パーティ
シリカはクロエに古代魔術研究クラブについての話をした。
「へえ、サラさんって人が居るの」
サラさんの下りに差し掛かったところで、クロエがそう呟く。
「うん。凄い良い人なんだよ。ね、ゼノア君」
「そうだな。悪い人ではなかったな」
「知ってるぜ、その人。サラ・フィール先輩だろ?」
「ちょっと、あんたには聞いてないんだけど?」
「そんなこと言うなよ、クロエちゃん」
その言葉に、クロエがゲッと顔をしかめる。
「ちゃん付けしないで」
「別に――」
「し、な、い、で」
ルークは降参したように肩を竦める。
「わかったよ、クロエ」
「それにしても、クロエがサラさんを知らないのは意外だな。学院の情報にはかなり精通していると思っていたが」
「そう? 私の情報って基本序列上位の人に偏ってるから、普通の先輩の情報はさすがに持ってないのよね。むしろなんでルークが知ってるのよ」
ルークはドンと胸を張る。
「フフフ、俺の場合は学院の美少女・美人は大抵チェックしてるからよ」
クロエの露骨に嫌そうな顔も気にせず、ルークは続ける。
「ほら、あの人ってメアリー先輩の親友だろ? 結構有名だぜ? メアリー先輩って基本一人でいる……ってか、学院内で見かけること自体超レアなんだけど、たまーに見かけるときって大抵サラ先輩と一緒に居るって噂だぜ?」
「じゃあ、サラさんも有名人なんだ!」
「だろうよ。あのメアリー先輩と仲が良いってだけで一目置かれてもおかしくねえよ。聞く限りじゃあ、五年生にしては常識人だって話だが」
「サラさんって魔術師でしょ? そっちでの評価はどうなのよ」
ルークはうーんと額に皺を寄せる。
「五年って最強の世代だろ? それにしては平凡だったような……。ただ、勉学はかなり優秀らしいぜ?」
「サラさんは研究熱心だからね。古代魔術に関してもかなり研究してたし、情熱が凄い人だよ」
「相当サラさんがお気に召したようだな」
「うん! 今度研究の一環で、国家図書館に行くって話になってるんだ」
すると、クロエがおおっと声を出す。
「うちの国随一の図書館ね! 大陸一の蔵書量を誇る書物の楽園!」
「そうそう! メラニカの魔術図書館にはない本が沢山あるらしいから、今から楽しみだなあ」
「そうね、いろんなジャンルがあるから何か新しい発見があるかもね。いつ行くの?」
「来週の週末に行こうって話してるんだ。ちょっと遠いから、休み丸々使って行ってくる」
「女の子二人とは危ないな。是非俺も――」
と身を乗り出すルークの顔を、クロエがぐいっと押し返す。
「あんたはお呼びじゃないわよ、まったく」
「うぅ……ゼノアぁ……怖いよこの人……」
ルークは俺に抱き着き、おいおいと泣きまねを始める。
「はぁ……。お前もいい加減にしておけよ。冗談ばかり言ってると本気で嫌われるぞ」
「それはまずい!」
ルークはバッと顔を上げる。
「もう結構嫌ってるんですけど」
「あはは、ご冗談を。…………冗談だよな?」
「ふーん」
クロエは頬杖を突きながら明後日の方を見る。
「クロエさーん!?」
◇ ◇ ◇
翌週――。
「さて、いよいよダンジョン探索の実習が来週に迫っています」
眼鏡を掛け、腰に二本の剣をぶら下げた女性講師ミラが、壇上に立ち俺たちに向かって話す。
二クラスの学生、総勢六十名が集まり、静かにミラの話に耳を傾ける。
「ダンジョン内には狂暴な魔獣達が巣食っています。命の危険がある実習だということは肝に銘じておいてください。皆さんに潜ってもらうダンジョンについてですが……この学院には三つのダンジョンがあります。そのうち最も難易度の低いダンジョン、"水晶洞窟"に潜ってもらいます」
俺たちの顔を見渡し、ミラは続ける。
「ダンジョンへのアタックはパーティ単位。スリーマンセルでパーティを組んでもらい、二層の奥を目指してもらいます。ただ、各パーティにはそれぞれ上級生の監督生がつきます。彼らはあくまでパーティの評価担当です。ただし、あなた達の戦いに積極的に干渉はしませんが、非常事態に限り戦闘への介入を許可しています。万が一監督生の戦闘介入があった場合は、評価はそれだけ下がるということは覚えておいてください」
スリーマンセル――。
それに加えて監督生による監視付きか。
それだけ危険なダンジョンという認識が学院側にもある、ということか。
「これを機に、各自の培った戦闘経験や知識を使い、好成績を残してください。評価次第では、序列の大幅アップも夢ではないですよ。――では最後になりますが、パーティ編成を発表します」
そうしてミラが口頭でパーティを発表し、全員パーティごとに席を移動する。
俺も席を移動し、パーティメンバーと顔を合わせる。
「なんで、なんで私じゃなくてそいつがシリカたちと同じパーティなのよー!!」
隣の席で、クロエが泣きそうになりながら必死で叫ぶ。
「悪いなクロエ。どうやらゼノアの親友にして、シリカちゃんの騎士となるのは、この俺、ルーク・リーバスのようだ!!」
「ナ、ナイト……」
若干引き気味のシリカにも関わらず、ルークは楽しそうに笑顔を輝かせる。
どうやら俺のパーティはシリカとルークのようだ。
学年二位のシリカと最下位の俺、そしてほどほどのルーク……。
戦力としては丁度良いか。
すると、クロエと同じパーティのメロウがニヤニヤと俺たちの方を見る。
「ゼノアよお。知ってるか? 例年このダンジョン探索で死傷者が出るらしいぞ?
ハハ、怖いなあ。今のうちに、お前の葬式の準備をしておいた方が効率的かもな?」
「ちょっと、メロウ!」
クロエが険しい顔をしてメロウを非難する。
「おいおい、クロエちゃん、折角可愛い顔が台無しだ」
「ちゃん付けするな!」
余裕しゃくしゃくで接するメロウと、それにイラつくクロエ。
パーティとして相性がかなり悪そうだ。
と、それを見ていたルークがぼそっと呟く。
「……なんかメロウってきもいな」
「安心しろ、お前も同類だルーク」
「冗談だよなあ!?」
ルークは俺のまさかの返答に、自問自答を始め、ぶつぶつと独り言を言いながら険しい顔で一点を見つめ始める。
「ダンジョン探索、いよいよって感じだね」
シリカは楽しそうに言う。
「そうだな。少なくともパーティは悪くない」
やっとシリカの魔術を実戦で見られる。
果たしてエルフの血はどこまでシリカを実戦で覚醒させるか……俺としてはダンジョン探索よりもそちらの方が興味深い。




