第20話 牙を剥く世界
「ジョン、新しいパスポート頂戴」
「聞きましたよマスター、やらかしたらしいですね」
「はて? 何の事かな」
「全く、うちのパスポートで遊ばないで下さいよ。今度はイギリスの国籍にしときますね」
「有難う、今度の名前はダンじゃ無い奴にしといてくれ」
「それじゃ、ジョンにしときますね」
「おいおい、それじゃお前さんと同じじゃないか」
「それじゃあ、ジョン2世って事で」
「いい加減だな~」
こうして指名手配犯にはなったが新しい身分を手に入れた俺は再び自由に外に出られる様になった。まあ、指名手配とか受けても誰も気がつかないのが普通なので、キャッシュカードさえ使えれば何の問題もないのだ。とは言っても又地上に出て冒険者をして遊ぶつもりはもうなかった、パソコンや色々な必需品を買えば、もうダンジョンから出たく無くなったのだ。俺は既に普通の人じゃなくてダンジョンマスターなのだと今回の冒険者で思い知ったのだ、この世界で魔法が使えるのは俺だけなのだ。既に俺は人間じゃ無い何か別の者に成っていた様だ。
「どうしたんですマスター、元気が無いですね?」
「何だかな~」
久しぶりに地上に出てみたが町の閉塞感に疲れたのだ、何だか息苦しい世の中になった気がした。昔は街には音楽が流れていて、人が忙しそうに動いていた様な気がする。魔物の影響かとも思ったが、異世界の人間達はもっと明るく生きていた、まあ異世界の人間達は魔物に慣れていたせいもあるのかも知れないが。それでも昔より確実に世の中が息苦しく成って来たような気がする。これは俺が異世界を見たせいかも知れないし、ダンジョンマスターになったせいかも知れない、あるいは両方なのかな?まあどちらにしろ妙に疲れてしまった。
そこで俺は外に出るのを止めて又ダンジョンの最深部に引き篭る事にした。人間の顔を見るのに疲れたのかも知れない。そして魔物達と平和に暮らして居た。魔物達やコアやバルキリーにとって俺はダンジョンマスターなので、何の疎外感も味わう事もなく楽しく暮らせていた。だが引き篭って1ヶ月目位にロクでもない事件が起こってしまった。
「マスター、ジョンさんが来てます。緊急事態だそうです」
「なんだろうな、地上の事には興味ないんだがな」
地下2階層に来ていたジョンを転移で最深部へと連れてくると、ジョンが何やら慌てている。
「大丈夫だったかいマスター?」
「何が?」
「巨大地震だよ! ここら辺は大変な被害が出てるんだ」
「??・・・・・・」
ジョンが言うには、この付近を震源地にする巨大な地震が起こったのだそうだ。ダンジョン都市の空港は滑走路が破壊されて使用不能、街の建物にも甚大な被害が発生しているのだそうだ。更にこの都市と他の都市を結ぶ道路も崖崩れや橋の崩落で使用不能になってるらしい。
「ここは全然揺れなかったのだがな」
「えっ! マジ」
「中に居る人間達に聞いてみれば良いんじゃないか?」
「うん、そうするよ」
それからダンジョンの中にいた人間達に確認を取るジョン。ダンジョン内にいた人間は全員地震に気がついて居なかった、ダンジョンは外部の影響を受けなかったのである。
ダンジョン都市の住人は震災で住むところが無く成った人間が大勢出た様だ、そこで俺は地震の影響が無いダンジョンの地下2階に被災者を受け入れることにした。そして怪我をした人間達にポーションを配って怪我を治してやった。そしてそれが後の悲劇を生む事に成るのだが、その時にはまだ誰も気がついていなかった。
巨大地震から約2ヶ月程経ったある日、ダンジョン都市や周りの災害復興はあまり進んで居なかった、やはり道路の復旧が進んで居ない事が最大の原因だった、物資が届かないので復旧が進まないのだ。滑走路なども戦時用の物資で一応使える様にしたが、普通の旅客機では使用出来ず軍用の頑丈で荒地に強い貨物だけが空港を使用出来る様に成っただけだった。
そしてダンジョンにロクでも無い代表者が現れた。
「マスター、何か変な奴が来てますよ。マスターに会わせろって騒いでいます」
「メンドクセー~な、追い返せ」
「それが何度言っても帰らないんですよ、殺っちゃって良いですか?」
「仕方ね~な、会いにいくか。知らない奴をここに呼ぶのは嫌だからな」
そしてダンジョン地下2階層に行くと、問題の奴がいた。大量の秘書付きで何だか凄く偉そうに踏ん反りかえっている。
「君がダンジョンマスターかね?」
「ああ、そうだ」
「国連からの通達を伝える、心して聞くように」
何だかメンドクサソウナ奴だった、本部の有るアメリカでは大不評の国連の連中だ。国連を傘に来て法律違反をバンバンやる連中だな。
「君のダンジョンを国連が管理する事になった。直ちに明け渡す様に、君の住まいは国連が好意で用意する。更に年金も付ける、どうだい寛大な処置だろう?」
「失せろ!」
「ななな! 国連に逆らう気か! 正気なのかね君!?」
「それが国連の意思なんだな、それで良いんだな!」
「これは既に決まった事だよ君、無駄な抵抗はやめたまえ」
「コア! 戦闘準備! これよりダンジョンは世界を相手に喧嘩する!」
「了解しましたマスター!」
「やっとかマスター、待っていたぞ!」
「グフフフ、吾輩の出番がやって来ましたな、この世の地獄をお見せしましょう」
その日俺は全人類の敵となった。




