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はぐれ

「ぎゃああ、気持ち悪いなおい!! くんなくそ!!」


 ルークの叫び声が水晶洞窟一層に響く。


「"アイシクルレイン"!!」


 シリカの後方に浮かび上がった魔法陣から、無数の氷の槍が飛び出す。


 それが、ルークの目の前で口を開けて襲い掛かろうとしていたゴブリンに突き刺さる。


「ギィィィアアアアア!!」


 ゴブリンは血まみれになりながら地面へと倒れ込み、ピクリとも動かなくなる。


「ふぅ……。大丈夫、ルーク君?」


「お、おう……」


「おいルーク、ゴブリン程度で何を叫んでるんだ」


「さ、叫んだのはゴブリンだろうが!」


 ルークは微妙な表情で反論する。


「その前のだよ、まったく……実戦経験はないのか? 試験はどうやって突破したんだ」


「いいだろう別にその話は!! ゼノア、お前が前行け! シリカちゃんは後ろ!」


「え、ええ……」


「俺は真ん中で……あれだ、バランスを取る! あ、後アカネ先輩は全体をくまなくチェックよろしくお願いしますね!!」


 必死の形相でルークは少し後ろから静かについてくるアカネに訴える。


 アカネはそれまで無言を徹していたが、いよいよ大きくため息を付き口を開く。


「まったく……腐っているな、まさかこんな生徒が我が学院に居たとは……」


 額に手を当て、呆れた様子で首を振る。


「腐ってる!?」


「御託はいいから進め。私はただの監督官だ。手を貸すのはお前たちが死にそうになった時だけだ」


「くそ……この中で一番強いのは絶対あの人なのに……」


「それに、まともに戦わないのなら相応に評価が下るだけだ」


「…………」


 ルークは落胆した様子で肩を落とす。


「俺に泥臭いのは向いてないっての……」


「諦めろルーク。さっさと二層でクリスタルベアーを狩って帰るぞ」


「なんで序列最下位のお前がそんなに余裕しゃくしゃくなんだよ!! お前はこっち側だろ! ……はぁ、先が思いやられるぜ……」


◇ ◇ ◇


 しばらく進み、その後何度かのゴブリンとの接敵を繰り返すが、依然としてルークは剣を抜かない。


 楽をしたいから怖いふりをしているのか、トラウマでもあるのか、それとも単に怖いだけなのか。


 目的は分からんが……シリカの戦闘を視れるのはありがたい。


 洗練された魔術……さすがはエルフ族の末裔か。

 出の早い魔術に広範囲に及ぶ攻撃。


 アカネもシリカの魔術には驚いているようだった。


 計8体目のゴブリンを討伐し、ふぅっと一息つく。


「それにしても」


 口を開いたのはアカネだった。


「はい?」


「シリカ……君の魔術は見事だな。侮っていた」


「そ、そんなことは……」


「一年の中で序列二位というのは伊達ではないな。あの時私がディードから助けなくてもよかったかもしれないな」


 そう言って口角を上げる。


「いえいえいえ! 助けて頂いてありがたかったですよ、はい! 私まだ戦い自体は慣れてないから……」


「ほう、通りで先ほどからゴブリンに対して過剰な火力だと思っていたんだ。そこら辺は経験の差か。それにしても……」


 アカネの視線が俺に移る。


「君は随分と器用に丁度ゴブリンが死ぬように魔術を放つな。まるで、意図的に威力を極限まで殺しているかのように」


「……冗談なんてむいてないですよ、アカネさん。俺はこれが精いっぱいなだけです」


「ほう……」


「そうですよアカネ先輩! こいつも俺と同じ落第組! シリカちゃんと組まされてる時点でわかるでしょ?」


「お前が言うなお前が!!」


 珍しくアカネの怒声が響く。


「うえぇ……」


「まったく……先に行くぞ――っといや、私が先導しては意味ないな。すまなかった、出過ぎた真似を。私はまた静かに後ろからついていく。好きに動いてくれ」


 そう言ってアカネは俺達から距離をとるとまたゆっくりと歩き始める。


 やはりアカネレベルの剣士に観察されるとボロが出始めるか……。


 ただ、威力を極限まで抑えると咄嗟の攻撃に体のスピードが追い付かないな。


 結局はそのスピードの差で基本的にシリカのサポートの様な形になってしまっているが、まあ連携が取れているのはいいことだ、問題ないだろう。



 さらにしばらく歩くと、徐々に水晶の色が緑色を帯び始める。


 幻想的な雰囲気が、より一層増す。


「そろそろ二層が近いのかな」


「そうみたいだな。この水晶の感じから――」


「グルルルルルル……」


「「「!?」」」


 数十メートル前方。


 水晶の陰に、黒い影が忍び寄る。


 青い体毛に、三メートルはあろう体躯。


 二足で立ち、頭には水晶のように透明な角が生えている。


 シッと俺はみんなの動きを止め、物陰に身を潜める。


「あれって……」


 シリカが小声で話す。


「あぁ……"クリスタルベアー"だろう。だが何故一層に?」


「なんでだろうなあ、もしかすっと、二層で先行のパーティが暴れて逃げ出してきたはぐれか? それだと狩り易くてありがたいんだが」


 俺たちは辺りをよくよく観察する。


「――他には居ないみたいだな。だとするとやはりはぐれか……」


 だが、腑に落ちないところはある。

 間違いなくこいつははぐれではあるのだろうが、二層で暴れた奴らが居るのなら、それに向かっていくのが群れで行動するクリスタルベアーのはずだ。


 間違いなく他に何か理由があるのだろうが……。


「……チャンスには変わりないか」


「そうだね、絶好の相手かも。角が二本だからそれほどでもない個体だね」


「じゃあルークは――」


 と振り返ると、ルークはぶんぶんと首を左右に振る。


「……はぁ。一人だけもう一度一年生を繰り返すことになっても知らんぞ。――じゃあ俺とシリカでやる」


「うん」


「シリカならソロでも狩れるだろうが、今は監督生がいるからな。なるべく連携を取って行こう」


「いいね! ゼノア君でもソロでやれちゃいそうだけど」


 シリカは楽しそうに笑う。


「じゃあ、作戦会議と行こう」

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