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勇者学院の勢力図

 寮の窓から、日差しが差し込む。


 朝の光に照らされ、身体が自然と目覚める。


「朝か……」


 入学して、はじめて寮で眠った感想は「意外に寝心地が良い」だ。


 さすがは各国からエリートを集めているだけあって、寮もかなり造りが良い。


 魔王城ディスアビスの髑髏のキングベッドに比べれば覇気が足りないが、たまにはこういう普通のベッドも悪くはない。


 俺は靴を履き、真っ白なジャケットに袖を通し、ネクタイを締める。


 さて、今日から勇者を目指す。

 楽しい時間の始まりだ。


◇ ◇ ◇


「あ、おはようゼノア君! ここ、空いてるよ」


 そう言って朝から元気そうに手を振るシリカは、指で自分の正面の席を指す。


「ああ、悪いな」


 俺は手に抱えた食べ物の乗ったプレートをテーブルの上に乗せ、シリカの正面に座る。


 シリカはニコニコした様子でパンを頬張っている。

 プレートには、山盛りのパン。


 こいつ、朝からこれだけ食うのか……。


「朝から元気の良い胃袋だな」

「ふえ?」


 シリカは口をもぐもぐとさせながら、更に次のパンを詰め込もうとしていた。


「…………いや、何でもない。忘れてくれ」


 途轍もない大食いだな、こいつ。

 この細い体のどこに入るんだか……。


 これもエルフ族の血……なわけないか。


 俺も取ってきたベーコンと目玉焼きをナイフとフォークで切り、口へと運ぶ。


 と、そこで視線を感じる。

 はじめから感じていたが、どうやら勘違いではないらしい。


「……おい、シリカ」

「――はい?」


 口にため込んでいた物を飲み込んだシリカが、満足気な顔で俺を見る。


「さっきから俺を見ているその……そいつは誰だ?」

「あ、そっか紹介してなかったね」


 そう言ってシリカは右隣の方へ体を向けると、そこに座っていた少女を紹介する。


 青い髪に、女の子らしい体系をした小柄な少女。

 制服の胸の辺りが少し苦しそうにしているのが分かる。


 それとは裏腹に、顔つきはややキツい印象を受ける。


 その表情には好奇心が溢れているのか、常に薄っすらと笑みを浮かべている。


「この子はクロエ」


 クロエと呼ばれた少女は身を乗り出す。


「私、クロエ! クロエ・バドワール。あなたがゼノア?」

「? ああ、そうだが?」

「わー、本当に銀髪! 不愛想な感じの表情!」

「ぶあ……何?」


 朝から騒がしい上に、初対面からいきなりなんだこの女……。

 

 俺が一瞬ムッとした表情を浮かべると、慌ててシリカがクロエの口を抑える。


「ンガッ!」

「わーわー!! それは言わないでよ!!」

「あは、ごめんごめん。ついね」


 なんだかよくわからんが、楽しそうなのだけは伝わってきた。


「シリカ、この学院に知り合いがいたのか?」

「いや、そうじゃなくてね。クロエは寮が隣の部屋なんだ。それで意気投合してね。クラスも一緒だし!」

「ねー! やっぱり人が多い方が楽しいわよね! クラスが同じなら尚更。私も知り合いが居なくて寂しくて寂しくて……」


 そう言って泣きまねを始め、目元を拭う素振りを見せる。


「そうか、まあシリカの友人なら別に拒絶する気はない。よろしくな」

「あら、意外に素直なのね。もっとつんけんしてるのかと思ったわ」


 ノリで喋ってるのか、それとも意図してそう言うキャラを演じているのか。

 判断がつきにくい女だ。


「期待に沿えなかったか?」


 だが、シリカを取り込むにはあまり交友関係に口出しはするべきではない。

 ここは俺も大人しく受け入れるとしよう。


「とんでもない! 素直に感心したというか、驚いたというか。でも、友達が出来たのは幸先いいわね」

「そうだね、私もゼノア君だけだったから。女の子の友達が欲しかったんだ!」

「いや、まぁそれもあるんだけどね。ほら、この学院で生き抜くには結束って大事でしょ?」


 そう言ってクロエは神妙な顔で俺たちを交互に見る。


「学長の話を聞く限りそうみたいだな」


 学院は魔窟……そして学生同士の小競り合いで消える生徒までいる。

 一人でいるのには危ない環境という訳だ。


 無論、俺にとっては問題にはならないが。


 するとシリカが無垢な表情で首をかしげる。


「あんたは危機感ってものがなさそうね……。学院の内情よ、知らないの?」

「し、知ってるよ!」


 すると、クロエは大きくため息をつく。


「怪しいわね……。そんなんじゃ生き残れないよ~。ジークレイン学長も言ってたでしょ? 特別に私が教えてあげるわ。友達になった記念にね」


 そう言って、クロエは俺たちに顔を近づける。


「いい? この学院の序列制度は知っているでしょ?」

「えーっと、確か全学年を通した序列が全員についていて、その上位者には特別待遇と、卒業時勇者になる権利が与えられる、だったかな?」


 序列制度。

 この学院では、全学年を通して序列が着く。


 序列の決定方法はいくつかある。


 授業で優秀な成績を納めること。

 学院生活の中で特筆すべき「結果」を残すこと。

 そして、一対一の対決による下克上制度、"剥奪戦ディプルムバトル"。


 逆に不適切行為があれば序列が下がるらしいが、この学院の基準はまだわからない。学長の口ぶりからすればよっぽどのことがない限りなさそうだが。

 

 特別待遇は詳しくは知らないが、どうやら寮とは別に豪華な個室が与えられるらしい。


 そして何より重要なのが、勇者となる権利だ。


 卒業すれば全員勇者となれるわけではなく、序列上位者のみが勇者となる権利を得る。


 つまり、俺は序列を上げる必要があるということだ。


 手っ取り早いのは片っ端から上位者を剥奪戦で倒していくことだが……。


「そうそう。それで、上位十二名を十二英傑って言うんだけど、彼らの学院内への影響力って半端ないのよね」


 そう言ってクロエは指を四本立てる。


「注意しなきゃいけないのは四人よ。序列一位、"剣聖"ユノ・ホワイト。序列三位、"暴虐"のロイド・シュトロゼス。序列五位、"賢者"ジョゼ・バイアース。そして序列九位、"冥府の魔女"メアリー・ウィットソン」


 一本ずつ指を折り、四名の名を上げるクロエ。


「で、この中でも特別意識する必要があるのはロイド・シュトロゼス、ジョゼ・バイアース、メアリー・ウィットソンの三人ね」

「注意すべきは序列上位者じゃないのか?」

「単純な力だけならね。ただこの三人はちょっと違うのよ。それぞれ派閥を持っていて、組織で行動しているタイプ。もちろん他にも派閥はあるけど、この三人は特にデカいのよ」


 なるほど。

 序列は強さの証明であるが、同時に派閥としての強さもあるのか。


 ただ力だけではなく、人を引き込む力も必要というわけか。


 ……であるなら、魔王のカリスマ性を持つ俺ならば巨大な派閥を作ることも可能か。


「中でも一番ヤバイのは、ロイド・シュトロゼスのところね。黒い噂しか聞かないもの」

「黒い噂?」


 クロエは頷く。


「派閥メンバー間での序列操作に、有力者潰し、強引な勧誘……それに教員との繋がりを持ってるって噂もあるわ。とにかく数が多いから迂闊に手出しも出来ない連中よ」

「そんな人が勇者を目指してこの学院に入学してるなんて……」

「いい子ちゃんのシリカには刺激が強かったかしら?」

「そ、そんなことないよ!」


 そう言ってシリカは頬を膨らまし、不貞腐れたようにジトっと目を細める。


「――そしてもう二つの巨大派閥。"賢者"ジョゼが組織する"魔術会"と、"冥府の魔女"メアリーの"スレイブ"。……この三つが三大派閥ね。そのほかにも大小いくつかの派閥があって、みな利害関係で固まってるってわけ」

「なるほどな……ようはこの勇者学院内で既に派閥間で争いが起きているという訳か」

「そういうこと。だから立ち回りって大事なのよね」


 だから魔窟か……。

 その意味がやっと分かった気がした。

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