覇道
「どうだ、心は決まったか……?」
シリカは眉間に皺を寄せ、ぎゅっと目を瞑る。
あれこれと考えを巡らせているのだろう。
しばらくして、ゆっくりと目を開く。
「……でも……」
「あぁ!? 聞こえねえなあ!」
「私どうしたらいいか……」
チッと、ディードの舌が音を鳴らす。
「うだうだうだうだ悩みやがってよお……俺だってなあ、お前らを傷つけたくはねえのよ」
「えっ……?」
そして、ディードの剣が振り上げられる。
「ちょちょっと!! 剣!? どうして!?」
「単純に考えろよ、一年生。お前が大人しく首を縦にふりゃあ、誰も傷つかねえのよ。だが、拒否するってんなら最低でもお前は傷つくことになっちまうよなあ!!」
シリカの身体は強張り、ぐっと目を瞑る。
すでにシリカは、抵抗するという選択を捨てていた。
恐らく抵抗して俺達……俺やクロエに危害が加わるのを恐れているんだろう。
そうだ。それでいい。
これで俺とシリカを結ぶ繋がりは消える。
ディードの攻撃でシリカは負傷し、そのまま奴らの所へ連れていかれる。
強引に。
そうすれば俺への注目は外れ、当初の予定通り、裏からじっくりと序列を上げる作戦で進めることが出来る。
勇者になるには、必要なことだ。
しょうがない。
「悪いが、ちょっと痛えぞ――――ッ! …………あぁ!?」
しかし、振り上げられたディードの腕は、空中に固定されたように動かない。
ディードは、それが背後の人物であると理解していた。
首を僅かに傾け、ギロリと右目が後ろを睨む。
「自分が何してんのかわかってんのかよお、誰か知らねえが」
俺はディードの右腕を握る力を強める。
「そいつは俺の覇道に必要だ。勝手に手を出されては困るんだが」
「てめえ……食堂の雑魚……!!」
俺は握ったディードの腕を強引に横に吹き飛ばすと、ディードはバランスを崩し、横へ軽く拭き飛ぶ。
壁側に追いやられていたシリカを腕の中に抱き込むと、ディードを見据える。
「ゼノア君……なんで……!」
「まだお前から恩を返してもらっていない。それに、こんなクズに俺の仲間を穢されるのは我慢ならないんでな」
予定変更……仲間を捨てて何が覇道だ。
俺はこいつと共に頂点を目指す。
「てめぇ……何が覇道だ。覚悟は出来てんだろうなぁ!!」
「覚悟? 知らんな。俺の道に邪魔な奴は排除するだけだ。嫌なら俺たちに関わるな」
「ハッ……クックック……ハァッハッハッハ!!」
ディードは身体をくの字に曲げ笑い始めると、徐々に笑い声を大きくし、しまいには身体を仰け反らせ盛大に笑いだす。
「いやぁ、悪ぃなあ、爆笑しちまってよぉ……! 大層な口を聞くもんだから、一瞬本気にしちまったが……さすがに冗談だよなぁそりゃあよお! 邪魔な奴を? 排除する? お前が?」
ディードはまた口角を上げる。
「クッハッハ、面白れえ冗談だ! 雑魚のお前が、俺たちを排除!? どこからそんな自信が湧いてくるんだよ!」
「事実だ。目を付けられるのは面倒だが、邪魔をするなら容赦しない。それに、お前達なら、その下らないプライドとやらの為に事実を隠してくれるだろう?」
ディードの顔から笑みが消える。
「……今年の新入生はバカの集まりか? あのクソみてえな女剣士といい、余程命が要らねえみてえだな。さすがの俺も呆れてものが言えねえぜ」
ディードは両手を広げ、首を竦める。
「――ゼノア・アーウィン。魔術師。そのくせ入試での魔力測定ではぶっちぎりの最下位。……そして今の序列は301位……」
「良く調べたな」
「うちはでけえ派閥だからよ。301位ってことは今この学院で、最弱が!! お前ってことだよ!! その最弱のお前が、何を強がってやがる! 女の前で格好つけてえのか!? 笑っちまうぜ!!」
事実だが……その情報に踊らされ、目の前の相手の力量も測れんか……。
まあ仕方ない。人間にはそもそも魔力を測る能力がない。
だからこそ、序列何て言うものを作って客観的に優劣をつけるのだろう。
「だったら、試してみるか?」
「ゼ、ゼノア君!?」
俺は右手をパキパキと鳴らす。
ディードは天を仰ぎ、大きくため息をつく。
「……自ら新入生最初の死亡者になりてえとは、イカレた野郎だぜ……。ハッ! いいぜ!! そんなに死にてえんだったらよお、望み通りあの世に送ってやるよ!!」
ディードは右手に持った剣を前に構え、腰を低くする。
「掛かってこい。一撃で沈めてやる」
「その減らず口を叩いてられるのもいつまでだろうなあ!!」
ディードはガッと地面を蹴り、一直線にこちらへと踏み込んでくる。
風圧が押し寄せ、あっという間にディードとの距離は縮まる。
その距離、およそ三メートル。
なかなかの踏み込み……決して雑魚の部類ではないか。
だが、まだ甘い。
あの剣……魔剣か。
どうやら勇者学院に入学するレベルになると聖剣や魔剣の類を操る剣士ばかりのようだ。
さて、どの魔術で葬ってやろうか。
シリカには刺激が強すぎるかもしれんが、ここで中途半端に加減すれば余計ややこしくなる。
ならば、魔王級で瀕死ギリギリまで――
――刹那、俺とディードの間に、《《何か》》が落下する。
激しい地鳴りと突風。
舞い上がる砂埃の中、一人の人影が揺れる。
「そこまでだ、二人共!」
その声は、明らかに女のものだった。
少し高いが、芯のある声質。
ディードが慌てて急ブレーキをかけ、後退する。
「てめえ……オキタ……!」




