冥府の魔女の親友
「親友……ですか」
「うん!」
おかしいな……。
ロイドはメアリーの事を人間嫌いと称していた。
奴の取り巻きの殆どが"奴隷"だと。
そんな女に、親友が居るなんてことが有り得るんだろうか。
「メアリー……先輩はどんな人なんですか?」
「んー、メアリーはすっごい美人で色気もすっごくて、完璧な女性だよ」
「はあ……完璧……」
確かに見た目は俺でも惹かれそうになるほどの美女だ。
だからこそ、それが胡散臭くもある。
「思ってるほど皆の印象とは違うと思うなあ。私のこと気遣ってくれたり、物知りだったり、結構人間味があったりするんだよ! ――ちょっと変わってるところは確かにあるんだけど……」
そう言ってサラはあははっと笑う。
「あんまり他の人と話したりすることないしね。……まあそれは彼女にもいろいろと理由と言うか、言い分はあるんだけど……」
サラは椅子に座り、入れてきた飲み物を俺たちに渡す。
「――まあ、そういう所含めて可愛いんだけどね! 惹き付けられるというか、そういう所も魅力的というか!」
「サラさん、よっぽどメアリー先輩が好きなんですね」
「もちろん! 親友だからねえ~! 今度シリカちゃんとゼノア君にも会わせてあげたいなあ」
「俺とシリカは一応会ったことはあるんですよ、メアリー先輩と」
すると、サラは驚いて目を丸くする。
「えぇ!? そうなの!? あの子が……一年生に……!?」
よっぽど驚いたのか、サラの顔が少し紅潮している。
「珍しい……というか初めてね、そんなこと……」
「そうなんですか?」
「うん……私が知ってる限りはね。同級生ですら話したことない人が殆どなのよ。何かあったのかな」
サラは、自分の知らないメアリーの事実に、少し動揺を見せる。
「――まあ、そういう何するか分からないところもメアリーっぽいとは思うけどね」
どこまでもメアリーに肯定的だな。
親友と言うだけある……か。
「……メアリー先輩は人が嫌いだと聞きましたけど、サラさんには心を開いてるんですね」
「あはは、どうだろ。私が一方的に友達になって貰ったからね。まあ他の人より彼女の心の近くに寄り添えてる自信はあるかな! この間もメアリーと一緒にご飯食べたし、私の相談に乗って貰ったりもするしね」
意外な関係だな……。
サラがそういう接し方をするのは想像できるが、あの妖しげな雰囲気を持ったメアリーが他人とそこまで慣れ合うのは想像がつかない。
二人はそれだけ特別な関係なんだろうか。
メアリーが魅了で惹き付けている……にしては魔術に掛かってる様子はないな。
まあ、誰にでもそういう相手は一人は居るものか。
「ま、二人とも話したことあるなら話が早いね! 今度呼んでくるから一緒にはなそ! いろいろ噂されてるけど、ああ見えて根はいい子だから、仲良くなってくれたら嬉しいな」
「はい! いいですね!」
シリカは楽しそうに返事をする。
シリカにとっては俺の事を教えてくれた上級生でしかない。
警戒心はさほどなくても当然か。
俺としては、あまり関わり合いに成りたくはないが……。
しばらく談笑を続け、気が付くともう夜になっていた。
「あ、もうこんな時間か。そろそろ二人とも帰らないとね。夜の学院は危ないから」
「そうですね。そろそろ帰ろっか、ゼノア君」
「あぁ、そうだな。長居は無用だ」
「ありがとね、二人とも! 特にゼノア君! 急に呼び出したのに手伝ってもらっちゃって……本当助かったわ」
そう言って、サラはぎゅっと俺の両手を握ると、ぶんぶんと振る。
「シリカが世話になってますからね。何かあったらまた言ってください」
「まあ!」
サラは目をキラキラさせ、満面の笑みを浮かべる。
「聞いたシリカちゃん! 今の聞いた!?」
「わ、わかりましたから、そんなに寄らないでください……」
シリカは困惑した様子で下を向く。
「あはは、ごめんね。二人とも仲良さそうだし、楽しい学院生活が送れそうだね!」
「そうですね、ゼノア君のおかげで毎日楽しいですよ! あっ、明日講義休みですけど、サラさんはここに来るんですか?」
すると、サラは腕を組み、片手の指を顎に当てる。
「うーん、多分くるかなあ?」
「何時頃に来ます?」
「多分朝早いよ。なんだか最近寝つきが悪くてね、悪夢……っていうか、何かすっきりしなくて早く起きちゃうんだ」
「だ、大丈夫ですか……?」
シリカは心配そうにサラを見る。
サラは笑いながら言う。
「大丈夫、大丈夫! 若いうちはそれくらい平気だよ! 悪夢何てよくあることだしね。二人も休めるうちにしっかり休むんだよ」
「はい……。じゃあゼノア君いこっか」
「あぁ」
俺たちは研究室を出ようと、扉の方へと向かう。
すると、その直前でコンコンと扉がノックされる。
「あれ、お客さんですかね? サラさん」
「そうかも。はーい! どうぞ入って」
サラさんが声を上げると、扉が開く。
そこには、黒髪ショートヘアの少女が立っていた。
腰にぶら下げられた刀の鞘が、地面スレスレに浮かぶ。
「あ、サラ先輩。ちょっとお話が――……っと、取込み中でしたか?」
「ううん、この子たちはもう帰るところだから」
「そうでしたか」
と、少女と目が合う。
「おや、君たちは……」
その顔に、俺もシリカも見覚えがあった。
というか、忘れる訳がない。
この女のせいで、俺がロイドと交渉する羽目になったと言っても過言ではない。
シリカも思い出したようで、口を開く。
「あなたは……えっと、アカネさん……!」
「確か、シリカ・シルフローラとゼノア・アーウィンだな?」
「よく覚えてますね」
アカネは腕を組む。
「私は学院中に目を向けているからな。そうか、二人とも無事だったか。それはなによりだ。あれから心配していたが、当のディードの奴も今は治療室だし、君たちに手を出すこともないだろ」
「あれ、アカネちゃんのことも知ってるんだ?」
「はい、前危ないところを助けて貰って」
するとサラは、あぁっと大きく頷く。
「アカネちゃんの"趣味"ね。アカネちゃんは強いからね~! 私も守ってもらいたいな」
「ちょ、ちょっとサラ先輩、恥ずかしいこと言わないでくださいよ」
と、アカネは恥ずかしそうに顔を赤らめる。
あんな毅然とした態度のアカネが先輩には弱いか。
なんだかおもしろいな。
「ゴホン。とにかく、無事で良かった。今後は気を付けるんだぞ」
「はい!」
「君もだ、ゼノア。君の方は少々気性が荒そうだからな」
「……俺の前に立ちはだからなければ、俺から何かすることは無いですよ」
「まったく……最近の新入生はああ言えばこう言うな。君たちの命だ、警告はしたぞ」
すると、サラが口を挟む。
「ちょっと、私の後輩なんだから虐めないでよね、アカネちゃん!」
「えっと……そう言う訳では……」
「ちゃんとこの子たちの安全も見てあげてよね!」
「わ、わかってますよ! 何と言うか、ああ言って気を引き締めてもらうというかなんというか……。というか、それはもういいじゃないですか! 私はサラ先輩に話があってきたんですよ!」
「あはは、ごめんごめん」
俺はシリカの腕を掴み、引っ張る。
「では俺たちは帰りますよ。邪魔でしょうからね」
「ごめんね、バタバタして。またいつでも来てね」
「さよなら、サラさん! また明日!」
そう言って、俺達はアカネとサラを残し研究室を後にする。
ガチャリと扉が閉まり、廊下に出る。
中でサラさんとアカネが何を話しているのか。
何となくメアリー関連ではないかと俺の勘が言っていた。
気になる……が、ここでまた部屋に戻るわけにもいくまい。
俺は後ろ髪を引かれながらも、シリカと共に廊下を歩き始めた。




