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サラ

 何だか陽気な雰囲気の女だな……。

 この学院で出会う上級生は大体目がギラギラして、勇者にそぐわない奴らばかりだったから、逆に新鮮に感じるな。


「私サラ。可愛いシリカちゃんの先輩だよ~」


「はあ、よろしくお願いします……。古代魔術研究にはシリカ以外部員はいないと思ってました」


「あはは、シリカちゃんも言ってたよ。正確には三年前までは0だった、かな。二年生の時にこのクラブに入ったんだ。その時は0だったからね、それからはずっと一人」


 三年前で二年生……ということは今五年か。

 道理で雰囲気が他より大人びている。


 こいつもエルフ族――ということはないか。

 純粋に興味があって研究しているということか。


「で、今日俺が呼ばれたのは一体どんな理由が――」


 と言いかけたところで、サラがグイっと俺の腕に自分の腕を絡め引っ張る。


「こっちこっち! こっち来て!」


「ちょ、ちょっと――」


 なんて強引な……。

 と、チラッとシリカの方を見る。


 すると、唖然とした表情で俺を凝視している。

 その目は真ん丸に見開かれ、口がぱくぱくとしている。


 なんだその表情は……その表情はなんだ!!


「シリカちゃんもおいでー!」


「は、はい!」


◇ ◇ ◇


「そうそう、それはもうちょい右かな」


「……こっちですか……?」


 俺は踏み台に上り、渡された書物を本棚に差し込む。

 大量の巨大な書物を次々と渡され、無言でせっせと整理していく。


「そうそう! ――おっけー、ありがとう!」


「一先ず本はこれで終わりですか?」


「うん、これで全部だね」


 ふぅ……。

 この俺が顎で使われるとは……。


 本の整理の前は大きな窯やら瓶などの魔術関連の道具を大移動させられ、その前は巨大なテーブルや椅子、棚の移動をさせられた。


 というのも、どうやらシリカが加わったことで手狭になったから、研究室を模様替えするということだったらしい。


 混沌と化していた研究室は整理され、端に休憩スペースが出来た。


「ありがとね、ゼノア君。サラさんと私だけじゃいろいろ大きなものを運ぶのに力が足りなくて……」


 サラもその言葉に頷く。


「そうなの、魔術師って力ない人が多いからね……私達みたいに。ありがとね、手伝ってくれて!」


「まあ別にいいですけど。用事がある訳でもないですし」


「くぅ優しい~! うちの学年の男どもはみんなギラついてて使い物にならないからねえ。あ、シリカちゃんとゼノア君にお礼がてら軽食作ってきたから食べて!」


 そう言って、サラは休憩スペースに置かれた小さいテーブルの上にバスケットを置く。


 中からおいしそうな匂いが漂う。


 サラはふふふっと笑いながらバスケットを開ける。


「じゃーん、サンドイッチ作ってきたんだー!」


 シリカは目を輝かせながらバスケットを覗き込む。


「わー、ありがとうございます!」


「こっちがハムでこっちが卵、それでー、えっとこれはチキンだね。好きなのどうぞ」


「ゼノア君選んでいいよ!」


「そうか?」


「うん、頑張ってもらったからね」


「じゃあ――」


 俺はチキンとハムのサンドイッチを手に取る。


「頂きま~す!」


 シリカがぱくりとサンドイッチを食べる。


「んー!! 美味しいです!! マスタードがいいアクセントですね」


「本当!? ありがとう! ゼノア君はどう?」


 サンドイッチか……どれどれ。


 俺はチキンのサンドイッチを一口食べる。


「これは……!」


 濃厚なチキンの旨味と、野菜のシャキシャキ感……!

 そしてマスタードが味を引き締めている……!!


「お、美味しいです……!」


「ふふ、良かった! たくさんあるからたんと食べてね! 男の子が来るからたくさん作ってきちゃった」


◇ ◇ ◇


 しばらくして、サンドイッチも食べ終わり、サラさんは研究室の奥の方へとモノを探しに入っていく。


「ね、サラさんいい人でしょ?」


 シリカがキラキラした目で俺を見る。


「まあそうだな……悪い人ではないんだろう」


「もう、素直じゃないね。あんなに美味しそうにサンドイッチ食べてたのに」


「それは関係ないだろ……。――にしても、まさかこのクラブに先輩がいるとはな」


 古代魔術エンシェントスペル……エルフ族にしか使えない古代の秘術。


 俺の魔王時代の魔術に匹敵するほどの威力・効果を誇る魔術だが、エルフ族が絶えた今、使えるものはいない。


 なぜなら、人間の魔力では使うことができないからだ。


 それにも関わらず、この時代に人間が古代魔術を研究するとは……。

 エルフ族の血を引くシリカが研究するのは理解できるが、あのサラという女……ただの好奇心で調べているということか。奇特な奴だ。


「びっくりだよねえ。私達以外にも古代魔術を研究したい人がいるなんて……」


「嫌だったか?」


 するとシリカはぎょっとした顔をし、手をブンブンと振る。


「そんなことないよ!! 先輩ってちょっと憧れるところあるし……逆に嬉しいっていうか。同じ話題で話せる人が出来て嬉しいかな」


「ほう……じゃあ良かったな。あの人もシリカのこと気に入ってるみたいじゃないか」


「うん! 今まで一人だったから……ゼノア君にも会えて、クロエちゃんとも仲良くなれて、その上先輩まで出来ちゃうなんて夢みたいだよ!」


 シリカは笑顔を浮かべる。


「俺はそんな大層なもんじゃない」


 むしろ俺がエルフ族というのを理解した上で近づいたんだからな。

 偶然ではない。


「ふふふ、ゼノア君ならそう言うと思った」


「やれやれ……」


 相変わらずというかなんというか。


「そういえば、さっきロイドに会ったな」


「え!? あの、ディードさんのところの……?」


「あぁ。少し話をしたが俺達に手を出すことは無いそうだ。奴の口から直接聞いたからそこは安心して良いだろうな」


 それを聞き、シリカはほっと胸を撫でおろす。


「よかったあ。ここしばらく平穏だったけど、直接聞けたなら安心だね。ゼノア君との約束守ってくれるんだ、意外といい人……?」


「いや、それはないだろ」


「そうだよねえ……」


「あと、こんなことも言ってたな。メアリーっていう女魔術師が何か裏で動いてるらしい。ルークも言ってたから結構噂になってるみたいだが」


 シリカは首をかしげる。


「メアリー……? ――あぁ、クロエちゃんが確か前にそんな名前を言ってたような……」


「序列9位の"冥府の魔女"……それがメアリーだ。黒髪で、片眼が前髪で隠れてる美女だ」


「黒髪……美女……あっ、その人知ってるかも!」


「何?」


 シリカは何かを思い出すように視線を上に向ける。


「えーっと、確か私とクロエちゃんにゼノア君が戦うって教えてくれた人かも」


「……まさか……」


 そうか、なんでシリカとクロエがあの闘技場に来たのか疑問に思っていたが……あの嘆きの森でメアリーは俺に話しかけた後、シリカたちの所に行ったのか。


 だが、わからんな。

 奴の目的は何だったんだ?


 ロイドたちの弱体化を狙い俺に接触しにきたのはわかるが、その後わざわざシリカたちを呼びに行くとは……。


 ただの親切――ということはないだろう。

 何か目的があったはずだが……わからないな。


「あら、メアリーがどうかした?」


 と、奥から戻ってきたサラさんが言う。


「えっ、サラさんメアリーって人知ってるの?」


「知ってるも何も、メアリーは私の親友だよ」


「親友!?」


 サラは自慢げに胸を張る。


「私達、大の仲良しなんだから!」

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