ」


「そ、そうだよね……! ごめん、がんばって乗り切らないと!」


 何か違和感を覚えるが……今は気にしても仕方ないか。


「そうしてくれ。それにわかったことがある。このアンデッドたち……妙だと思わないか?」


 俺の言葉に、シリカが頷く。


「確かに、私はアンデッド自体見た事ないけど、なんか違和感があるような……。既視感はあるんだけど、うまく合致しないというか……」


 ふむ、よく見ているな。


 シリカには経験不足を補う観察眼がある。

 さすがはエルフの血族と言ったところだな。ますます失うのは惜しい。


「そうだ。こいつらはおそらく《《混じり物》》だ」


「混じり物……?」


「要は、融合獣キメラだ」


「キメ――」


 俺の言葉に、シリカが絶句する。


 口元を押さえ、目を見開く。


「そ、そんな、魔獣って言っても生命だよ!? それを融合するなんて冒涜的な……」


「そういう人種ってことさ、あの女は」


 いや、それを言えば、魔術師はみなその気がある。研究のために倫理観など二の次の連中は多い。


 剣士にしたって、研究はしないがネジが外れている奴は多い。


「これで合点がいった。最近噂になっていた研究というのはこのことだ」


「じゃあ、キメラの製――……キメラを生むことが、メアリー・ウィットソンの実験で、サラさんは関係ない……?」


「それはどうだかな。そう思いたいところだが……何はともあれ、早くこいつらを片付けて、アカネさんに加勢にいくぞ。相手はあのロイドや魔術会と同等規模の派閥を持つ魔女だ。アカネさん一人で倒せるか……」


「そうだね」


 ――とは言ったものの……。


 メアリーは俺のことを目的と言った。


 つまり、このキメラたちは俺への武力偵察と言ったところか。


 器……器か。嫌な予感がするな。


◇ ◇ ◇


「"アイシクルレイン"……!」


 無数の氷の槍が、キメラたちに降り注ぐ。


 それは多くのキメラたちに深々と突き刺さるが、それを掻い潜り近づくキメラもまた多数いた。


「はあ、はあ……くっ、数が多い……!」


「"雷一閃サンダーボルト"、四連」


 雷鳴が轟く。


 シリカが打ち損じたキメラを、サンダーボルトの連発で焼き尽くす。


「もう少しだが、確かにキリがない。……仕方ない、少し下がっていろ」


 ここまでなるべく俺の力を測らせないように動いたせいで、シリカの体力も魔力も限界だ。


「う、うん……なんか、頭が……」


 シリカが苦しそうに頭を抑える。


「気をしっかり持て。今気を失えば死ぬぞ」


「う、うん……」


 そうこうしている間も、迫りくるキメラたち。


 それにしても多いな。一体どれだけの数を生成したというのだ。


 六層の通常の魔獣はまだ一体も見ていない……つまり、そういうことなのだろう。


「こんな薄気味悪いところで、生態系を丸ごとキメラにしてしまうとは、その精神力だけは褒めてやろう、メアリー・ウィットソン」


 俺は両手を前に掲げ、魔力を練る。


 一撃だ、一撃で終わらせる。


 威力偵察がなんだ、戦闘データを渡さなければ関係ない。


 測り切れない魔術がこの世にはあるということを教えてやろう。


「ま、まって……ゼノア君何する気……寒気が……!」


 魔力に敏感なシリカが、両腕を抑え震えあがる。


「一撃で終わらせる。そこで見ておけ」


「「ガアアアアア!!!」」


 眼前に迫りくるはキメラの群れ。その数実に三十体以上。


 だがもはや、関係ない。


「元居たところに帰れ、キメラたちよ。――"悪魔の閃光(イビルノヴァ)"」

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