行方不明
アカネたちと別れ、研究室を後にする。
俺たちは中庭のベンチに座り、落ち込んだ気分とは裏腹に綺麗に透き通る空を見上げる。
シリカの心はここにあらずといった感じだ。
それはそうだ、この学院では何が有ってもおかしくはない。そう覚悟したうえで過ごしてきただろうが、まさか自分の良くして貰っている人が居なくなるとは思っても居なかっただろう。
本来なら今頃シリカとサラは二人で国立図書館まで出かけているはずだったのだが、こうなっては一人で行ってもしょうがないと、シリカは出かけるのをやめた。
アカネが言うには、サラは昨日の夜中には既に居なくなっていたという。
寮の部屋が隣の生徒が証言していたそうだ。
一方で、昼間は同じクラスの生徒と食堂で昼食を取っていたのが確認されている。
その後、食堂で生徒達と別れ、そこから先はサラを見た者はいない。
食堂で一緒に昼食を取った生徒は、サラは昼から研究室で研究すると言っていたと話しているらしい。
つまり、サラは研究をしに別館の研究室へ昨日の昼過ぎに向かい、その後行方をくらましたということだ。
その間誰かからの接触があったのか、あるいは自ら姿を消したのか、真相はわかっていない。
「昨日は研究室にはいかなかったのか?」
俺はまだぼーっとしているシリカに聞く。
「……昨日は特に呼ばれてなかったからね。一日寮で過ごしてたよ。今日の準備もいろいろあったしね」
「そうか」
「…………アカネさんならきっと見つけてくれるよね。あのラウールって人も強そうだったし」
「そうだな。アカネさんは十二英傑の一人だし、あのラウールという男も恐らくは近いレベルだろう。その二人が捜索するんだ、犯人の方が戦々恐々としてるだろう」
――誘拐だったらの場合だが。
もし本人の意思で行方をくらませたなら、見つかるもくそもないだろう。
古代魔術の研究、メアリーの親友……字面だけを見れば怪しさこの上ない。
誘拐だった場合でも、シリカには悪いがそう簡単に見つかることはないだろう。
序列上位や、巨大な派閥が絡んでいれば捜査は難航するだろう。
それに、学院のシステム上、"序列が低い実力者"というのも存在することが出来る。俺の様にな。
むしろ厄介なのは序列が低い実力者の方かもしれん。
下手に名前が知られていない分、あたりを付けるのも難しいだろう。
まあすべては推測でしかない。
「そうだといいね。……今私達に出来ることってあるのかな」
「ないだろうな」
俺はあえてきっぱりと言う。
ここでシリカに動かれ、また余計なことに巻き込まれてはかなわない。
「この学院で常に自警のようなことをしてきた人だ、どうすればいいかはあの人が一番よく知っているだろう。だからこそあの男に協力を仰いだんだろうしな。この学院では失踪事件も決して少なくない。そう言う経験もきっとアカネさんなら豊富だろう。一番の適任さ」
「適任……だよね。私達も助けてくれたわけだし」
「あぁ。今は俺たちが勝手に動いて状況を悪化させる方が帰って解決を遅らせることになりかねん。俺たちに出来ることは、アカネさんから協力の要請を受けたときに動けるように準備しておくことだ」
俺の言葉に、シリカが顔を上げる。
じっと俺を見つめ、しばらくしてパチンと自分の両の頬を叩く。
「ど、どうした?」
「気合い入れた! ……そうだね、ゼノア君の言う通りだ。捜索はアカネさんに任せよう……まだ入学したての私にこの学院のことはまだわからないしね。アカネさんが手伝ってって言ってくれたときの為に力は温存しておくよ!」
「……そうか。いい心がけだ。研究クラブの方はどうするんだ?」
「サラさんが帰ってきた時の為にも研究は続けないとね!」
研究……サラさんがどうして行方をくらませたかは分からないが、研究のせいという線も無くはないだろう。
当分は俺が見張る必要がある、か。
「そうか。じゃあ俺もしばらくは研究室に行くとするか」
「え、来てくれるの?」
「一人じゃ危ないからな。それに、古代魔術は俺も興味がないわけじゃない」
シリカは俺を見るとにっこりと笑う。
「ふふ、ありがと」
◇ ◇ ◇
「最近忙しそうじゃねえの。どうしたんだよ?」
俺が朝食をとっていると、ルークがそう俺に話しかけ、隣の席に腰を下ろす。
「ルークか。古代魔術研究クラブに顔を出しててな」
「古代魔術? ――あぁ、シリカちゃんの。大変だよなあ、サラ先輩が行方不明なんだろ?」
「情報が早いな」
「まあな。そうか、それで最近ねえ」
そう言いながら、ルークはパンを口に頬張る。
「お前のそのお得意の情報網でもサラさんの行方はわからないのか?」
「残念ながら」
ルークは肩を竦める。
「失踪つっても、学院に顔を出さない上級生が多いからよ。情報少ねえな」
「そうか」
この感じだと、アカネの方も難航してそうだな。
シリカの為にも無事見つかるといいが……。
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