ショーへの招待
結局今日はクラブについては保留となり、俺達は帰路につく。
途中シリカ、クロエと別れ、男子寮へと戻る。
日も暮れはじめ、朱に染まった空がどことなく魔界を想起させる。
ユーティミスはしっかりと魔界の情報を探っているだろうか。
今、魔界はどうなっているのだろうか。
「よぉ、銀髪」
夕日に照らされ、背後より伸びた影が俺の影を覆う。
その声色から、一体誰が話しかけてきているのかは容易に特定できた。
俺はポケットに手を突っ込んだままゆっくりと振り返り、相手の顔を見据える。
「……ディードか」
「おいおい、それが先輩に対する口の利き方かよ、えぇ?」
「俺の敬う相手は俺が決める」
ディードの顔が、笑いとも怒りとも取れる形で歪む。
「ハッ! ……ムカつく野郎だなあおい」
「で、俺に何か用か?」
大体わかっているが……。
冷静な口調とは裏腹に、ディードから若干の焦りが見える。
「うちの派閥はよお、この学院じゃあ最大の派閥なのよ」
ディードは語りだす。
「ロイドさんはそりゃあ序列も高くて最強の男よ。……だがよお、だからこそ引き下がれねえ所があんのよ」
そう言ってディードは静かに俺を見据えると、はあっと溜息をつく。
「……お前も不運だったなぁ」
「どういう意味だ?」
「そのまんまの意味よ。オキタの奴さえいなきゃあ、あの時半殺し程度で済ませられたかもしれねえが……あいつの介入で事が大きくなっちまった。……あいつの《《理想》》とやらが、返って人を傷つけてるんだ、皮肉なもんだよなあ」
「…………」
そう言う事か、下らん……。
どうやらロイドが俺を探していたというのはそういう事らしい。
「自分のことを棚に上げて相手を下げるのは格下のすることだ。ロイドとかいう奴は教えてくれなかったのか?」
「本当ムカつく口ききやがるなあてめえはよお……! ――はぁ、とにかくだ。わりぃが、お前にはきっちりと落とし前付けて貰わねえとダメみてえだ」
そう言ってディードは一枚のカードをこちらに投げる。
俺は、地面に滑るように落ちたそれを拾い上げる。
「場所と時間だ。待ってるぜ。これはショーだ。あの時の再戦といこうじゃねえか。来なくてもいいが……その時はわかってるよなあ?」
念を押すようにそう付け加える。
「こっちも迷惑してんだ、勘弁してくれよ……」
そう言って、ディードは俺の返事を聞くことなく踵を返す。
そのまま角を曲がり見えなくなるまで、俺はその背中を見つめ続けた。
「……まったく、迷惑してるはこっちのセリフだよ……」
俺はカードに視線を移す。
『今夜0時。第三闘技場』
その一文だけが書かれていた。
招待状か。
ディードはショーとか言っていたな。
奴のボス……ロイドが観客という訳か。
ただ俺を襲うのではなく、あえて闘技場に呼び出して見世物として楽しもうと言う訳か。
あくまで、ディードが起こした小さないざこざで、その結末をショーとして楽しもうとしている。もしかすると、ディードに対する罰というだけの話で、さほど俺には興味がないのかもしれない。
奴らにしてみれば、結果は見えている……という訳か。
ただ、行かなければディードは確実にアカネの目を盗んで今度こそ俺を襲い、なおかつシリカも奪おうとするだろう。
ディード自体は問題ではないが、俺の目の届く範囲の外、気付かないところでシリカに接触されてしまえばどうしようもない。
女子寮には俺は入れないのだ。ディードの仲間に女子がいないということもあるまい。
無視をすれば余計厄介なことになる…………か。
最善策は、大人しくディードの誘いに乗り、敗北すること。
だが……負けるなど、魔王として絶対に譲れないラインだ。
やるからには勝つ。
勝ったうえで、どう切り抜けるかを考える必要があるな。
奴を捻るなど造作もないが、余りに圧倒的にやってしまうとシリカではなく今度は俺に目がつけられてしまう。
さて、どうするか……。
――よし、決めた。
◇ ◇ ◇
俺たちの寮の前にはベンチが並べられた並木道がある。
そこを北へ抜け、少し歩いたところに明らかに造りが豪華な別の寮が存在する。
英傑専用の寮。通称"エデン"。
序列十二位以内の十二名だけが住むことを許された、特別な寮だ。
その広さは一般生徒の寮の比ではなく、豪華な暮らしを謳歌しているという(クロエ談)。
俺は正面から堂々と中に入ると、エデンの入り口に立っていた受付の人に声を掛ける。
「ロイドに挨拶に来た」
「え……?」
受付の女性の顔が、一瞬何を言っているか分からないと言った様子で固まる。
さあ、直接交渉しようじゃないか。




