軽薄な男
「ありがとね、手伝ってくれて」
「まあいい。どうせすることもなかったからな」
シリカは満面の笑みを浮かべる。
「いい人だったでしょ? サラさん」
「そうだな、この学院に長くいたにしては純真だなという印象だ」
純心は純真だが、メアリーとの繋がりがあるとは……。
ただの古代魔術を研究する上級生、と認識して良いものかどうか。
シリカがここに居る以上、いずれメアリーと接触してしまうかもしれない。
そうなると、何が起こるか……。
メアリーにシリカが利用されるのだけは避ければならない。
せっかくロイドたちの干渉は避けられるのだ、余計な心配事は増やしたくはない。
「可愛い人だよね。部員は居ないって聞いてたから先輩が居るって知った時はびっくりしたけど、サラさんで良かったよ。怖い人だったらどうしようかと」
「そうだな……ただ、一応気を付けろ。メアリーってのは黒い噂が流れるような奴だ。その親友となれば何があるか正直分からん。サラさんが善人かどうかに関係なくな」
シリカは深刻そうな顔で俺を見る。
「そうだね……。またゼノア君に迷惑かけるわけにはいかないからね。そこはちゃんと気を付けるよ」
シリカはぐっと両の拳を握る。
素直でありがたいが……さすがに口を出し過ぎか……。
まだ今の俺にシリカにあれこれと指示をする権利はない。
俺はポリポリと後頭部を掻く。
「あぁ。まあなんだ……サラさんは良い人みたいだからな。メアリーにだけ気を付ければいい」
「うん!」
別館を出ると、月が出始めていた。
思った以上に長居してしまったようだ。
「そう言えば、今度ダンジョン探索の演習があるよね」
「あったなそういえば。あれはクラス全員必修だったか」
シリカは頷く。
ダンジョン探索――。
この学院に複数個あるダンジョンのうち、比較的難度の低い物の探索を行う。
ダンジョンには魔獣が巣食う。
試験の際、実技演習で戦ったような魔獣がうじゃうじゃとしているのだ。
そこへ探索に入り、実戦経験を積むというのが目的だ。
その演習が近々開催される。
「そうそう。確かパーティ単位で探索だったよね? パーティどうなるんだろ」
「同じクラスで組むことになるだろうな。実力差は各パーティで均等になるように配慮されるだろう。いずれにせよ、詳しい話は予め説明があるんじゃないか?」
「そうだよね。ちょっと楽しみだな~ダンジョン探索って経験したことないし」
シリカはヘラっと笑う。
そんな呑気なこと言ってたら死ぬぞ――と言いたいところだが、シリカなら大丈夫そうだな。
「初めてなのか、意外だな」
「そう? あんまり私達くらいの年齢でダンジョン行ったことある人っていないと思うけど……」
「そうなのか?」
「うん。まああくまで私の国ではだけど……多分どこの国も一緒だと思うよ。ダンジョンって冒険者の縄張りみたいなところあるしね。この学院みたいに学生が自由に入れるダンジョンなんてなかなかないよ」
まあそういうものか。
国にダンジョンが管理されているのかもしれんな。
そう考えれば、学生にダンジョンを探索させられるのはいい教育なのかもしれん。
勇者を目指す程のエリートで、なおかつ死すら容認される校風だからこそ許される荒業か。
勇者ならば、それくらいできて当然か。
そうこうしているうちに、分かれ道へと差し掛かる。
「じゃあね、今日はありがとゼノア君。またね」
「あぁ。気を付けてな」
そうして俺達は別れ、それぞれの寮へと戻って行った。
◇ ◇ ◇
二日後、昼過ぎ。
休み最終日、俺は街へ買い出しに出かけ、必要なものや、部屋に置く雑貨なんかを買い漁った。
ここアイゼンはかなり大きな街で、物を揃えるのに不自由はなかった。
寮生活は寝る時間以外人と接していることが多く、自由に生きてきた元魔王の俺にとっては窮屈を感じることもある。
そのため、久しぶりに街に一人で出かけるのは存外気分転換になった。
俺は荷物を部屋に置き、食堂へと顔を出す。
昼をここで食べれば、食費はかなり浮く。
適当にパンを買い、席に着く。
休みだけあって人はまばらで、これまた落ち着いて過ごせる。
やはり、昼は静かに食べるのが良いな。
と、俺がパンに一口齧りつくと――
「よっす、ゼノア! 休日に会うとは奇遇だねえ!」
そう言って、隣の席にどかっと腰を下ろす男。
「……はぁ、ルーク、お前か」
「おいおい、ため息は酷いだろ。今日はシリカちゃんとクロエちゃんはどうしたんだよ? あの二大美人は」
「休みまで一緒に居る訳ないだろ。……というか二大美人だ?」
ルークは自分で買ってきたパンを齧りながら言う。
「知らねえのか? 一年美人ランキングのツートップ! 金髪スレンダー美少女のシリカちゃん。そして、クールで男殺しのクロエちゃん!」
「……何から突っ込んでいいのか。まずなんだその美人ランキングという頭の悪そうなランキングは」
「んなことはいいじゃねえか。ともかく、お前はうちのクラスのアイドルを二人とも侍らせてると言う訳だ」
「別に侍らせている訳じゃ――」
ルークがずいと前のめりに俺を見る。
「侍らせてるみてえなもんじゃねえか! いつも両脇をあの二人で固めて! くそ、羨ましい……! 一体どういう手を使ったのか……ただでさえお前は序列最下位で舐められてるのに、余計に反感買ってるぞ」
「反感ねえ……下らん。好きにさせておけ、そんな雑魚どもは」
「はは、言うねえ! 俺はお前のそう言う所結構好きだぜ、ゼノア」
そう言ってルークが俺の肩に腕を回す。
「――だからよ、二人紹介してくれね?」
「……お前に紹介するとろくなことがなさそうだから遠慮しておく」
「だぁ! 真面目かよ! ……まあそういうところにあの二人も惹かれたのかもなあ。俺と真逆だよ、まったく」
ブツブツ言いながら、ルークは残りのパンを不貞腐れながら食い進める。
やはり、こいつは悪い男ではないが、軽薄さがあまり好きになれん。
大事な局面で仲間を見捨てて逃げる、そんな臭いがプンプンするわ。
「あ、ゼノア! 何やってるのよ休みの昼間っから」
「ゼノア君!」
と、急に賑やかな声が俺を呼ぶ。
振り返ると、噂をすればと言わんばかりの二人が立っていた。
「シリカにクロエか」
「何だって!?」
隣のルークが、慌てて振り返る。
「ゼノアと――げっ、ルーク・リーバス……なんでこいつとゼノアが?」
「げっ、とはなんだ! 親友だよ、俺達は! なあ、ゼノア!?」
「たまたま部屋が隣だったんだよ」
「あ、そういう繋がりね……。ゼノアと相性悪そうだもんね。厄介な奴が隣になったわね」
「そんなことないよな、ゼノア!?」
「理解が早くて助かるよ」
「おい!」
そんな俺の応答に、ルークが悲しい顔をして机に突っ伏せる。
「あーっと、私達も座っていい?」
「あぁ。好きに座ってくれ」




