表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/55

VSディード

 闘技場が静まり返る。


 ディードの持っているダガーから感じる確かな魔力。

 確実に魔剣の類だ。


 ディードは二本のダガーをクロスに構え、腰を低くし、切っ先をこちらへと向ける。


「手加減できる程器用じゃねえからよぉ……。俺の魔剣じゃあてめえは苦しむかもなあ……」


 ダガーの先端に、風の渦が集まり始める。


 風のディード……なるほどな。


「――だから苦しまないようにせめて一息にぶっ殺してやるよぉ……!」


 ディードは足を踏み込むと、一瞬にして俺の間合いまで詰め寄る。


 魔剣の効果か、ディードを追い風がより加速させている。


「旋風!! 派手に吹っ飛べよぉお!!」


 高速の突きが俺の俺の眉間と顎下に迫る。


 周囲の風を操っているのか、ダガーへと俺の身体が《《引き寄せられる》》。


 巻き込む回転の風と、俺を背後からダガーの方へと押し出す風。

 前後から挟み込むようにして、ダガーへと俺がまるで自ら飛び込むように吸い寄せられる。


 風の魔剣……。

 まったく、魔剣・聖剣の類は魔術師いらずだな。


 だが遅い……この程度のスピード、勇者ディアナの足元にも及ばん。


 だが、敢えて受ける。


 この身に攻撃を浴び、正面から受け止めた上で、俺の魔術で吹き飛ばしてやる。


 これはただの勝利を得るためだけの戦いではない。

 命を取り合うのではない……要求を認めさせ、首を縦に振らせる戦い。


 ここでディードを殺してしまえば、シリカたちが離れていくだろう。

 負ければ、言わずもがなだ。


 ならば、俺に攻撃が効かないと、ディードの心を折ったうえで半殺しで勝つ。


 それならば、過度な実力と受け取られることもないだろう。


 俺は上半身を仰け反らせ額への攻撃を避け、そのまま首を傾け顎への刺突を回避する。


「なッ――!?」


 ディードの顔が、驚きに満ちる。


 今まで避けられたことがないのか、それとも俺に避けられるとは思っていなかったのか。


 もろに食らうとさすがに人間の肉体では致命傷は避けられない。


 あえて僅かに攻撃を掠らせ、血を流す。


 一瞬の戸惑いがディードの動きを止めるが、すぐさま追撃が続く。


 流れるような動きで、次々に急所目掛けてダガーが飛び込んでくる。


 圧倒的手数を前に、普通ならば今頃全身串刺しなのだろう。


 しかし、なかなかクリティカルヒットしない自身の攻撃に、さすがのディードも困惑の色が隠せない。


「ちょこまかと……避けるしか能がねえのか、あぁ!? 一瞬で終わらせるんじゃなかったのかよお!!」


 強がりとしか聞こえないその言葉に、俺は不敵な笑みを持って返す。


「ほう……」


 その予想外の光景に、ロイドたちも少し前のめりに俺たちの戦いを観戦している。


 見る人によってはディードがただ遊んでいるように見えるだろう。圧倒的な攻撃で俺は防戦一方だと。


 身体すれすれを飛んでくるダガーが僅かに俺の皮膚の表面に傷を残す。

 いいぞ、もっとだ。もう少し……。


 さすがのディードも、俺の回避に違和感を覚え始め、攻撃の手に迷いが生じ始める。


 だがそれでも、幾度となく繰り出される攻撃に、俺の身体は遠目から見れば順調に負傷し後がなくなっているように見えるだろう。


 これだけ攻撃を受ければ、問題あるまい。


 さて、そろそろいいか……。


 俺はディードの頭部への攻撃を身を屈めて避けると、そのままの勢いでディードの軸足を払う。


「ガ――ッ!」


 完全にバランスを崩したディードは、思い切り地面に落ちる。


 ディードの攻撃が止む。


「どうした、細切れにするんじゃなかったのか?」


「てめえ……!」


 ディードはプルプルと怒りで震えながら、足をくるんと回転させ器用に立ち上がる。


 その光景に誰もが違和感を覚えていた。


 誰となく、口にする。


「ディードが……遊ばれてる……?」

「相手は最下位だぞ、遊んでるだけでは? ほらみろよ、傷だらけだぜ?」

「ディードも落ちたもんだな」


 静まり返った闘技場では、それら小さな囁きが俺達の耳にも届いていた。


「ゼノア君……いけるよ!!」


「シリカの言う通りだった……!! いっけえ、ゼノア! やっちゃいなさい!」


 盛り上がるシリカたちの歓声に俺は思わず口角を上げる。


 まったく、だから信じろと言ったのだ。


「ざけんなよ……俺があ……俺様が負ける訳ねえだろうが……!! 魔術師風情に!! 最下位に!! ただの新入生に!!」


「遊びは十分だ。そろそろ終わらせるぞ、ディード」


 俺は指を二本立て、弓を構え狙いを定めるが如く、ディードへと向ける。


 出力――15%と言ったところか。


「これは俺の怒りじゃない。別に俺はお前に怒りなど感じていない」


「だからどうした!?」


「ただ、要求を果たすため、俺の平穏を守るため……そして、シリカの受けた傷の《《お礼》》だ」


「何を――」


 俺の指先に、二重の魔法陣が現れる。


「"魔王の包囲網(イビルレイ)"」


 刹那、黒い幾つもの光線が俺の指先の魔法陣から拡散するように広がる。


 そして一定の距離を進んだところで急に角度を変え、一斉にディードへ向けて収束する。


「――!? こんな魔術如き……!!!」


 ディードは一心不乱に俺のイビルレイを、その手に持つ魔剣で切り付ける。


 それはまるで嵐のような激しさだった。


 しかし、咆哮を上げ、高回転での斬撃も俺のレイの手数に追いつくはずもなく、無数の光線がディードの身体を貫く。


「ガハッ……!!」


 貫かれた身体の至る所から、血があふれ出す。


 ディードは膝から崩れ落ち、がっくりと項垂れる。


 闘技場に静寂が訪れる。

 来ていた数少ない観客のだれもが、息を飲む。


「急所は外した。死にはしない……すぐに処置をすれば、だが」


「て……めぇ…………」


 既に力なく、虫の息のディードの手から、カランとダガーが零れ落ちる。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ