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戦いの終わり

 予想外の幕切れに、闘技場がシーンと静まり返る。


 ディードの身体からは血があふれ出し、地面が赤く染まっていく。


「うっそ……勝った……ゼノア君が勝った!」


「うん、うん……!」


 クロエは大喜びでシリカの手を握り、一緒に飛び跳ねる。


「おいおい……ハハ、おもしれえ結果になったなぁ。ルーキー、お前の勝ちだ」


 ロイドはゆっくりと拍手を送る。


 完全に予想外……というわけでもない様子だな。


 俺は乱れた前髪をかき上げる。


「約束は守ってもらえるんだろうな?」


「ハハ、もちろんさ。俺は約束は違えねえ。おもしれえもんも見せてもらったしよ」


 俺は短く息を吐く。


 これで何とか俺たちの平穏は守れそうだ。

 ロイドたちの一派が俺達に今後ちょっかいをださないのならば、今のところは安心してひっそりと来るべき時を待つことが出来る。


「――だが、ルーキー……いや、ゼノアだったか? お前の魔術はなかなかのもんだぜ。これで学院最下位か……今年の新入生は余程粒ぞろいなのか、あるいはお前が特殊なのか」


 ロイドはニヤニヤと笑みを浮かべながら、顎を撫でる。


 ロイドの隣に立つ長髪の男も、少し困惑した様子で言う。


「確かにこれで最下位とはとても……ありえません……」


「だよなあ、こんな最下位が居てたまるかよ。……まあいいさ、最初の序列なんてもんはクソ程の価値もねえ。――どうだ、ゼノア、うちにこねえか? お前なら見込みがある、重宝してやるぜ?」


 ちっ、あの程度の魔術で目を付けられたか。

 どうする……やはりこいつらはここで口封じする方が得策か?


 シリカから手を引いても、俺が目立ってしまっては意味がない。


 やるなら今しかないが……。


 するとロイドは笑う。  


「はは、おいおい、怖い顔で睨むなよゼノア。冗談さ、冗談。お前たちに手を出さねえ約束だからな。――だが、お前の名前は覚えたぜ。俺は人の名前は憶えねえタイプでな。記憶領域の無駄遣いだからよぉ……だから、光栄に思ってくれていいぜ?」


「…………」


「ハハ、何かあったら、また一緒に楽しもうじゃねえか」


「――お断りだ。俺はもう勘弁してもらいたいね」


 俺の言葉に、ロイドは身体を仰け反らせて笑う。


「ハッハッハ! いいねえ、それでこそディードを倒した男だ。どうだ、この後第二戦と行くか?」


 ディードは座席に立て掛けていた大剣の柄に手を掛ける。


「ちょ……何言ってるのその人! ゼノア君、乗っちゃだめよ!」


 客席のクロエもさすがに口を挟む。


「ふぅ……」


「どうだ?」


「生憎、俺はお前が思ってるほど強くない。ディードに勝てたのもたまたまだ。悪いが、今夜は勝ち逃げさせてもらおう」


 言うと、ロイドは少しキョトンとした顔をし、また口角を上げる。


「……ったく、掴みどころのねえやつだぜ。そういう事にしておいてやるよ。……おい、ディード!! 生きてるか! 死んでんなら"嘆きの森"に捨てるぞ」


 すると、俺の隣で瀕死の状態で膝を着いたディードが、僅かに身体を揺らす。


「生きてたか。命拾いしたなあ、ディード。――おい、エリファ」


「はい、ロイド様!」


 ロイドがそう呼ぶと、ロイドの横に立っていた青い髪をした目がくりっとした少女が返事をする。


「処置してやれ。ただし、最低限な。負けたんだ少しくらい苦しませてやれ」


「了解です!」


 そう言ってエリファは小走りに俺たちの元へと降りてくると、もう殆ど動かないディードの横に膝を着き状態を確認する。


「うわ……穴だらけ……」


「どうだ、エリファ。行けるか?」


「任せてください!」


 エリファは両手を重ね、手を組むと、目を閉じる。


 ディードの足元に白い魔法陣が浮かび上がり、エリファの身体が光り始める。


 なるほど、回復魔術師ヒーラーか。


 その光はサラサラとした粒子となり、ディードの身体へと吸い込まれていく。


「…………うっ……」


 穴だらけだった身体が、徐々に塞がっていく。

 止めどなく溢れ出ていた血の流れが、ピタリと止まる。


 しばらくして、処置を完了したのかエリファはゆっくりと立ち上がる。


「ふぅ。えーっと……ロイド様! この人はどうします!?」


 そう言ってエリファは俺の方を指す。


「別に俺は――」


「サービスだ、やってやれ。楽しませてもらったからな」


「了解です!」


 エリファは俺の方に近づき、触れようとしてくる。


「なんだ! 俺は何ともないと言ってるだろう!」


「サービスですよ、じっとしててください。ほら、軽傷ですけど、血が出てます」


 そう言って、エリファは俺の頬にある傷にそっと触れる。


 俺は何だか気恥ずかしくて思わず顔を逸らす。


「ふふ……いいですよね?」


「じ、じゃあ、一応……」


 そうして、ディード同様俺も回復魔術を掛けてもらう。


 体中にあったいくつもの切り傷が、スーッと消えていく。


「――はい、終わりましたよ! うんうん、いいですね」


 そう言ってエリファは満足気に笑みをこぼすと、降りてきたもう一人の長髪の男と一緒にディードを担いでロイドの元へと戻って行く。


「さて、撤収だ。次の戦いに備えるぞ。今回の件で付け入ろうとしてくるバカが絶対いるだろうからなあ」


「了解です、ロイドさん」


「戻りましょう!」


「じゃあな、ゼノア。お前も精々用心することだな。せっかく命を拾ったんだから無駄死にすんじゃねえぜ。俺たちのためにもな」


 そう言ってロイドはエデンへと帰って行った。


 長かった……入学早々に巻き込まれたこの騒動に、とりあえずの終焉が訪れた。


 これで一安心だ。


「ゼノア君!」


 シリカが満面の笑みで俺の元へと駆け寄る。


「信じてたよ! さすがゼノア君だね!」


 次いで、クロエも俺の元へと現れる。


「シリカの話が本当とはねえ……普通最下位でこんなに強いと思わないじゃない」


「……勝てたのはたまたまだ」


「なによたまたまって。そんなたまたまがあってたまるもんですか! ……まったく、シリカもだけど、あんたもかなり底知れないわね」


 そう言ってクロエが笑う。


「ごめんねゼノア君。私のせいだったんでしょ? 巻き込んじゃって……」


「別にそういう訳じゃない。ただ、この学院で生き易くしたかっただけだ」


「格好つけちゃって~」


 クロエがニヤニヤしながら俺の頬を突く。


「そう言う訳じゃない!」


 その手を俺は右手で払いのける。


「さ、戻りましょう。詳しい話は明日聞かせてもらうわよ」


「話さなきゃ駄目か……?」


「当然! ね、シリカ」


「そうだよ。私達仲間なんだから! でも今日はしっかり休んでね。話は明日」


「やれやれ……」


 こうしてディードとの戦いは終わりを迎えた。


 一先ずは、無事解決したと思っていいだろう。

 恐らく学院で一番大きい(そして危険)であろうロイドの派閥から干渉しないという約束を取り付けられたのは、かなり今後にプラスになったはずだ。


 この一件で学院内のバランスがどうなるかはわからないが、今は喜ぶとしよう。


 さっさと帰って眠らなくては。

 明日も早い。

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