ルークの困惑
「なんだこの軟派そうなガキは……俺がここにいちゃまずいってのか、あぁ?」
ロイドはポケットに手を突っ込み、ルークにガンを飛ばす。
「いえいえいえいえ!!! 滅相もないっすよ、ええ!!」
ルークはびくびくしながら、ピシッと直立し、ロイドから視線を逸らす。
ロイドは面倒臭そうにポリポリと頭の後ろを掻く。
「ったく……、最近の新入生はどいつもこいつも骨がねえ奴ばっかだぜ。お前くらい正面から乗り込んでくる気概が必要だよなあ、ゼノア」
そう言って、ロイドは俺の頭にガシっと手を乗せる。
はぁ……まったく、鬱陶しいやつだ。
俺は頭に乗せられた手を払いのける。
「……俺に関わるなといっただろ」
すると、ルークが慌てて突っ込む。
「ちょ、ちょいちょいゼノアさん! ……ゼノアさん!? 殺されたいのかお前!? 何だその口の利き方は!! ――すいませんね、ロイド先輩、こいつ世間知らずで……!!! 何卒ご勘弁を……」
ルークは冷や汗を垂らしながらぐっと俺の頭を下げさせようと後ろから頭を押し付ける。
「貴様……何の真似だ……」
なんだこいつ……人の頭を……。
「いいから謝っとけよ!! 誰か分かってるのかこの方が!! 怖いもの知らずかお前は!! 本当すいませんね、ロイド先輩!」
「あぁ? いいんだよ、こいつは。おもしれえ奴は口が悪かろうが、態度が悪かろうが気にしねえたちなんだよ、俺はよ」
「え、えぇ……?? お、面白いやつ……? ど、どういう……」
ルークは未だに怯えながらも、困惑した様子で俺とロイドを交互に見る。
「いい加減うるせえぞポニーテール。――まあ、俺がここに来たのは別の用なんだがな。視界にムカつく銀色の髪が目に入ったからよ。ハッハ、いいだろ? 個人的な声掛けくらいよ。お前らをどうこうしようってつもりはねえよ」
ただ見かけたから声を掛けただけという訳か。
そんなに親しくなったつもりはないんだがな。
「ふん……で、何か用か? 俺はお前とはあまり関わり合いたくない。敵が多そうだしな」
「つれないねえ」
ロイドはやれやれといった様子で肩を竦める。
「お前の口からメアリーの奴の名前が聞こえてきたからよ、何となく気になってな」
「そのことか。別に、メアリーが何か企んでるって噂の話をしていただけだ。別になにもないさ」
するとロイドはほうっと唸り、顎を触る。
「結構その話広まってんのか。誰が噂を流してるんだか……――てっきり、お前とあの金髪魔術師があいつの下にでもつくのかと思ったが……んな訳ねえわな。あいつは人間嫌いだしよ」
「人間嫌い……? 三大派閥の一つならかなり多くの人間と関わってるんじゃないのか?」
ロイドは頭を振る。
「んだよそんなこともしらねえのか? あいつんところは特殊だよ。殆ど奴隷といっていいね」
「奴隷……」
「ま、あそこはメアリーだけのワンマンチームよ。相手じゃねえが……確かに近頃少し不穏なのは否めねえな。どこかの誰かさんのせいで最近俺たちへの攻撃が続いてるからよ、こっちもてんやわんやよ」
「…………もとはと言えばお前の所の――」
「わーってるよ、愚痴だよ、愚痴。ま、今のところ俺に直接挑んでくるような愛すべきバカはいねえのは残念だが。ま、つーわけでお前も気を付けろよ」
気を付けろ……?
なんだ、どういうことだ?
「俺が何を気を付けると言うんだ?」
「いろいろだよ。今の学院は火種をあちこちに抱えまくってるからよ。どこに危険が転がってるかわかんねえぜ? 今週に入って何人か失踪してるの知ってるか?」
「いや……」
「つまりそういうことよ。ま、ゼノアに限って何かあるとは思わねえが……でけえ派閥に属してねえやつは特に注意が必要だからな。後ろ盾がねえってのはそれだけリスクが高えのよ。……どうだ、うちに来ねえ――」
「断る」
「食い気味かよ。……あっそ、まあいいわ。んじゃあな、ゼノア。次会うときに屍になってねえことを祈るぜ」
そう言って、ロイドは寮の奥の方へと消えていく。
あちこちに火種がね……。
それに失踪も相次いでいるか……メアリー関連なのか、そうじゃないのか判断はつかないが、注意は必要な話だな。
今のところロイドも俺たちをどうこうしようとしている訳じゃないのは一先ず安心か。直接口から聞けたのは大きい。
一応クロエとシリカにも話ておくか。
と、あれこれと考えていると、こちらを唖然とした表情でみるルークに気付く。
「……どうかしたか?」
「いやいやいや! 『どうかしたか?』じゃねえよ!!」
ルークはキリっと眉毛を上げ、何かの物まねをしながら(俺か?)言う。
「誰が見ても今の光景は困惑するだろうが!! なんなら夢かと思いますよ!? なんでお前がロイド先輩とそんなに親し気に話てんだよ!? こっちは生きた心地しなかったぜ!?」
そこか……。
確かに、十二英傑の一人で学院最大の派閥……しかも悪名高い男ときたもんだ。
そりゃルークからすれば衝撃の光景という訳か。
「まあ、いろいろあったからな」
「いろいろって……えっ、いや、冗談だよな……? あの噂ってまさか……」
あの噂……おそらく新入生がディードを倒したと言う噂か。
厄介だな。
まあこいつはバカっぽいし適当にはぐらかせば大丈夫か。
「噂? 知らんな。――っとそうだ、俺はシリカに呼ばれているんだ。ここで失礼させてもらう」
「お、おぉ……そうか……」
ルークは不思議そうな顔をしながらじっと俺を見つめる。
「お前も何か用事があったんじゃないか? いいのか?」
「用事――あっ、そうだ!! ミラ先輩とキャシー先輩に会いに行くんだった!! あぶねー忘れるところだった! サンキューゼノア!」
そう言ってルークはあっという間にご機嫌な表情で走り出していく。
「じゃあなゼノア! シリカちゃんによろしく! 待ってろよ、先輩方……!」
そう言ってルークは風の様に消えていく。
まったく、騒がしい奴だな。
悪い奴ではないんだが……。
「さて、俺もさっさとシリカの所に行くか」
◇ ◇ ◇
――勇者学院別館。
本館とは違い、大小さまざまな部屋が入り乱れている、混沌とした建物。
その用途は様々で、ほとんどのクラブ活動はこの別館内で行われている。
俺は別館の一階で、シリカが到着するのを壁にもたれ掛かりながら待つ。
「わぁ、待った? ごめんね少し遅くなって」
綺麗な金髪の髪を靡かせ、色白の少女が俺の前に現われる。
「いや、別に……気にするな」
「あはは、優しいね。ありがと。じゃあ行こっか!」
そう言ってシリカは俺を先導し、別館を進む。
何度も曲がり角を曲がり、複数の階段を上る。
まったくどういう造りになっているのか想像できないが、とにかくシリカは迷わずにズンズンと進む。
しばらくして、一本の長い廊下にたどり着く。
「ごめんね、私が呼んだのにこんなに歩かせちゃって……。この奥だから!」
そのままかなり薄暗い廊下を進み、突き当りで止まる。
「さ、ここが"古代魔術研究クラブ"の部室だよ! どうぞ中に入って!」
そう言ってシリカが扉を開ける。
中は思った以上に広く、様々な薬品や道具、書物などが散乱している。
想像していた通り、薄暗い。
すると、奥にもう一人いるのに気付く。
「あれは……」
その人は俺たちに気付いてこちらを振り返る。
茶色い髪をした女性だ。
彼女は俺たちに気付くとぱーっと笑みを浮かべ、小走りで近づいてくる。
「いらっしゃい! 君がゼノア君? シリカちゃんが言ってた通りかっこいいね~!」
「ちょ、ちょっとサラさん!?」
シリカが慌てて女性の方へ駆け寄っていき、ぽこぽこと肩を叩く。
「あはは、ごめんねシリカちゃん。では改めて――ようこそ、"古代魔術研究クラブ"へ!」




