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とある少女の好奇心

 あの子は今日も一人なのだろうか?


 遠目から見ると、ただひたすらに妖艶で、女の私でさえ魅了されてしまいそうな美貌をもった少女。


 いや、少女と呼ぶのも少しためらわれるほど完成した女性だ。

 黒い綺麗な髪が片方の目を覆い隠し、切れ長の麗しい目が私(というか学院の全員)を見つめる。


 勇者候補生としての実力も申し分なく、彼女は二年生にして序列122位という、二桁にも到達しそうな偉業を成し遂げていた。


 けれど、私はまだその子が心から笑った顔を見た事がなかった。


 なんでも持っているかと思い、興味深く一歩引いて観察していたが、どうやらそう言う訳でもないらしい。


 異性に振りまく色気と合わせ、お淑やかに微笑む瞬間はある。

 けれど、私にはその笑顔が心からの笑顔とは到底思えなかった。


 常に群れずに一人で行動し、普段他の人と接する時には見せない表情を浮かべていた。


 私はそれがどういうことなのか知りたかった。

 ただただ私の好奇心が疼いた。


 たったそれだけの理由で今日、私は声を掛ける。

 そもそも、人と仲良く成るきっかけ何て大抵そういうものでしょう?


 ただの気まぐれだけれど、今まで何故か誰もそうしてこなかった。


 そうさせない雰囲気を、彼女は持っていた。


 むしろ、彼女が率先して距離をとっているようにも見えた。あくまで私の主観だけれど。


 人間関係とは複雑なのだ。

 一方通行では成り立たない。


 だからこそ、好奇心が疼いたとも言える。


 昼食時、私は食堂で買ったサンドイッチを片手に広い中庭を彷徨う。

 いつもなら、ここら辺で一人昼食をとっているはずだ。


「どこにいったのかな……こっちじゃないのかも……」


 しばらく見回しても、見つけることが出来ない。

 今日は居ないのかもしれない。


 諦めかけ、角を曲がると、木陰で一人本を読むあの子の姿を見つける。


 居た……居た、居た!!


 私は少し小走りに、けれど興奮していることは悟られないよう必死でにやける口を抑えながら彼女に近づく。


 私の身体が太陽の光を隠し、その子が影に入ると、ふと顔を上げる。


「……? どちら様かしら。私に用でもあるの?」


 彼女はしっとりとした声でそう言う。

 

 まさか覚えられていないとは思いもしなかったが、私は気を取り直して話しかける。


「えっと、私サラ・ホーキンス。同じクラスだよ?」


「同じ……クラス? あら、ごめんなさい、私人の顔と名前を覚えるのが苦手なの」


「ううん、気にしないで。ちょっと驚いたけど……それより、私は今日あなたと仲良くなりにきたの」


「え……?」


 彼女は不思議そうな顔で私をじっと見つめる。


「私は別に――」


「あっその本! 魔獣と魔術の関係性について書かれたやつでしょ? 私もそういうの興味あるんだー! どっちかというと魔術の方だけどね。古代魔術とか知ってる? ロマンあるよねえ」


「そ、そう……」


「ここ座っても?」


 少女は開いた口が塞がらないと言った様子だ。

 何かを言おうと一瞬息を吸い込んだが、その言葉を飲み込み短く息を吐く。


「……呆れた、あなた随分ぐいぐい来るのね。初めてよそんな人」


「あはは、それだけが私の取り柄だからね」


 そう言いながら、私はちゃっかり返事を待つことなく彼女の横に座り込む。


 フワッと甘い香りが、風に靡く彼女の髪から漂ってくる。


 同じ女なのになぜ匂いまで違うのか……。

 こりゃ男たちが狂うのも無理はない。


「――じゃあ、改めて」


 私はそっと右手を差し出す。


「私、サラ。よろしくね、メアリー」


「……サラ」


 メアリーは私の顔をじっと見つめ、私もそれに対抗し見つめ返す。


 すると、メアリーはポツリと言う。


「あなたは永遠が欲しいと思うかしら?」


「永遠……?」


 あまりに唐突な問いに一瞬聞き返してしまう。だが、せっかく向こうから話してくれたのだ。


 私は少し考え答える。


「まぁ少しは欲しいかなあ……この時間も永遠に続いて欲しいし!」


「――冗談よ、忘れて」


「なになにー? なんなのよー、気になる!」


 しかし、彼女の視線は本へと戻っていた。


 まあ、最初はこんなものかと、私は持ってきたサンドイッチにかじり付く。


 マスタードがツンと鼻の奥に響く。


 二年生になり、秋に差し掛かろうとしていたよく晴れた日のことだった。

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