経過報告
歓楽街にある宿の一室で、二人の男女が顔を突き合わせる。
「久しいな、ユーティミス」
「お久しぶりです、魔王様……!!」
薄い青色の髪がフワッと宙に舞い、ユーティミスは地面に膝を着ける。
「いかがお過ごしでしたか? 勇者学院での生活は不便ないでしょうか……?」
「まあ、今のところはな。以前話したエルフの血族を中心に徒党を組み、今はなるべく目立たず息を潜めているところだ」
「さすが魔王様!」
ユーティミスの目がパーっと輝く。
「過剰な持ち上げはよせ。当然の手を打ったまでよ」
――と言いつつ、満更でもなく、俺は僅かに口角を上げる。
ここはユーティミスが用意した宿で、以前使った宿同様高級感が溢れている。
もちろん、ただ贅沢をしたいがためという訳ではなく、万が一を考え周りに盗み聞きされないようにという配慮からだ。
「いえいえ……!」
「ふん、まあよい。――では早速、本題に入るとするか」
そう言うと、ユーティミスは顔つきをきりっと引き締め、静かに頷く。
「では、魔界の調査の近況報告を……」
週の始めにユーティミスから一通の手紙が勇者学院に届いた。
そこには近況報告をしたいと言う旨が書かれており、俺はそれを快諾した。
魔界の調査を命じていたユーティミスからの報告を聞くのも、俺が魔王として、そして勇者として力を得る為に必要なこと。
学院での活動とは別に進めるべき課題である。
「私は魔王様と別れてから、主に北の地を中心に調査をしてまいりました」
「北……北方諸国はなかなか癖のある国が多いと聞くが」
「はい。なので情報を集めるのになかなか時間が掛かってしまいまして……。本来は魔王様の入学前に報告したかったのですが……」
と、ユーティミスは申し訳なさそうに俯く。
「そんなこと気にする必要などない。良くやっている。続けろ」
「ありがたきお言葉……! では続きを。北方諸国で見てきた国は二つです。最果ての地ガラテイン、そして雪国オーバスです」
「ガラテインとオーバス……北方諸国の中でも特に大きな二国だな」
「はい。大きな都市から辺境の村に至るまで、魔界の情報について僅かでも可能性があれば足を延ばしたのですが――」
ユーティミスはじっと俺を見つめる。
「今のところ有力な情報は得られていません……」
「得られていないだと……?」
「はい……」
あの"諜将"として名を馳せたユーティミスが情報を得られないとは……。
それだけ情報が枯渇しているということなのか、あるいはただの人間に転生してしまった弊害か……。
「ただ、ここからが本題でして。直接魔界の情報は得られませんでしたが、実は魔界の現在を知るかもしれない人物についての情報を入手しました……!」
「魔界の今を知る人物か。それは興味深いな」
「はい! その人物は砂漠の国リストニアに居るそうで。本業は冒険者をやっているそうなんですが、シーズン中はリストニアで拳闘士として戦っているみたいです」
「ほう……なぜ彼が情報を持っていると?」
「実は、彼の一族にある噂がありまして……」
ユーティミスは神妙な顔持ちで続ける。
「数代前に魔族の血と混じったそうなんです」
「何……!?」
「直接話を聞かないと正確なところはわかりませんが、恐らく確かな情報かと……。名前はヴァン・ラウール。年齢は27歳。妹の名前はセラで、彼女もヴァンと行動を共にしているようです」
「魔族との混血か……なるほどな。そやつを追って行けば何かの情報はつかめるか」
ユーティミスは頷く。
魔族と血が混ざった男……数代前ということは、もしかすると俺が死んだ後に魔界から渡ってきた可能性もあるということか。
確かに、これ以上ない情報源だ。
「私はこの後すぐにここを発ち、リストニアへ向かう予定です。北からの帰りという事もあり、丁度中継地点でしたので経過報告をしようと立ち寄ったしだいです」
「ふむ……魔界の情報がないのは残念だが、その男という手掛かりがあるだけでもなかなかに十分な情報ではないか。一先ずはご苦労だったな」
「ありがたきお言葉……! 魔王様のためならこれくらい!」
笑顔を浮かべ、頭を下げるユーティミス。
俺はそっとその頭に触れる。
「これからも俺の為に尽力してくれ」
「お、仰せのままに……!」
そうして、その後もいくつか旅の話を聞き、ユーティミスからの経過報告は終わった。
久しぶりの再会にいくつかの雑談を交わし、ユーティミスは早々にリストニアへと旅立っていった。
次はまた情報が入り次第連絡をくれるとのことだ。
一先は前進出来ていると捉えて良いか……。
リストニアのヴァンとやら次第だが、もしかすると次の報告では朗報が聞けるやもしれん。
◇ ◇ ◇
昼過ぎ――。
俺はユーティミスと別れた後、シリカとの約束のため古代魔術研究の研究室へと向かう。
シリカは今日の昼過ぎに、国家図書館へと向かうのだが、その前にサラさんが話しておきたいことがあると言っているらしかった。
一体何の話なのか。
メアリー関連の可能性も無くはない。
心して向かわなくては。
俺は別館に入り、シリカに案内してもらった通りに進む。
しばらくして、古代魔術研究クラブの扉の前に到着する。
俺がコンコンとノックすると――
「ゼノア君!!」
勢いよく扉が開き、中からシリカが飛び出してくる。
「おっ……どうした?」
その様子は、俺を心待ちにしていた――という訳ではなく、完全に焦った様子だ。
シリカの額には、汗が滲んでいる。
「いなくなっちゃった……」
「え?」
「サラさんが居なくなっちゃった……!!」




