表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/55

邂逅

「ぜああああ!!!」


 真円を描くように、アカネは足元へ向けて刀を高速で振り抜く。


 その斬撃の衝撃波は、底知らぬ地面へとぶつかり、激しく甲高い音を響かせる。


 落下による物とは違う風圧が、真下から突き上げてくる。


 アカネの肩に捕まる俺たちの落下速度が、明らかに緩やかになる。


 技の威力で落下速度を相殺したか……こいつの実力、口だけではないか。


 魔術でも可能であるが、魔術ならばその破壊力で自身にもそれ相応のダメージが残ってしまう可能性がある。


 剣術を極めたからこそできる芸当か。


 そうして、俺たちは無事に地面に着地する。


「いったあぁ……」


 一人尻餅をついたシリカが、不機嫌そうにそうこぼす。


「大丈夫か?」


 俺がシリカに手を差し伸べると、シリカは平気、と言いながら自力で立ち上がる。


 見上げると、遠く彼方にある穴から、二層の光が漏れているのが見える。


「あそこから……」


 シリカが生唾を飲み込むのが分かる。


「ありがとうございます、アカネさん」


「気にするな、監督生の役目だ」


 その言葉に、シリカは笑みを浮かべる。


「それにしても、だいぶ落とされちゃいましたね……」


「そうみたいだな。こんなことは本来ありえないんだが……」


 アカネはぐるっと辺りを見回す。


 さっきまでの緑とは打って変わり、紫色に禍々しく光る水晶たち。


 どこかじめっとした空気は、湿地のそれにも似ている。


「ここどこだろう?」


「ここは六層…………最下層だ」


「最下層?!」


 シリカが、あまりの驚きにまた後ろに倒れそうになる。


「最下層ということは、知らされていない魔獣も生息していそうだな。まずは周囲の安全を確保したいところだが……」


「ゼノア君……その落ち着きようが羨ましいよ……。私六層だなんて聞かされてもう何が何だか……」


「驚いてはいるさ。だが、これは事故ではなく、人為的なものだ。犯人を捕まえれば、帰り方も何もかもわかるだろう」


「じ、人為的……これが?」


「ですよね、アカネさん」


 アカネはほうっと唸る。


「君は実に興味深いな、ゼノア。面白い男だ。私もそれには同意見だ。この落下は明らかに仕組まれたもの……自然発生的に起こるような落下ではない。なかなかの観察眼だな」


「……ただそんな気がしただけですよ」


「ふっ、まあいい。第六感でもなんでも構わんさ。問題はこのバカげた行為をした奴がどこにいるかだが――」


 とその時、紫の光でぼんやりと照らされた先、暗く闇の中のような影の中から、カツンカツンとヒールの足音が聞こえてくる。


「――向こうからお出ましみたいですね」


「そのようだ。既にここは奴の腹の中らしい。都合がいい、目的も何もかも洗いざらい吐かせてやる」


 アカネの刀の切っ先が、闇へ向く。


 しばらくして、ヒールの音が止まる。


 僅かに沈黙の時が流れる。


「私はアカネ・オキタ!! 真朧流正統後継者にして、この学院を守護するものだ!! 名を名乗れ、痴れ者が!!」


 堂々たる名乗りに、闇の中から静かに笑い声が聞こえてくる。


「うふ……ふふっ……ふふふふふ」


 闇から聞こえる笑い声は、女性だった。


「何がおかしい。私は本気だ。監督生としても、この重大な危険行為は見過ごせん。大人しく連行させてもらおう」


「あなたにできるのかしらね、番人さん」


「「!?」」


 その声色は、実に艶やかで。

 男の心の奥を擽るように蠱惑的で。

 聞いているだけで耳が心地よくなる感覚を覚える。


 それは両隣で聞く、同性であるはずの二人も同様のようであった。


 しかし、俺とアカネが驚いたのは何もその色を帯びた声ではない。

 その声そのもの。


 その声を発している本人そのものに驚いたのだ。


 俺は知っている、この声の主を。


 嘆きの森で遭遇し、俺を操ろうとした女。


 サラの親友にして、今何かの実験を行なっていると噂になっている、学院の話題の……そして恐怖の中心人物。


 その名は――


「メアリー・ウィットソン……お前か」


「あら、覚えていてくれたなんて光栄だわ、ゼノア君。また会えるって少しは期待していたけど、本当にあの戦いから生きて帰るなんて、私驚いたのよ」


「俺はできれば会いたくなかったよ、冥府の魔女」


 メアリーは僅かに見える瞳を寂しそうに細める。


「あなたまで冥府の魔女だなんて……悲しいわ。ただ魔獣が好きで、アンデッドが好きで、暗いところが好きで、実験が好きで――そして何より、色あせない永遠が好きなだけの普通の女の子なのに」


「耳を貸すなゼノア。……戯言を。貴様からは醜悪な臭いが漂ってくるわ。ここで何をしていた? 場合によっては……」


 アカネの刀を握る手が強くなる。


「いやね、汚い言葉使って。可愛い顔が台無しよ、アカネちゃん」


 そう言いながら、隣で涎を垂らし続ける四足歩行の(のようなもの)を優しく撫でる。


「メアリー、貴様と討論するつもりは私達には毛頭ない。単刀直入にきこう。これは貴様の仕業か?」


 カシャンと、刀が音を立てる。


「ふふふ、いやねえ物騒で。なんでも力で解決してきた貴女らしいわ。不純物の分際で」


「なに……?」


「不純物って言ったのよ、アカネ・オキタ。私の目的は後ろの彼。貴女はお呼びじゃないの。ただ力を誇示することでしか存在を許されない愚かな学院の駒」


 アカネの顔が、険しく歪むのを感じる。


「ア、アカネさん……?」


「――大丈夫だ、下がっていろ。すぐけりをつけてやる」


「私が何をしたっていうのかしら? 自警団ゴッコさん。無実の人を斬り殺そうっていうの? ――あぁ、そういえば貴女の国には辻斬りっていうのがあるらしいわね。貴女もその類なのかしら?」


「だまれ、魔女!! それ以上私を愚弄するのなら、ただでは済まさんぞ!!」


 今にも斬りかかりそうな自分の意思を、アカネはすんでのところで堪えている。


 刀を握る手が、小刻みに震えている。


「貴女、誰に喧嘩を売ってるか分かっているの? お望みなら、私のペットたちの餌にしてあげるけれど?」


 メアリーは不適に笑う。


 まるでアカネなど意に介していないかのように。


「望むところだ。――下がっていろ、二人とも。この女は私の相手だ。……一つだけ問おう。サラ先輩をさらったのは貴様か?」


 メアリーは微動だにしない。


 ただ、ほんの少し。


 ほんの少しだけ――口角を上げた。


「――細切れにしてやる、冥府の魔女!!! 理由はそれだけで十分だ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ