ダンジョン探索
「いよいよ、ダンジョン探索の始まりだ。準備はいいかな、諸君」
着古した服を着て、腰からレイピアをぶら下げた無精髭を生やした講師が、興味なさげな瞳で俺たちを見つめる。
「――沈黙か……それもまたよかろう。このダンジョン内での断末魔の叫びもそれほど静かであれば俺もいくらか落ち着いて過ごせるというものだ」
たっぷりの皮肉を込め、講師は言葉を続ける。
「おっと、目くじら立てるなよ。俺の悪い癖さ、軽く聞き流してくれ。俺はリードット。今回の監督生たちをまとめる立場の講師だ。もしダンジョン内で負傷あるいは仲間が死に至った場合は俺のところに来ると良い。生き返らせることはできないが、慰めるくらいはできる」
その言葉に、生徒たちが若干顔を引きつらせる。
「……冗談だよ。救護班を連れてきてる。即死じゃなきゃなんとかなるだろ。さて、今回のダンジョン探索はスリーマンセルでの挑戦だ。実力は序列を参考にさせてもらった。下位のものはせいぜい上位の足を引っ張ることのないようにな」
すると、それを聞いた隣に立つルークが小声で言う。
「本当感じの悪い先公だよなあ。ダンジョン前にテンションだだ下がりだぜ。あいつ俺達剣士の方で実技担当してんだよ。だりいぜ」
そう言ってルークは深くため息を付く。
「まあそういうな。ああやって俺たちに揺さぶりをかけてるんだ。あんなのは適当に聞き流せばいい」
ルークはうげっと苦い顔をする。
「さすがゼノア、肝が座ってらっしゃる」
そう言って肩を竦める。
「それではそれぞれ監督生を発表する。聞き逃しのないようにな。俺は二度言うのは嫌いだ」
そうして次々とパーティへ監督生が割り振られ、合流していく。
そして、俺たちのパーティへと来た生徒はというと。
「君たちか、運命を感じるな」
腕を組み、不敵に口元を緩ませたショートカットの女性。
「アカネさん!」
シリカは嬉しそうにアカネの元へと駆け寄る。
その顔は、何か言いたげだったが、アカネはそれをすぐに悟る。
「言いたいことはわかってるさ、安心してくれ。この演習中はしっかりと君たちの監督に集中する。サラ先輩も心配だが……今は君たちの安全も守らないといけないからね。探索の方に集中しよう。――と言っても、私は後ろで眺めているだけだがね」
「えぇ、綺麗な先輩に一緒に戦ってもらいたかったなあ~」
ルークはつまらなそうに口を尖らせ、小石を蹴る。
「き、綺――」
思わぬ発言に、アカネの顔が一瞬固まる。
どうやら容姿を褒められることは余りないようだ。
造形は悪くないのだから、不思議だが。この性格がそういう話題からは引き離していたのだろうか。
「別々ね、私たち」
クロエは少し寂しそうにこちらを眺める。
「またすぐ会えるよ!」
「そうね。私は私で新しい情報源を獲得してくるわ。ダンジョンは危険がいっぱいだからね、気を付けるのよ」
そう言ってクロエは自分のパーティへと戻っていく。
友達、ではなく情報源と言うあたり、クロエらしいな。
「ダンジョン探索といってもただ散歩するのではない。これを見たまえ」
リードットが見せたのは、青く透明な三角錐だった。
それは日光に照らされ綺麗に反射し、神秘的な雰囲気を持っていた。
俺はこれを知っている。
これは――
「これはこのダンジョンの二層に生息するクリスタルベアーの角だ」
クリスタルベアー……。
そう、口々から微かに言葉が漏れる。
皆聞いたことがある有名な魔獣だ。
その狂暴性は、入試の時のオキュリス程ではないが、クリスタルベアーは群れで行動することが多い。それだけ狩るのには厄介なのだ。
「1パーティにつき5つ、これを獲得してくるように。ちなみに彼らはその個体の強さで角の本数が変わる。最大で5……つまり、最強個体を倒せば一発で終わりというわけだ。どうだ、簡単だろ?」
半笑いのような顔で、そうリードットは言う。
生徒達への明らかな挑発。
だが、さすがはエリート勇者学院。
みなその最強個体を倒そうと意気込んでいる。
その反応に、リードットはまた口角を上げるが、すぐ元の仏頂面へと戻る。
「クリスタルベアーは数はそれほど多くない。ちまちま弱いのを一頭ずつ倒していては達成は難しいだろう。君たちの健闘を祈るよ」
そして、あっとそれから、と言葉を続ける。
「監督生は自分の立場を弁えて行動するように。阿呆が先走り死ぬとしても身を呈する必要はない。優先する命を考えろ。――では、最初のパーティから順に入ってもらおうか」
こうして、ダンジョン探索が始まった。
潜るはファルウール勇者学院の地下に埋まる、荘厳なる水晶洞窟。
足を踏み入れるのは、新米の勇者候補生。
さて、どうなるか。
新作ファンタジー「前世は最強の冒険者だった奴隷少年、パーティを追放された少女が自分を買ってくれたので彼女を世界最強の冒険者にするべく暗躍する」を同時に連載開始しました!
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