表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/55

次から次へと

「ちょっとジョゼさん! 勝手に何やってるんですか!!」


 走ってきたのか息を切らした金髪の男がジョゼに声を掛ける。


「おや、リンドウ君。そんなに焦ってどうしました?」

「勝手に居なくなるんですから……。だから、シルフローラの勧誘は俺たちが――――って、本人目の前にいる!?」


 リンドウは目を見開いて身体を仰け反らせる。


「ええ、今勧誘していたところです」

「! じゃあもう――」

「フラれましたがね」

「え!? ま、まじっすか……?」


 その言葉に、リンドウと呼ばれる男は唖然とした表情でシリカを見る。


「冗談でしょ……魔術師でジョゼさんの誘い断るって……」

「まじです。価値は人それぞれという事ですよ」

「そうですけど……あんた本当にいいのか?」


 リンドウはシリカに念押しするように問いかける。


「は、はい……とりあえずは……」


 リンドウは複雑な表情でシリカを見つめる。


 何か思うところがあるのか、なんとも言えない表情だ。


「まあ、今回は戻ります。例の話もまだ終わってないですしね」


 ジョゼは俺達に軽く会釈をすると立ち上がる。


「それでは、またいずれ」


 そう言って、ジョゼはスタスタと歩いて離れていく。


 その場にはリンドウだけが茫然と残っていた。


「……リンドウ君、行きますよ」

「――は、はい! 今行きます!」


 そうしてジョゼは、恐らく"魔術会"のメンバーであろうリンドウを連れ、食堂を後にした。


 周りの学生たちも聞き耳を立てていたようで、静かだった食堂に活気が戻り始める。


 この様子じゃあ、他の派閥にこの事実が広まるのは時間の問題だな……。


「良かったの? シリカ」


 クロエが不安そうにそう語り掛ける。


「うん! 私達せっかく一緒になったんだから、もう少し一緒に居たいでしょ?」

「~~~! いい子だなあ、シリカは!」


 そう言ってクロエはシリカに抱き着く。


「わっ、何!? あはは、やめてよ!」

「私もシリカについてくからね! もちろん、ゼノアもよ」

「あぁ。俺も今は事を荒立てる気はない」

「もうー愛想のない言い方ね。せっかくシリカが恩返ししたい~って断ったのに何も感じない訳!?」


 シリカは恥ずかしそうに頬を赤らめる。


「そ、それはいいから!」

「まあ、悪くはないな。恩返し楽しみにしてるぞ」

「もう、ゼノア君まで……!」


◇ ◇ ◇


 翌朝。

 窓から漏れる光で、いつもより早く目が覚める。


 昨日はいろいろあった。その疲れもあったのだろう、寮に戻るや否や寝てしまった。


 シリカの実力の露呈……まあそれは初めから家名で注目を浴びていたのだから遅かれ早かれではあったが。それに十二英傑、序列……そして、"賢者"ジョゼ・バイアースの接触。


 それ以降、特に接触してくる上級生や派閥はいなかったが、"賢者"ジョゼからの"魔術会"への誘いを断ったとして変に注目を浴びてしまっていた。


 だが、俺が目立つわけではなく、シリカだけが目立つ形になったのは不幸中の幸いか。


 最悪シリカを切れば俺への注目は最小限で抑えることが出来る。

 あくまでもシリカは勇者への足掛かりのための存在……少し心苦しいが、ここは非情になるべき局面だ。


 エルフ族の血を引く魔術師として、勇者の地位につくために優秀な片腕として重用しようと思っていたが……。少々気が焦ったか。元から有名ならこうなることも想定しておくべきだった。


 こればっかりは俺のミスだ。


 勇者と魔王、二つの地位を手に入れ、世界を統一するための大いなる犠牲と割り切るほかない。


 さて、ここからどう動くか……。

 少し考えをまとめる必要があるな。


 俺はベッドから起き上がり、制服を身に纏う。


 魔王には相応しくない、純白の制服。


「散歩でもするとするか」



 早朝の校内は閑散としていた。


 さすがにこの時間から外を出歩く学生は多くはないようで、数人の上級生を見た程度だった。


 中庭を抜け、噴水広場に出る。


 女子の寮は噴水広場を挟んで男子の寮の反対に立っている。

 遠目に見える女子寮は同じ造りだが何となく男子寮とは別物に見える。


「いい加減よぉ……従ってくんねえかあ? こっちにも立場ってもんがあんのよ」


 そんな声が聞こえてくる。


 早朝の広場には不釣り合いなほど、冷たい声。


 なんだ……?


 俺は耳を澄ませる。


「だから、あなた達のやり方には賛同できません! そ、それに、私はゼノア君に恩を返さないと……!」


 不意に出る俺の名に、顔が引きつる。


 おいおいおい、まさか……。


 俺は恐る恐るその話し合いを覗き込む。


 二人の男女が物陰で声を荒げていた。


 あれは……。


「シリカ!? ――と……ディードとかいう食堂で会った……」


 くそ、やはり他の派閥からも接触されていたか……。

 次から次へと……。


 しかも、一番最悪なロイドの所……!


 どうする……黙認するか?

 ここでシリカがどう出るか……今のところ拒否しているようだが……。


 昨日の朝の様子を見るにあのディードという男、容赦がない。

 放っておくと強硬策に出る可能性も……。


「往生際が悪ぃなあ……! こっちもよぉ、ノルマがあるんだわ! うちの偵察が見てたぜえ、昨日の魔術。それに腹黒賢者のとこからの勧誘!」

「か、勧誘は断りましたよ……」

「それは知ってるさ。先手を取られたのは想定外だったが……これ以上他の派閥に引き込まれるのはうちの不利になりかねねぇからよぉ」

「だから……! 私はゼノア君たちと離れる気は――」


 瞬間、金属が擦れ合う高音が響く。


「――!」


 剣の切っ先が、シリカに向けて突き立てられる。


 シリカは壁際に追いやられ、シリカのふとももを切っ先が這う。


 赤い血が、白い脚をツーっと流れる。


「ッ!」

「あんな雑魚と組んでもよぉ、結局でけえ所に潰されるんだぜぇ? お前が平穏に暮らす唯一の方法はその力を隠して学院生活を送ることだったが……それももう無理だ。……というか、お前の名前は入学前から知れ渡ってたからよお……」

「それは……」


 シリカが唇を噛みしめ、苦い顔を浮かべる。


「いいか、よく聞け」


 ディードの剣が、シリカの顔の横に触れる。


「あの雑魚に恩を返したいなら、大人しく俺たちの仲間になるのが利口だと思うけどなあ」

「ど、どういうこと……?」

「お前が俺の誘いに乗らねえってんなら、あの雑魚をボコボコにしてお前を従わせるだけだ。俺たちが手段を選ばねえのは、もう知ってるだろ? それでもいいってのかよぉ! 結果的にお前の恩返しってのがそいつを苦しませることになるんだぜ?」


 あのクズが……俺をダシに使おうというのか。

 身の程を知らない人間だな……。


「それは……!」


 シリカの決意が揺らぎ始める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ