最弱の魔王
講堂でのオリエンテーションは特に何事もなく進められた。
講義は基本的には選択式で、それぞれの戦い方や伸ばしたいものに合わせて選択する。
もちろん中には必修の講義もあるが、数はそれほど多くはない。
単位式で、一定の単位を取っていれば次の学年に上がることが出来る。
クラスは二クラスあり、講義に関しては殆ど関係ないが、クラス対抗のイベントなどもあるようで、完全に関係ないと言う訳でもないらしい。
俺とシリカ、そしてクロエは同じクラスだ。
パッと見た感じ、魔術を使いそうな学生は一年生の中で三分の一程度。
魔術系の選択講義は人が少なくて楽かもしれないな。
他にはクラブ活動への参加の推奨や、学院での日々の過ごし方、各種学院のイベント、校内の施設やダンジョンの説明などなど、いろいろと説明がされた。
「それでは最後に」
そう言って、オリエンテーションの講師は全員に小さな封筒をよこす。
「この学院では、序列制度が導入されています。知っていると思いますが、上位12人にはさまざまな特権が与えられます」
上位12名……クロエが言っていた十二英傑とかいうやつか。
「最低限の情報として一つ教えておきましょう。現在の序列上位12位には、最上級生である6年生が4人いますが、それ以外は全て下級生です。力があれば、早い段階で英傑入りすることも不可能ではありません。……特に、5年生は強者が集まっています。栄光の世代と呼ばれることもある程です。英傑入りはしていないものの、13位以下には5年生が多くひしめき合っています。あなた達新入生も、ここに名を連ねるような強者に育って欲しいものです」
一呼吸置き、黒い服を身に纏った初老の女性――クルエラは言葉を続ける。
「何か質問は? ――なさそうですね。では、先ほど配った封筒を開いてください」
封筒の表には、金の文字で自分の名前が刻まれている。
「中身は、入試の結果を踏まえた今のあなた方の序列です。最下位は301位です。ですが、今の順位はあくまでスタート地点です。たとえ何位だろうと、これから駆け上がればよいのです。――では、各自確認しだい、オリエンテーションを終了します」
そう言って、クルエラはカツカツと足音を響かせながら講堂を後にする。
クルエラが出ていくと、一斉に生徒たちの動き出す音が響く。
他の学年も60人で一学年のはずだが最下位が301……つまり、既に59人が死、あるいは失踪しているということか。
数字ではっきりと出ると改めて実感が湧くな。
在籍はしているが居なくなった者も含めるともっと数は増えるか。
――ふっ、まあ気にしても仕方ない。自分の序列を確認するとしよう。
魔力測定が酷かったが、実技では確実に挽回できたはずだ。
最下位が301ということは、一年生が六十人だから、現段階の最高位は242位か……。
最高位とはいかずとも、270位台には載っているだろう。
俺は封筒を開き、中からカードを取り出す。
「どれどれ……」
表の「ゼノア・アーウィン」という言葉を読み、カードを捲る。
そこには、301と数字が刻まれていた。
「…………は?」
俺は思わずカードを二度見する。
カードをもう一度裏返し、名前を確認し、再度捲る。
が、数字にはまったく変化がない。
「スッーー……」
まてまてまて、俺。落ち着け。
深呼吸だ。
魔王だぞ? 仮にも元魔王だぞ?
魔王が最下位などということがありえるか??
俺は初めて心臓がドキドキするという感覚を味わう。
ドキンドキンと耳に重低音が響く。
冷や汗が止まらない。
そんな馬鹿な――
「ねね、何位だったの?」
クロエが、俺のカードを覗き込むように顔を近づける。
瞬間、俺はびくっと身体を震わせる。
「な、なんだ!」
「うわっ、何よ大きい声出して……びっくりした……」
「す、すまん。ちょっと急に顔だすから驚いてな」
「えぇ……意外とビビリなのね」
「…………」
くそ、見せる訳には――
「獲った!」
瞬間、クロエは俺の手からカードを抜き取る。
「オイ!」
動揺で呆気なくカードを取られ、カードを高く掲げるクロエに向け俺は身体を乗り出す。
が、時すでに遅くカードを見られる。
「見ーちゃお! えーっと……301……?」
クロエは俺とカードを何度も交互に見比べる。
やめろ、その目は。
クロエは苦い顔をしながら、必死に作り笑顔を浮かべる。
「あ、あれえ……あはは、あれえ……」
クロエの顔から、こいつを仲間にしてよかったんだろうか、という心の声が痛いほど聞こえてくる。
「……文句あるか?」
精一杯クールに装うのがきつい。
「しょうがないよ、何か装置の不具合でゼノア君の魔力測定できなかったんだもん」
そう言って、シリカがフォローに入る。
「えーそ、そうなの? それは災難だったわね……」
「そうそう。それで合格できただけでもすごいと思うよ!」
「やめろ、その慰めが心苦しい」
俺の言葉に、二人は眉を八の字にして困ったように笑う。
「まあ序列は入試だけの結果だし、げ、元気だして! それより見てよ、やばいわよシリカ」
「ん?」
クロエがシリカのカードを俺に見せてくる。
そこには、243と書かれていた。
243……つまりこの学年で2位スタートという訳だ。
「当然だな。シリカの魔術は線が良い。実技は見ていないが、妥当な順位だな」
「そうなのね! すごいわね、シリカ」
「あはは、そんなことないよ。ここから上がるのも大変だろうし」
「謙遜しちゃってまあまあ。私は267位……可もなく不可もなくって感じね」
「十分凄いよ、クロエちゃんも」
「そうだな。上位に入っていると言って差し支えないだろう」
俺の目は狂いなかったようだな。
やはりエルフ族の血を引くだけある、いいスタートだ。
この学年にそれを上回る奴がいるというのは驚きだが……。
クロエは高いと言う程ではないが、安定しているな。
それよりも、上級生に兄があると言う点で情報が流れてくるのは好都合だ。
しばらくはこの三人で上手く立ち回れば問題なさそうだ。
と、その時クロエが俺を見ているのに気付く。
なんとも形容しがたい目……あれは確実にこの人でいいのかなと不安になっている目だ。
「どうしたクロエ?」
「い、いや、何でもないよ。うん」
クロエはあははと笑い誤魔化す。
ま、最下位の男は流石に不審に思うか……。
早いところ順位を上げて力を示す必要があるな。
あくまで俺が中心だとこいつらに分からせる必要がある。
……だが、目立たず順位をあげるとなると……さて、骨が折れるな。
いきなり最下位からのスタートとは正直想像していなかったが……これはこれで面白い。
生まれてこの方魔王として頂点に君臨していた俺が、一番下からというのも一興。
精々楽しませてもらおうではないか、勇者学院。




