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二週間の平穏

 あれから約二週間――。


 最初のスタートからは考えられない程、平穏無事な学院生活が続いていた。


 シリカが入学早々大きな派閥に接触され、遂には序列3位の"暴虐"、ロイド・シュトロゼスとひと悶着を起こすまでに至った。


 てっきりロイドの派閥から何かあるかと思ったが、あれ以来何かあるということはなかった。


 シリカは元から注目度が高かったが、「どうやらディードを倒したのが新入生かもしれない」という噂が立ち、その候補の一人として以前より様子を見に来る人が多くなっているようだった。


 だがそれも一週間前くらいまでで、今週はかなり落ち着いていた。


 皆の興味は、むしろ他の所へと移っていた。


「よっす、ゼノア」


 講義が終わり、一旦寮の部屋に戻ろうと学生寮の入口に入ったところで、後ろからトントンと背中を叩かれる。


「ん……?」


 振り向くと、後ろには俺よりわずかに背の高い男。


 長い藍色の髪のポニーテール。

 その顔は、ヘラっとした笑みを浮かべている。


「ルークか」


 ルーク・リーバス。

 同じクラスの剣士だ。


 寮の部屋が隣同士で、ここ一週間で話すようになった。


 パッと見は軽薄そうなイメージだが……今のところはまだこいつのことはそれほどわかっていない。


 一つだけ言えることは、こいつからはやたらと話しかけられるようになったという事くらいだ。


「いや~まじで疲れたよなあ、今日もよ」


「そうだな」


「――にしては、相変わらずクールな表情してんねえ~」


 そう言って、ルークは俺の横に並び歩き始める。


「さっき来る時見たんだけどよ、またロイド先輩んとこの奴が一触即発って感じだったぜ」


「またか……本当最近騒がしいな」


「俺が行ってるクラブの先輩からしたら、毎年こういう騒がしい時期ってのがちょくちょくあるみたいだけどな。あーあ、俺はもっと楽に学院を卒業して安定した職に就きたいだけなのによう」


 ルークは退屈そうな表情で口を尖らせる。


「おいおい、そういう楽っていうのとは無縁なのがこの学院じゃないのか? なんで入学したんだ」


「知らねえよ……うちの爺さんが入れってうるさかったのよ……。ま、いまさら嘆いても仕方ねえんだけどな。外から見てる分にはこの学院の勢力争い? みたいなのも面白いだけだしよ」


「いつ巻き込まれるとも限らないぞ」


「大丈夫、大丈夫。俺はそういう危機回避だけは長けてるからよ。――と、そういやもう一つ不穏な話を聞いたんだよな」


 と、ルークは指を立てる。


「5年にめちゃくちゃ美人で色気がやべえお姉さんがいるだろ?」


「……誰のことだ……」


「おいおい、それくらいはチェックしとけよ! えーっと……そうだ、メアリー! メアリー・ウィットソン先輩よ」


「メアリー……」


 序列9位の冥府の魔女。


 俺がディードと戦いに行くとき、"嘆きの森"に現われた女だ。


 確かに、人間にしては異常に妖艶な雰囲気を纏っていた。


 女好きのルークが目を付けるのも当たり前か。


「そのメアリー先輩がよ、何か裏で動いてるらしいんだよ」


「どういう意味だ?」


「いや、そのまんまの意味なんだけどよ。ロイド先輩んところが今少し揺らいでるだろ? その機に乗じて勢力拡大しようとしてるって噂。何かの実験をしてるらしいんだけどよ、その辺はよくわかんね」


 ルークは頭の後ろで腕を組む。


「まあメアリー先輩は魔術師らしいから、えっぐい実験とかしてそうだよなあ」


「確かにあの人はそんな感じだったな。怪しいというか妖しいというか……」


「なっ!?」


 不意にルークが大声を上げ、ぐいっと俺の肩を掴む。


「なんだいきなり!」


「おま、おま、おま……今まるで話したことあるみたいな雰囲気で言わなかったか!? なあおい!?」


「あぁ!? そうだが、何か問題か?」


 俺の発言に、ルークの目がカッと見開かれる。


「ちくしょう、羨ましすぎる……!! どこで知り合ったんだよ!? どういうルートだよおい! 抜け駆けか!?」


「なんだその圧は……! 別にどこだっていいだろ! いいから離せ!」


 俺はバッとルークの腕を払い除けると、そのまま倒れ込むようにして地面に四つん這いになる。


「くう……! くそ、こんな無表情の何がいいんだ……俺のところに来てくれればめっちゃもてなすのに……!」


 なんか勝手に落ち込んでいるな……。

 まったく、騒がしい人間だ。


 だが――そうか、メアリーが動き出したか……。

 確かあの森で会ったとき、ロイドたちの弱体化を狙っていた。


 図らずも俺がその一端を担ってしまったわけだが、その結果メアリーの予定通りに事が進んでいるという訳か。


 直接ロイドに手を出すのは学院が混沌カオスに包まれるとか言っていたから、すぐに動くことは無いと思っていたが……。


「はぁ……。お前は女がどうとかより、もう少し戦う事の方に意識を向けた方がいいんじゃないか?」


「うるせえ!」


 ルークは立ち上がり、俺に詰め寄る。


「いいよな、お前はもう知り合ってんだから!! 出来ることなら俺だって知り合いてえよ!! そんなこと……よ……り――」


 と、勢いがすごかったルークの言葉が徐々に小さくなっていく。


 俺の顔を見ていたルークの視線が、俺の後ろの方へと向けられ、ぷるぷると後ろを指さす。


「ん? なんだアホ面して」


「う、うし、後ろ……!!」


「後ろって……」


 言われて振り返ると、そこには金髪のガラの悪い男が立っていた。


 その男は口角をあげ、不敵に笑う。


「よお、ゼノア。……ったく、こっちの寮は居心地わりいな」


 ルークが声を張り上げる。


「ロ、ロイド・シュトロゼス!? 何でここに?!」

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